日々遊行

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葛飾北斎 冨嶽三十六景 奇想のカラクリ

2017-10-27 | 絵画
パスポートのスタンプ欄に葛飾北斎の絵が起用されることになった様々な富士の絵。
江戸後期の代表的浮世絵師・北斎の冨嶽三十六景に10点を加えた全46景と
彼の娘である葛飾応為の「吉原格子先之図」を同時に展示する太田記念美術館の展覧会は
見逃せない機会で楽しみにしていた。



日本各地から見た富士山を描いた冨嶽三十六景。
江戸時代には富士への信仰、憧れ、又は楽しむ山として全国から人々が富士山へと向かった。
日本人のこころの中に存在する富士。

北斎の絵は人気を博し、10枚が追加され全46景となった。
最初の36景は「表富士」、後の10景は「裏富士」と呼ばれる。

全46景の所々に隠された北斎のからくり。
絵をみてすぐにはわからない風景に北斎流の美の視点で描いている発想が面白い。
そして静けさや風、時刻の変化、音までを見る者に与える描写。
見応えのある展示会だった。


世界の愛好家をとりこにした「神奈川沖浪裏」

しぶきを散らしながら大胆にせりあがった波。
横浜市神奈川区あたり沖のダイナミックな表現。
遠くの富士に対して手前で荒れ狂う海は躍動的で魅力ある代表作。

三十六景の中で唯一の雪景色「礫川雪ノ且」

且は「旦」の彫り間違いだという。したがって「こいしかわゆきのあさ」と読む。
小石川は現在の東京・文京区。
一晩降り続いた雪で、あたり一面銀世界の朝。
女性たちが茶店から冠雪の富士山を眺めている冬の情景。

「甲州三坂水面」

緑の木々が裾野に広がるここは現在の山梨県の河口湖あたり。
富士山は夏の姿を描いているが
湖面に映る富士は、左にずれているし雪を頂く冬の姿だ。
少しばかりの理不尽も平気で描いてしまう北斎の個性が光る。

「遠江山中」

遠江は現在の静岡県西部地方。
画面を斜めに横切り誇張された大きな角材が目を引く。
しかしこの角度で作業するのは達者な職人でもすべり落ちる危険がある。
そんな不安は無用とばかりの豪快さ。

「東海道品川御殿山ノ不二」

江戸湾のすぐ近くに位置する品川の御殿山。
桜は満開。人々が花見に興じているその向こうに富士山が。
しかし御殿山から正面に湾を見おろした時に富士は見えず
海岸まで降りなければ富士山を裾まで見ることは出来ない。
北斎は絵筆を動かしながらきっと心の中でつぶやいただろう。
「こう見えたらいいな」。

そして葛飾応為が描いた肉筆の「吉原格子先之図」。
吉原遊郭にある「泉屋」で「張見せ」の情景を
花魁の華やかな明るさと、中を見る男性客を闇に沈めた絵。
提灯の灯りで明暗がぼやけ、さらに幻想性を増している。
待ち望んだ応為の作品だった。

日本の浮世絵は世界で唯一のもの。
葛飾北斎と応為の作品を同時に観賞できたこの展覧会。
偉大な文化の一端に触れられた一日だった。

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