パピとママ映画のblog

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ジミー、野を駆ける伝説 ★★★★

2015年01月23日 | アクション映画ーサ行
『麦の穂をゆらす風』などのケン・ローチがメガホンを取り、1930年代のアイルランドを舞台に、庶民の自由のために戦った無名の活動家を描くヒューマンドラマ。
あらすじ:1932年のアイルランド。内戦終結から10年が経過し、元活動家のジミー・グラルトン(バリー・ウォード)が10年ぶりにアメリカから故郷の片田舎に戻ってくる。ジミーはかつて仲間たちと芸術やスポーツを楽しみ、語り合ったホールを復活させ、住民たちの間には活気が戻ってくる。しかし、神父のシェリダン(ジム・ノートン)が住民を戸別訪問してホールに行かないようにと警告し……。

<感想>労働者階級の日常を描き続けるケン・ローチ監督。独立戦争に翻弄される兄弟を描いた『麦の穂をゆらす風』、キリアン・マーフィが、自由を求めるアイルランド義勇軍の兵士を熱演した映画に続き、本作でもアイルランド史を題材に、保守的な価値観に立ち向かう人々を描いた名匠ケン・ローチによる人間ドラマである。
内戦終結後にアイルランドを舞台に、アメリカからアイルランドの片田舎に帰郷した主人公が、教会や地主といった権力を持つ者たちに弾圧されながら、それでも仲間たちと共に自由を求めて活動するさまを描いている。

主人公は、テレビや舞台で活動してきたバリー・ウォード。映画で観るよりもずっと若々しく、憂いを帯びた瞳が素敵でかなりイケメン俳優さんで、実年齢は1979年生まれの35歳と若いです。
重厚なテーマや登場人物をみずみずしく描写する、ローチ監督の手腕がさえ渡る映画。保守的な教会や強欲な地主に抑圧された庶民のために闘いながらも、実在の人物でありながら、あまり歴史的には知られていません。
アイルランド問題を扱った映画ですが、20年代不況下のアメリカと、そのジャズ文化も白黒フィルムで始まります。伝説の男ジミーがアメリカの気風が乱れる文化を故国アイルランドに持ち込んで、若者たちに危険な娯楽熱を普及したという理由で、支配階級の憎悪の的となる物語なのです。しかし、対立する聖職者を「考える人」として、笑いをこめて描いたのはさすがにケン・ローチですね。

10年ぶりにアメリカから故郷に帰って来たジミー、元恋人と再会するも他の男と結婚していて子供もいるのだ。それでも、ジミーは彼女への想いを再燃させるのである。彼女もまだジミーを愛しており、隠れて集会所でダンスをする二人の熱々ぶりも見れます。ですが、恋愛が進展することもなければ、キャプラ的な演説が物語を勝利へと導くこともありません。

英国の俳優に頼らず、アイルランドじゅうから集められたという役者たちが、とてもいい顔をしていて自然でとても良かったです。ですので、殺伐とした社会情勢も緑一面の野原をゆく馬車や自転車、昔懐かしい服装を背景に展開するので、見ていて心地よいです。
「私たちは牛馬ではない、人間なのだ」ということも、困難な社会状況を実在の人物をモデルに描くという。ロシア革命が支配層にとっていかに恐怖だったのか、映画に現れる20世紀前半世界の共産主義者や、社会主義者への嫌悪感を見るたびに痛感しますね。
そして、気に入らない個人を、政治や宗教など、束になって虐めるのだ。人間は虐めと正しさと集団が大好きで、希望は次世代に託すしかないのだろう。とはいえ、作品の中ではジミーの政治活動にスポットを当ててはいません。

村の荒れ果てた集会所で、歌を教え絵を描き、ダンスを踊って楽しむという娯楽ですよ。寂びれた農村では、教会に日曜日に行くくらいで娯楽というものが少なかった。
村人たちは、老若男女とわず皆が待っていた集会所での娯楽に、胸を躍らせて毎日の労働を勤しんでいるのだ。それを実践したのがジミーで、10年前に建てた集会所が自分がいない間、野ざらしになっていたのを見て、自分の資金と村人の有力者たちのお金で集会所を建て直した。
毎夜の如く、そこへ集まる村人たち。楽しげに床を鳴らして踊るアイリッシュダンスの見事なこと。それにアメリカから持って帰ったジャズのレコードをかけて、ダンスを踊る若者たち。その集まりに教会の神父や地主たちが恐怖を覚えて、ジミーが村人たちに共産主義を唱え演説して煽動していると反感を持ち、彼をこの村から追放しようと運動するわけ。

ジミーが敵対する神父について仲間と話し合いをするシーンでは、そこで、彼は神父の立場に立って物事を考えようと言います。確かにジミーは策略家であり、他者が共感できる人物であります。彼は共存することの重要性を理解していたのですね。

だから、彼はディスカッションの場で、みんなの意見を聞いた後に、最後にまとめる役を担っています。ですから、何者かに集会所を焼かれてしまい、村の人たちがガッカリしている中、素直に警察に捕まり、自分の生まれた村を出ていくことを承知するのです。ジミーの母親も立派ですね。息子のしていることを理解して、守ってやる。最後に村人たちが自転車で乗りつけて、ジミーを見送るシーンで終わります。
ケン・ローチ監督、引退映画との噂ですが、今後も自由に映画製作をつづけて欲しいと改めて祈っております。
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