あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

小林美文中尉 「 それなら、私の正面に来て下さい。弾丸は一発も射ちません 」

2019年07月23日 18時55分21秒 | 安藤部隊

     
26日                                 27日                               28日                          29日                          

二十八日午前六時頃、
福吉町附近に新井中尉が、第十中隊を指揮して配備に就いて居りますので、
隣接中隊の関係上、大隊長にお願いして 新井中尉の許に連絡に出かけましたが、
途中から新井中尉の所へ行くのは止めて、幸楽に居る安藤大尉の所に行く気になりました。
大隊長は大隊本部の位置におらずに、
説得のみ歩いて居るので、私もじっとして居られず、
此の以前に一度大隊長に行動隊へ説得お願ひしましたが、
御許しがないので、其の儘になつて居りましたが、
新井中隊へ連絡に行く心算で出で、福吉町の所へ行く途中、
何とはなしに幸楽の方へ足が向いて行きました。
私は安藤大尉に対する説得は駄目だと聞いて居りましたから、
説得はせずに、次の話を交はしました。
安藤
「 よくきて呉れた。」
小林
「 私は貴兄を説得は致しません。
唯、聯隊の将校は皆全知全能を絞って文字通り真剣になつて居ります。
貴兄の所謂 昭和維新と言ふのも出来た様に思ひます。
私としては、是非聯隊の方に帰って来て戴き度いと思ひます。」
安藤
「 さうか。
然し、近衛の方は猛烈に攻勢の意図があるし、
幕僚等のやることがどうもお可笑しい。
我々は小藤大佐の指揮下に在り乍ら、野中大尉が真崎大将と直接交渉して、
小藤大佐が中に這入って居らぬ等、
どうも幕僚のする行為は分らぬ事が多いから、頑強に抵抗しようと思ふ。」
小林
「 頑強に抵抗するなら、此の配備を突破したら良いでせう。」
安藤
「 突破して聯隊に行こうかと思ふ。」
小林
「 それなら、私の正面に来て下さい。弾丸は一発も射ちません。」
安藤
「 秩父宮殿下が御出になつて居られるを見たが、
誰か聯隊の者が行って呉れゝば、直ぐ解決するのだがなあ。
此の事件を起こすときには、
予め殿下に連絡すれば、直ぐ御出になると言はれて居ったがなあ。
誰か行って呉れないかしら。」
「 主謀者は自決し、兵は返すと言ふことなら、話が分かるが、
麦屋少尉外 新任少尉三名は自決を許して貰い度い。」
と 言ひました。
次いで、安藤大尉が、高橋少尉に遭って来いと言ひますので、
高橋少尉の寝て居る所に行きまして、
「 どうした 」 とか 何とか掛声をしまして、
一寸安藤さんとの会話の事柄を話した様な気持もしますが、
兎に角 二、三分 煙草を吸ひながら、無言の行で顔を見合せつ、
同じく其処へ寝て居る 坂井中尉、麦屋少尉とも顔を見合せた儘、直ぐ別れました。
其後、安藤さんも探しましたが、見当らないので、
安藤さんに逢はねば済まない様な気がしましたので、
洗面中の高橋少尉に 安藤さんに宜しく伝へて呉れ、
と申しまして、幸楽を出て行きました。

« 二月二十九日 »
午前一時頃大隊長である伊集院少佐が説得に来た儘要領を得ませんで、
大隊長の様子を見に行く為に山王ホテルに出かけました。
山王ホテルの玄関の所へ行って見ると、
伊集院少佐と安藤大尉、山本又予備少尉と三人で激論して居りました。
其処には内堀大尉、河野薫中尉も居りました。
その時 警備司令部の少佐参謀が来まして、
安藤大尉に、「 兵の前で自決しろ 」 と云ひました所、安藤大尉は憤慨しました。
其処で、伊集院少佐が 「 大隊長が命令するから、兵の前で自決しろ 」 と云ひましたので、
安藤大尉は自決することになりました。・・・リンク→「 中隊長殿、死なないで下さい ! 」 
其の時、村中、磯部が居るのも見ました。
又、栗原中尉、丹生中尉、香田大尉の居るのも見ました。

憲兵調書  二・二六事件秘録 (一) から