夢うつつ♪つれづれ草子

書いて残しておきたい事が、たくさん出来ました(*^^*)
自分自身のための備忘録なんだけれど…いろいろ書きたいな♪

《宝塚ベルばら50》記念SS② お聞きになった❔お聞きになった❔❗

2024-10-16 10:33:46 | 極私的「ベルばら」語り@危険地帯
お花畑脳全開の第二回でございます。失笑が嘲笑に変わっていくような予感……

《第一話あらすじ》
オスカルは7月14日.、バスティーユで一命を取り留めていた。フローリアン・F・ド・ジェローデルが虫の息のオスカルを抱きかかえ、ムードン城に向かった。
そこはルイ・ジョゼフの亡くなった場所であり、今は国王夫妻が滞在していた。国王夫妻と再会をはたしたオスカルは、フローリアンと結婚する意志を固め、フローリアンを狂喜させる。国王夫妻の厚遇に接し穏やかな気持ちになったフローリアンに驚愕の事実が告げられる。

※なお、本作品は、原作者さま、出版社様とは無関係でございます。

②お聞きになった❔お聞きになった❔❗

オスカルをやわらかな寝台に横たえ、フローリアンはしばし中座した。
「オスカル様は身ごもっておられます」
医師から発せられたひと言にフローリアンは一瞬言葉を失った。
「それで、それでお腹の子は?」
「奇跡です。生きておられます。」
「いつ生まれますか?」
息せき切って尋ねるフローリアンに医師は難しい顔を向ける。
「オスカル様のお身体がかなり弱っておられますので……それはなんとも申し上げられません……」

「聞いたのだろう?」
部屋に戻ったフローリアンにオスカルがはなしかけた。
「もちろんお前の子だ。産みたい。産ませてくれ。何でもいうことはきくから」
たちまちオスカルの顔が涙で濡れ、乾く間もない。
「私も子供の顔はなんとしても見たいものです。どのような協力も惜しみません。」

春頃には気づいていた。ただ、わたしよりもばあやが先だったが。
去年の秋の終わりにフローリアンが婚約者候補として足繁く邸に出入りするようになった。
ただの訪問客ではないので、自分の部屋に招き入れ、ふたりきりになったことは一度や二度ではない。
近衛隊の様子を聞いたり、最近の宮廷の様子を聞いたり、話題に困って手持ち無沙汰にしていたらヴァイオリンを弾いて欲しいといわれた。
しぶしぶヴァイオリンを手に取り、調弦もそこそこにモーツァルトの小品を弾いてみた。
気持ち悪い音程だったが彼のことだから無意味に褒めそやすのだろうと思っていたら、部屋のすみにあったクラヴサンの蓋を開けると
「もっときちんとチューニングしなくては」とAのキーを叩いた。
なのでチューニングし直してまた同じ曲を弾いてみた。
曲が中盤に差し掛かったところで、フローリアンがクラヴサンで伴奏をし始めた。予想外のことで、テンポが狂う。
「そのままお続けください。」
と、彼は淡々と伴奏を弾き続けた。
これは楽しかった。
まだ幼かった頃は小さなヴァイオリンを鳴らすと姉君たちが競って相手をしてくれたがこの邸から姉君たちがいなくなってずいぶん経ってしまった。
「クラヴサンが上手いのだな」
「貴族にとっては当たり前の嗜みです。あなただってこのくらいは弾けるでしょう」
「それはそうだが……」
「私は田舎育ちですがそれくらいの嗜みはございます」
なぜかムキになってフローリアンが言葉を重ねた。
2人で合奏する事が加わり、そうやってフローリアンとふたりだけの時間が増えていった。
楽器の音が漏れるので邸の者たちも安心していたのだろう。
一度しんとした部屋に侍女が菓子を運んできたことがあったが、彼はクラヴサンの前に、わたしはテーブルの上に譜面を広げて熱心に新曲の譜読みをしていたので侍女は不審とも思わず菓子を置いて立ち去った。

ある夕刻に「そろそろ冬ですね。今日は風が強くて寒い」と言いながら、フローリアンが訪ねてきたことがあった。彼に暖炉の前の長椅子をすすめ、彼の、冷えた皮手袋を受け取った瞬間に、身体ごと彼に引き寄せられた。
「なっ❗何をする」
「声を上げないで、マドモアゼル。くちびるを…くちびるだけ私にください。」

フローリアンが訪ねてくると挨拶のようにくちびるを交わし、合奏して、茶を飲んだり菓子を食べたりする。そういう時期が少し続いた。

やがて、フローリアンだけがクラヴサンに向かっているのをみているとわたしも無性にクラヴサンを弾きたくなった。
姉君が残していったクラヴサンがどこかの部屋にあるはずなので、それを私の部屋に運ばせようかとも考えたが、それよりは連弾をしようと思いついた。

侍女を呼びパリの楽譜屋への使いを言いつける。「モーツァルトの連弾曲集を持ってきてほしい」という簡単な手紙も持たせた。侍女たちはパリへの使いを喜ぶ。うちの馬車を出してやるので歩かなくてよいし、厨房や同僚からの頼まれもの等を買うためについでに市場や商店に寄るので良い気晴らしになるのだ。さらにわたしは使いを言いつけた侍女には櫛とかリボンとか小さい道具箱とかのちょっとした小間物を買える程度の小遣いを渡す。これは確か一番上のオルタンス姉さまがなさっていたことだ。「お金が全てではないけれど、お金で買える幸せもあるのよ。」とあのとき姉君はおっしゃっていた。あの頃のわたしはまだ幼くてその意味がよくわからなくて怪訝な顔をしたはずだ。
朝、スープを一皿食べられるかどうかの心配をしながら生活をしている平民がパリには多いのだと知らされてからは、余ったパンを面会にきた家族に渡している衛兵隊員が多いと知ってからは、たとえ些少な金額でもその者が僅かでもホッとできるのであればと今でも小遣いを渡し続けている。

そしてもしフローリアンに知れたら
「それは単なる施しです。相手を甘やかすだけです。あなたは自分の満足のために行なっているにすぎません。そういうことはおやめなさい。」
と言われることもわかっていた。

とにかく、モーツァルトの連弾曲集を手に入れ、わたしはフローリアンを待った。
「今日は何を弾いてくださいますか?」
フローリアンがヴァイオリンに視線を落としながら問う。
「最近はワンパターンだし、連弾でもどうだ?楽譜を用意したぞ」
フローリアンに楽譜を手渡した。
「これは願ってもないことです。モーツァルトですか?あなたならバッハと思いましたが」
適当に選んだ曲をふたりで弾いてみる。
もともとの椅子はふたりですわるには小さ過ぎたので、「これを」とフローリアンが部屋にあった椅子を運んできた。
「すまない。間違ってばかりだ」
「いいえ、とんでもない。この時間が宝物なのですから」
途中でふたりの腕が交差する部分に差し掛かった。タイミングが悪くて、わたしの腕が彼の腕にぶつかった。
彼の腕がわたしの腕を掴んだ。
そして身体ごと引き寄せられ、抱きしめられてくちびるを奪われる。

そうだ…わたしは誰かに縋りたかったのだ。わたしをつつんでくれる誰かに。

やがて…フローリアンに抱き上げられて寝椅子に下ろされるようになるまでさして時間はかからなかった……

身体を重ねたのは3回ほどだったろうか?子を授かるとは思いもしなかった。
まずばあやが気がつき、周囲をうまく誤魔化してくれたので、邸の誰にも妊娠のことは知られずにすんだ。ばあやが倒れたのは間違いなく100%わたしのせいだ。
しかし、湯浴みの世話をしてくれる侍女には気づかれていたかもしれない。

酒もやめず、今まで通り馬に乗り、身体に悪いことばかりしている自覚はたっぷりとあったし、酒の飲み過ぎで血まで吐いて、母親失格の烙印を押されているのにわたしは日ごとに産みたい気持ちが高まっていった。それなのにわたしはわたしのために開かれた舞踏会をめちゃくちゃにして、フローリアンを遠ざけてしまった。フローリアンに包まれると安心する。世界が砂糖菓子で出来ているような気持ちになる。
そうではない❗
わたしは砂糖菓子の世界に安住してはいけないと思ったのだ。だから、思い切って近衛隊を辞めたのだ。
小さい頃、庭で育っている花に水をやったことはあっても、庭の奥の方の畑は見に行ったことがない。畑で採れたキャベツを山積みにして籠に入れて運んでくる侍女を馬上から見下ろして運ぶのを手伝ってやったことすら数えるほどしかない。林檎の木の下を通ったことがあっても、手を伸ばして赤い果実をもいでそのままかじったこともない。自分のために自分の手を汚したことがほとんどないのだ。それは間違っている。そんな世界がいつまでも続いて良い訳がない。フローリアンと結婚するということはそういう世界だけに住むことなのだ。

アンドレには申し訳ないことをした。
彼の眼が不自由でなかったら、あの夜にすべてわかっただろう。だって赤ん坊がわたしの腹を蹴るのだから。何人もの恋人を自慢する貴婦人たちをこれでもかというくらい見て、庶子らしい少年たちが小姓として宮殿を走りまわるのを見かけてモヤモヤした思いでいたのに、わたしは最低だ。
わたしはさかりのついた雌ではないか?
しかもわたしは夜の中でアンドレの子が欲しいと願い続けていたのだ。フローリアンとの子が育っているというのに。このどす黒い感情に私は打ちのめされ身震いした。
それでも正直に打ち明ければアンドレはわたしを受け入れてくれるだろう確信があった。
だが、それすらも私がアンドレの主人だからこそであって、人間としてわたしを許せるのかというとそれはまた別の話であり、許されたものではない。
ここまでなんとか腹の子を護れたのだ。だが、パリには出動したかった。
安穏とベルサイユにいてはあとから後悔が押し寄せてくる!それは確信だった。しかし、腹の子を何としても守り抜かなくては。
正直、もうダメだと思った。
フローリアンに抱かれた馬車の中で腹の中で動く我が子に気づいたときはもうこれ以上の奇跡はないと思ってわたしは泣き続けた。
私が打ち明けなかったので、フローリアンは私が傷の痛みに耐え兼ねて泣いているのだと思ったのだろう。ひたすら髪を撫で続けてくれた。
奇跡の連続だ。
一命を取り留めて、腹の子の命も護れた。
なんとしても産みたい。
わたしの命とひきかえになったとしても新しい生命をこの世に送り出したい。
できれば男の子を産みたい。
そのためにはわたしがもっと体力を取り戻さなくては!
フローリアンにすべて任せよう。
わたしよりも彼のほうがずっと世間というものを知っている。

8月になった。
わたしはまだ生きている。
アンドレが生きていたら今頃どうしていただろうと考える。
多分ふたりしてパリのうちの別邸にでもいるのではないか?
ばあややロザリーにも来てもらって。
だがそれでは私は何もせずに大きなお腹を抱えながら寝ているばかりで邸にいた頃より不自由で貧しくなるだろうが世話してもらうばかりで以前とあまり変わりがない日々を送っているに過ぎなかったのではないか?
わたしは貴族の暮らしから抜け出せないのだ。
生きていく力がないのだ。
そんなわたしでもアンドレは愛してくれるのだろうか❔
産まれる子は祝福されるのだろうか❔
結局わたしはひとりでは赤ん坊のごとく何もできないまま暮らすしかないのだ。
大口を叩いてはみたものの与えられた伯爵領がなかったら、日々の食事もままならないのだろう。
母上に会いたい
フローリアンと今度はバッハの曲を連弾したい。

8月になった。
国王一家は規律や秩序がまだ整わない国民衛兵たちに取り囲まれてベルサイユで暮らしている。
旧来の近衛兵も国王一家に付き従っているが、今や近衛の最高責任者となったフローリアンは南フランスの自邸からうごけないでいる。
そして密かに開かれる茶話会やサロンの集まりで貴婦人たちは囁き続けた。
「ねぇ、お聞きになった?オスカルが生きているんですって!」
「もちろんしっているわ!どうなさっているのかしら?」
「ジェローデル伯爵といっしょに南フランスで療養しているそうよ」
「そればかりではなくてよ。なんと彼女は身ごもっているそうよ」
「秋には生まれるのですって」
「なんと!それでは」
「フローリアンは振られたことになっているけれどれっきとした婚約者でしたのね」
「ジャルジェ家ではご夫人のジョルジェット様もご結婚からすぐのご出産でしたわね」
「あら?そんなことが」
「お若い方はご存じないでしょうけれど」
「ねぇ、お聞きになった?お聞きになった?❗オスカル様がね」
「いやぁ~わたしたちのオスカルさまが大きなお腹を抱えているなんて」
「お腹の大きなオスカル様なんてわたしたちのオスカル様ではないわ!」

(続く)

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《宝塚ベルばら50》記念SS① オスカル・フランソワは生きている

2024-10-08 20:21:11 | 極私的「ベルばら」語り@危険地帯
1。オスカル・フランソワは生きている:
《はじめに》
約20年ぶりに2次創作を゙書きました。ジャンルは《JO》(⬅この言い方は今でも通用しますか?本当はというか正確に言えば💦≪GO≫です。)
久しぶりに調子に乗ったのはいいのですが「有り得ない設定」と「矛盾」と「密やかな願望」だらけになりました🙇

(1)「オスカル・フランソワは生きている❔❕
全4回を予定。完結出来るといいな💦よろしければ笑いながら読み飛ばしてくださいませ。(失笑モノ😁)


その噂は夏が過ぎ秋の声を聞くようになっても途消れなかった。
あの日オスカルが逝ったのが事実として伝えられてきたことであったし、バスティーユで銃撃されて倒れたのは何人もの人間が目撃しており近しい人々が最期をバスティーユの石畳の上で看取ったと言い伝えられてきたことであったが、あの7月14日以来オスカルの姿が目撃されなかったのも事実である。由緒ある家柄ので出身で謂わばバスティーユの英雄であったのに、最期の祈りは何処の教会であげられたのかどこに葬られたのかを誰に聞いても答えが帰ってこないことから実は「オスカル・フランソワは生きている」という噂が途切れないのだった。信憑性がある噂としてはオスカルの近衛隊時代の副官であったジェローデル少佐が混乱に乗じて営倉を脱出し、虫の息のオスカルをだきかかえ、洋服が血で汚れるのも厭わず馬車で南に向かったと言うことだろうか?ジェローデル少佐といえばオスカルに正式に求婚して振られたという話は有名であったから、世間もさもありなんと納得したのだった。そのジェローデル少佐でさえ、目撃されていない。

ムードン城にて。(1789年の7月末のこの時期、国王一家がムードン城に滞在しているとは思えませんが目をつぶってくださいませ🙇)
「オスカルまた会えて余はこんなにも嬉しいことはないぞ。そちが死んだと聞いたときは目の前が真っ暗になったものだ。オスカル、われらよりさきに逝ってはならぬぞ」上気した頬で二人を迎えたルイは言う。
「ジェローデル、オスカルを死なせたら余も王妃も決して許さぬ。オスカル、そのからだではもう軍務は無理であろう。ジェローデル、そちはどうする?」
「私は近衛でございます。さいごまで両陛下にお仕えしたく存じます。」
「それならば衛兵隊に゙うつるまえのオスカルの職責を引き継ぐが良い」
「官位は准将で良いな?」
「望外の喜びでございます!」
「オスカルをここまで運んできてくれたのだ少将でも中将でもの望み地位はあるか?」
「准将で充分過ぎるほどでございます」
「命の恩人なのだ……中将でも良いのに………」虫の息のオスカルがつぶやく
「これは……あなたらしくもないことを仰る」
「准将という地位はあなたが長い時間をかけて手にした地位です。
私にとってもこの地位は宝物でしかありません。
大事に努めさせていただきます。」
「どんな大元帥でも少尉から実績を積み重ねていくものだ。オスカル・フランソワ、君は望めば10代で将軍にもなれたのにそれを望まなかった。ーあの強欲な、ポリニャック夫人ですら、君と王妃様の絆に嫉妬していたというのに。君が地位をねだるようなことがあったら、軍隊の志気はもっと乱れていたことだろう。」国王に付き従っていたブルボン公が口をはさむ。
「分不相応な地位は連隊全体ひいては近衛の士気の低下を招くだけですのでわたくしは近衛時代は大佐で十分でございました。しかも少佐も中佐も経験していないのです。」
「これでは地位をねだったと思われても仕方がありません」
「そんなことは……❕」ジェローデルが気色ばむ。
「あれが権力に酔ったアントワネットさまの一存での昇進であることは軍の幹部なら誰でも知っておる」
「当時は愉快に思わなかった者も多々あったが君はその後長い間、近衛を問題なく運営し、ヨーロッパ随一と言われる地位にまで押し上げた。」
「何よりも嬉しきお言葉を賜り恐悦至極でございます」
緊張しながらやり取りをしていたオスカルの肩の力が抜けて支えていたジェローデルに゙全体重がかかる
ジェローデルはしっかりとオスカルを抱き直した。
「戦いとなりますと軍馬や銃器の数だけが注目されますが、後方の兵たちの食料や衛生にも気を配らねばなりません。世間では政府が深く考えずに独立戦争に参戦し多額の戦費を浪費したように言われていますがあれだけの船団を送り出し迎え入れるのに要した後方支援の費用に触れているパンフレットはないように思います。ブルボン公、このジェローデルはそういう計算能力に長けた人物でございます。必ずフランス軍の役に立つ人物と思われます。」苦しく痛いだろうに、軍人としての姿勢を貫くオスカルにフローリアンは驚愕し、感心した。
オスカルの軍人としての自分を評価する言葉がフローリアンの胸に染み渡っていった。『宮廷の飾り人形』『顔だけ近衛』ではなく地に足が付いた軍人であることができたのだという満足感がフローリアンを包み、オスカルを抱く手に一層力が入った「いた……い」オスカルの呻きに「これは失礼いたしました。」フローリアンはオスカルの全体重をその胸板に受けとめた
「何も心配せずに私に任せてください」
「わかったありがとう」

オスカルを抱き止めながら、もっと鍛え抜かれた厚い胸板を持っていたであろう恋敵を思い出す。

※ブルボン公は王家の支流として代々仕えたブルボン・コンデ家ですがここでは「アンギャン公」と呼ばれたルイ・アントワーヌ(1772〜1830)の父ルイ・アンリ(1756〜と1830)いうことにしておきます。※「アンギャン公」は『皇帝ナポレオン』に登場しますが、汚名を着せられての痛ましい最期でした。しかもこの時期ブルボン公はすでに亡命している可能性が高いです。リサーチ不足ですみません🙇※

「フローリアン、その…オスカルと家族になるのであろう?」……
おずおずと問うルイに対し
「もちろんそのつもりでございます❕」
間髪を入れず、フローリアンは答え、「オスカルもそれでよいのだな?」
「は…い」
オスカルを抱く手に一層力が篭る。
正式に求婚して正式にこっぴどく振られ、「身を引きましょう」とまで宣言した自分であった。それがこうあっさりと「ウィ」の返事をもらえるとは🥰ムードンの森中を馬で駆け回りたい気持ちである。先に逝った恋敵にすまなさを覚えつつ「アンドレ、すまない。オスカルは私に任せてくれ。そのかわり、けっして後悔はさせない。自分の命同様に大切なのがオスカルなのだから。」と固く誓う。
「ならばしばらくはこのムードンで暮らすが良い」
「ジョゼフ付きだった医師たちもまだ残っているから、治療も受けられよう。。
あまりの厚遇にフローリアンが驚いていると流石にオスカルも同様だったらしく、「あまりに勿体ないことでございます。」
「ジョゼフは最後までそなたに会いたがっておった」
「王太子殿下のご成長を見守れなかったのがいちばん悔やまれます」
フローリアンにはまだ話の核心が見えない。
「フローリアン、驚くでないぞ。なんとジョゼフはこのオスカルに求婚したのだ」
「は❔❕」
「小さな子どもによくある戯れ言ではなく、本気だったらしい」
「オスカルに馬に乗せてもらったあと、それはそれは嬉しそうに私に語ったのだ」
「それであなたは承諾したのですか?」
「もっともっと頻繁にムードンに来ることを約束いたしました……」オスカルは言葉を濁す。……だがわたしは三部会が開会してからは忙しさにかまけて、ムードンから足が遠のいた……オスカルは後悔の念に苛まれた。
「馬に乗せてもらったこととオスカルとふたりで話せたこと。あんなに嬉しそうなジョゼフの様子はついぞ見たことがなかった」
「この様子ではジョゼフの命は延びるのではないかと期待するくらい生き生きとしておった」
「だからオスカルは家族も同様なのだ。それはフローリアン、そなたも同じである。だから好きなだけここで暮らせばよい」
「あなたはそれでよいのですか?」
「はい、ここに留まらせていただけたら幸いですが…しかし…」
恋敵は一人ではなかったのか……とフローリアンは不遜にも考える。
「ですがアントワネットさまのご意向は❔」
「王妃に詳しいいきさつ知らせておらぬが反対はするまいよ」
「しかしわたくしは……陛下と妃殿下をお護りできませんでした」
「いわば裏切り者でございます。わたくしを匿っては王家の威厳に傷がつきます。」
一番気になっていたことをオスカルが言い出した。
「そういうこともあるかもしれぬが今になって考えればオスカル、お前があの行動に出なければはバスティーユではもっともっと血が流され、暴動は翌日以降も続いて何日も収拾出来なかったかもしれぬ。」
「しかし……」
「ではオスカル、そなたは平民相手にたたかえたか❔」 
「たぶんそなたのことだからバスティーユの占拠はできたであろう」
「問題はその後である」
「ドイツ人騎兵はともかくとして、平民を蹴散らしてバスティーユへの侵入を一切許さずバスティーユを占拠出来たか?」
「戦闘経験がほとんどないわたくしの指揮ではそれは無理だったかと。」
ルイは驚くほど雄弁であった。
「ならば、そなたのとった行動を裏切りと断じるのはまだ時期尚早ではないか❔そなたが何もしなくてもいずれ革命は起きたのであろう?」
「陛下、勿体ないお言葉でございます。」
「だから心配せずにこのムードンで身体を休めるがよい」
「さすがにそういうわけには……フローリアン、すまないがしばらくしたら別のところに連れて行ってくれ」
「それならば私が育った里親の館が南のほうにございますのでそこにまいりましょう。陽射しは多少強いのですが、景色と空気はきれいな場所です。」
「そういえばおまえと始めて会った子供の頃、おまえは日焼けしていたな。」フローリアンにとってはあまり思い出したくない過去である。
「よし、そこで私は元気になる。」
「オスカル、くれぐれも早く逝ってはならぬぞ。早すぎるとあちらでジョゼフが驚くであろう。」
「はい、是非また陛下にお逢いしとうございます。」
「フローリアン、くれぐれもオスカルのことは頼んだぞ」
「ははーっ、この身に変えましてもオスカルを守ります。」

けたたましい靴音が静寂を破った。
「オスカルオスカル!どんなに心配したことか……まあ!こんなひどい怪我をして!直してあげますからね、オスカル」
取るものも取らずという格好でアントワネットが駆けつけて、オスカルの前にひざまずく。
「王后陛下、もったいないことでございます。」
思わずフローリアンは叫んだ。コルセット無しでもなんとか着こなしが出来る簡素なシュミーズドレスのアントワネットは髪もゆいあげられてはいない。
一国の国王と王妃からオスカルに寄せられる厚情にフローリアンは眼を見張る思いだった。
「私はアントワネット様をお守りすることができませんでした。……」
「あなたは後悔しているの?」
「申し訳ありません。後悔は……ありませんが、もう二度と陛下の前に顔を出せるような身の上ではなくなりました」
これ以上ないと思われる苦悶の表情をフローリアンは黙って見つめているしかなかった。

「それならば、これから私達を守ってくれればいいわ」
「しかしわたくしはこの身体では……」
「私達の側に居てくれればそれでよいのよ。だから元気にならなくてはダメよ、オスカル。」
「そうだ。我々の相談相手をつとめてくれればそれでよい。」
ルイが口を挟んだ。
「相談相手などと恐れ多いことでございます」
「堅苦しく考えなくてよろしいのよ。世の中が変わってしまうのだから。」
「はい……またアントワネット様にお逢い出来ますようつとめます。」
「あら、どこかへ行くの?それはだめよ。傷に悪いわ」
「南の方にわたくしの領地がございますのでいったんそこで、オスカルを静養させようと思います。」
フローリアンが説明を加えた。
「まず今いる医師に手当てさせましょう」
「そうだ、話はそれからにしよう」

そしてジョゼフ付きだった医師が呼ばれた。
医師は難しい顔つきでオスカルの傷を診ると
「ジェローデル伯爵、少しよろしいか?」
とフローリアンを促した。 
天にも昇る気持ちとは、この驚きと喜びのことを云うに違いない。

オスカルさまが生きていらしたのですって❗」
「今どこにいらっしゃるの?」
「ジェローデル伯爵とご一緒だそうよ。
南フランスのジェローデルさまのご領地にいらっしゃるそうよ」
「おふたりは結婚なさったのね」
「でもお怪我が酷かったのでは!?」
「またベルサイユでお会いできると宜しいわね」
まもなく世の中の潮流に飲み込まれるのをまだまだ自覚できない貴婦人方の間に噂が飛び交った。まだベルサイユの一角には砂糖菓子の世界が残っていた。

(続く…)

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