あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

下士官の演説 ・ 群集の声 「 諸君の今回の働きは国民は感謝しているよ 」

2019年07月17日 15時16分34秒 | 安藤部隊


二十八日
幸楽山王ホテル附近に於て軍人のしたる演説要旨
一、山田分隊 ・山田政男伍長
新聞紙の報道に
青年将校が首相官邸を襲ひなどゝ称し居るも吾々は尊皇軍である、
吾々は 決して上官の命令で今回社会の賊物を殺したのではない、
全軍一同が奮起したのである。
吾々は 今後と雖も
財閥軍閥元老政党等の腐敗毒物を叩殺し
そして北満守備の為め出征するのである、
是等国賊を全滅せしめないで出征することは実に心配である。
吾々は 斯かる国賊を叩き切る事は全く上御一人をして御安心遊さる様
又 国家皆様も安心して生活することが出来る様に
全く国家の為めに出動したのである。
是を同じ皇軍の吾々を友軍が我々に向て発砲することは何事である
万一発砲する場合は固より人を殺している吾々である、
一兵卒となるとも戦ふのである。
諸君は今度のことは良く知るまい、
齋藤はどうだ頭に三十発も鉄砲弾を喰ひ 其上首を切り落され頭は真二つになつている。
鈴木の頭には 此山田がピストル三発ぶち込んだ。
首相は池の中に死体を叩き込まれたのだ。
是れで終るのではない、
是れから未だどしどし国賊は叩殺すのだ、
国家に対する国賊を皆殺にするのが目的だ、
悪いものがなくなれば良者が出て国家の政治を行ふは当然だ。
一日も早く悪い者を殺すのが国民の腹の底にある考へを吾々が実行したのだ。
吾々の背後には尚我等の意志を継いで呉れる者がある事は心中喜ばしいのである。

二、堂込小隊長 ・堂込喜市曹長
堂込小隊の旗を背負はしめ 日本刀を持ち半紙二枚の声明書を群集に向て朗読す。
其内容は主として
尊皇愛国の精神を説き
軍人にして財閥と通じ皇軍をして私兵化せしむる如き国賊は
之を排除し其他国家の賊物を悉く打ち斃し、
次いで国家の安泰を計るが目的である云々
諸君
吾々は 歩兵第三聯隊安藤大尉の部下である、
吾々は 之より死を覚悟して居るものである、
而して 私の希望は何物もない。
吾々には国家の為に死ぬものである、
遺族の事は何分頼む

と 述ぶ
此時一般群衆の動静は
甲 是れから尚国賊をやつて仕舞へ。
乙 愛宕山の放送局を占領して今の声明書を全国に知らして下さい。
丙 買収されるなよ。
丁 腰を折るな確かりやれやれ。
戊 妥協するな。
     大勢御苦労であった。
甲 なぜ牧野、一木をやらなんだのです。

山田伍長 牧野は焼き殺されて居るのだ。
と 云ひ 次いで言を亜ぎ
諸君 吾々に共鳴するなら 一木でも牧野でも打殺して来て呉れ
と 云ふ。
群衆の声  諸君の今回の働きは国民は感謝して居るよ
追て当時の群集は凡そ数百名ありたりと謂ふ

現代史資料23 国家主義運動3 より