ケイト・アトキンソン、『世界が終わるわけではなく』

 『世界が終わるわけではなく』の感想を少しばかり。

 “「それが駄目なら」 トゥルーディには取り合わず先を続けるシャーリーン。「男の人くらいの大きさの猫がいいな」” 17頁 
 
 シュールでキュートで面白楽しかった! むぎゅっ! 短篇集ではありながら、ここにもそこにも、あららここにも…と、思いがけないところで幾つも繋がりが見付かる、ゆるゆる結び合わされた12篇だった。散りばめられた神話のイメージが、世界を包み込んでいる。曙の女神エオス、月の女神セレーネ、アルテミスの銀のサンダル、ふいに垣間見えるメタモルフォーゼの瞬間…。そして2度読み確認まで、みっちりと満喫した。

 まずは1話目「シャーリーンとトゥルーディのお買い物」で、きゅっと掴まれた。食品フロアの蜂蜜売り場や、ホテルのラウンジでの、他愛もないけれどちょっと変な、その変具合が妙に魅力的な女友達同士の会話。とめどない2人の妄想と、大変なことになっていく町の状況とが、明後日の方を向いたまま突き進んでいく。シュールとキュートの匙加減が、堪らない読み心地だった。

 12篇はどれも堪能した話ばかりだが、他にとりわけ好きなのは、「テロメア」、「予期せぬ旅」、「猫の愛人」、「時空の亀裂」、「プレジャーランド」。
 旅人気質の血が流れ、圧倒的に女性が優勢なゼイン家の系譜が印象に残る「テロメア」は、不老不死の研究に憑かれたメレディス・ゼインの話。“ラミアめく人物”の登場からの、瞬く間の流れが鮮烈で息を呑む。
 “断トツに出来のいい”八歳のアーサーと、経験豊かで聡明な子守(ナニー)であるミッシーとの交流を描く「予期せぬ旅」は、とにかく二人が一緒にいて、何かしら微妙な気分を共有している感じがよかった。距離を保ちつつわかり合っている共犯の雰囲気…とでも言おうか、その描き方が好ましい。そして、わくわくと浮き立つラストが素敵だった。 
 「猫の愛人」は、悪夢のようでも怖い童話のようでもあり、ざらりとエロくて血腥い話。最後の場面が焼き付いた。「時空の亀裂」は、絶望的な交通事故に遭ったマリアンヌの、その後の数奇な物語で、一風変わった幽霊譚みたいでそうとも言い切れない…ところが面白かった。そして「プレジャーランド」の、締めくくりの余韻が大好き。ふふふ。
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