アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「天皇退位」で「挙国一致」図る安倍・自民、同調する野党

2017年01月21日 | 天皇制と政権

    

 20日の施政方針演説を安倍首相はこう切り出しました(写真中)。

 「まず冒頭、天皇陛下の御公務の負担軽減等について申し上げます。現在、有識者会議で検討を進めており、近々論点整理が行われる予定です。静かな環境の中で、国民的な理解の下に成案を得る考えであります」

 なにげない言葉のようですが、これには重大な意味が隠されています。カギは「静かな環境」。その意図するところは、年頭の伊勢神宮での首相会見(4日)に表れています。

 「(天皇の退位について)極めて重い課題だ。決して政争の具にしてはならない。政治家は良識を発揮しなければならない。静かな環境で議論を深めるべきだ」(5日付共同配信)

 「静かな環境」とは決して「政争の具」にしない、すなわちこの問題で政党間は対立してはならないということです。言い換えれば、安倍政権がやろうとしている「一代限りの特別法」で丸く収めようということです。これは「天皇退位」をめぐる異論封じに他なりません。

 「政府、与党は退位を陛下一代に限る特別法の制定を見据え『政争にすべきではない』と野党をけん制し、全会一致の方向へと誘導する構えだ」(20日付中国新聞=共同配信)

 重大なのは、政府・自民党だけでなく、これから論議をする立法府の長である大島理森衆院議長(本籍自民党、写真右の右から2番目)の口からも同じことが公言されていることです。
 大島議長は19日、両院正副議長と8政党・2会派代表の「合同会合」の後、記者会見でこう述べました。
 「政治全体がオールジャパンとして結論を出さなければならない」(20日付共同配信)

 さらに重大なのは、こうした「異論封じ=全会一致への誘導」に対し、野党側から何の反論・批判も出ていないばかりか、逆に迎合する言動が相次いでいることです。

 大島議長は「オールジャパンの合意」を「3月上中旬」にはまとめるという「スピード決着」の意向を各政党・会派に示しましたが、これに対し民進党の野田佳彦幹事長は、「合意形成を目指すことに努めたい」(20日付共同配信)と同調しました。同党の岡田克也前代表はすでに昨年末の常任幹事会で、「特別法は絶対に駄目だと言い過ぎれば、静かな環境ではなくなる」(同)と、安倍首相の言葉かと思うようなことを言っています。

 一方、昨年結党以来の方針を転換して天皇出席の国会開会式(写真左)に出席して頭を下げた日本共産党も、「できる限り急いで議論する」(小池晃書記局長、20日付共同配信)と大島議長の「スピード決着」の提起に応じました。それどころか、民進党が「皇室典範改正」の見解を出した際、「党幹部が『対立軸を鮮明にするやり方は問題だ』と与野党対立の激化を懸念したほどだ」(同)と報じられています。

 こうした実態は何を示しているでしょうか。

 「静かな環境」で「全会一致」、「スピード決着」を図るとは、異論を封じ十分な議論も行わないまま政府の方針で全体をまとめるということです。これは新たな「天皇タブー」であり、「天皇問題」をてこにした挙国一致体制づくりに他なりません。
 それに野党勢力も同調するのは、国会が大政翼賛状態になっていると言っても過言ではないでしょう。

 「天皇の生前退位」をめぐっては憲法上重大問題が山積しています。

 憲法は「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」(第2条)と明記しています。一片の「特別法」で退位・譲位(皇位の継承)を認めることがこの規定に反することは明白です。

 そもそも、天皇がビデオメッセージで「退位」についての希望を述べ、「摂政制度」(憲法第5条)を否定すること自体、天皇の政治的関与を禁じた憲法(第4条)に対する重大な違反行為です。

 そして今根本的に問われているのは「国民統合の象徴」(第1条)という象徴天皇制そのものの是非です。

 「静かな環境」どころか、こうした重大問題について激論を交わすことこそ憲法を守る立憲主義の立場ではないでしょうか。

 国会やメディアが翼賛状態を強めている中、市民や識者・学者はどうなのか。
 「天皇退位」をめぐって今問われているのは、この国の、私たち自身の民主主義・立憲主義の実態です。


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