飯沢耕太郎さん、『フングス・マギクス』

 『フングス・マギクス ― 精選きのこ文学渉猟』の感想を少しばかり。

 “文学はきのこである。あるいは、きのこは文学である。” 7頁 

 すこぶる面白かった。茸尽くしで大満足だ。隅々まできのこ! 魔法のきのこ!
 そも“きのこ文学”とは何ぞや…というとば口から、ぐんぐん森の奥深くへと踏み入るが如くに、きのこという視点から文学を見つめ直す驚きのエッセイである。何しろ、食べる茸こそ好物の一つだが、文学と結び付けることなどなかなか思いも寄らない対象なので、目を瞠ったり唸ったり、面白楽しいことと言ったら…(ふふふ)。

 まず序章にて、文学者たちにインスピレーションを与えてきた要素として、きのこの中間性、魔術性、遇有性、多様性が挙げられ(後から両性具有性など加わる)、次章からは各々の観点に沿って古今東西の文学が取り上げられていく。
 『不思議の国のアリス』「青虫の忠告」のマジック・マッシュルームや、イテリメン族の神話に出てくるベニテングダケの件。冬虫夏草のイメージが窺える『田紳有楽』に、映画『マタンゴ』が影響を及ぼした幾つかの作品。『テンペスト』、『官能小説用語表現事典』、『とくい顔だねスヌーピー』、『澁澤龍彦との日々』、『驚異の発明家の形見函』…などなどなど。茸類が誇る多様性に相応しく、作品の方も多岐にわたる。既読でも未読でも、大変興味深い内容が詰まっていた。
 あっ!と思わず声を上げたのは、ソローキンの『ロマン』。確かに印象的だった場面に触れているので、言われてみれば…と、がくがく頷きまくったことよ。村田喜代子の「茸類」も、読み返したくなった。

 読み終える頃にはすっかり、新たな“きのこ文学”を待ち兼ねる気満々だった。これからは、きのこ文学渉猟という見地からも、小説を読んでいこう…と胸をふくらませた次第である。
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