ジュリアン・バーンズ、『終わりの感覚』

 『終わりの感覚』の感想を少しばかり。

 “人生が長引くにつれ、私が語る「人生」に難癖をつける人は周囲に減り、「人生」が実は人生でなく、単に人生についての私の物語にすぎないことが忘れられていく。” 117頁
 
 とても素晴らしかった。記憶と時間とは、どうにもならないことにおいて最たるもの。記憶を歪めるのは果たして罪なのか、本当のことを知らぬままにしておくことは…? と、途中でしばし立ち尽くした。そして、命ある限りは何処までもつきまとう痛みについて、その痛みと供に歩み続けるしかない人生について、静かに思いをめぐらせる。左程長い物語ではないけれど、無音の場所に身を沈めていくような読み応えがあった。
 最後の最後に明るみにされた真相の重みに対峙しつつ、あらためてタイトルの意味を考えていると、遣る瀬無い悲哀が胸に迫る。けれど、読んでよかった…と心から思った。
 
 生き残りへの自衛本能が備わっていると自負し、注意深く生きてきた“私”アントニー・ウェブスター。この物語は、主人公トニーの学校時代の回想から始まる。高校で得た3人の友人のこと、とりわけ、頭がよくて優秀な、どの教師からも特別扱いされた親友エイドリアンのこと、高校を卒業した後、初めての恋人が出来たいきさつ…。人生の(そして、時間そのものの)スピードアップは、本人が知らぬ間に始まっていた。いくつかのアドバンテージをもらい、いくつかのダメージをくらいながら…。
 不本意な別れも、模範的な死も、トニーに備わった“ある種の自衛本能”によって、心と歴史から締め出され、埋没していった。それが正しかったのか間違いだったのかは、誰にも決められない。でもそれはまた、なんと苦しいことだろう…。
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12月21日(金)のつぶやき

@rinakko 07:11
おはよございまず。珈琲を切らしてマテ茶にゃう。南米やね。

@rinakko 07:16
@shiki_soleil 四季さん、朝からツーリングエクスプレスの話ですか。濃ゆいです(笑)。私が読んでいるのもその辺りまでなのかしら。シャルルとディーンがまだ…(もにょっ)。全28巻も凄いなぁ。懐かしいです^^
@rinakko 07:19
ツーリングエクスプレスは、シャルル君が落ちそうで落っこちない危うい感じがよかったじゃんね(て、途中までしか読んでないけれど)。
 @rinakko 08:17
@shiki_soleil ぎくっ。いやー、その後をちらっと立ち読みして、吃驚したことがあったのです。シャルルがすっかり妖艶になっていて、ディーンと別れるとか別れないとか言っているので、そっちにいったかと(笑)。あの叔父さんとはどうなったのでしょうね…。うーむ、懐かしい。

@rinakko 11:45
【十蘭ビブリオマーヌ (河出文庫)/久生 十蘭】を読んだ本に追加

 満喫した。とりわけ好きだったのは、「レカミエー夫人」と「妖婦アリス芸談」、歴史ものでは「凋落の皇女の覚書」。「あめりか物語」は、苦い読後感が疼く。からりとして粋な話、それでいてふるっている話の方が、どちらかと言えば私は印象に残り易いようだ。

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