パピとママ映画のblog

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シャニダールの花  ★★★

2013年09月28日 | さ行の映画
『その夜の侍』や『新しい靴を買わなくちゃ』などの話題作への出演が続く綾野剛と『東京オアシス』の黒木華が主演を務めた異色ファンタジー。女性の皮膚に植物が芽吹き、美しい花を咲かせるという不思議な現象にまつわるドラマを描く。『五条霊戦記//GOJOE』などの鬼才、石井岳龍が監督を務め、『映画 鈴木先生』の刈谷友衣子や『ほしのふるまち』の山下リオらが共演を果たす。幻想的な物語と登場人物たちの移ろう心模様に引き込まれる。
あらすじ:レアなケースだが女性の肌に植物の芽が出現し、この世のものとは思えないきれいな花が開花するという奇妙な現象が起きていた。満開時の花びらの持つ特殊な成分に目を留めた製薬会社は、探し出した花の提供者を「シャニダール」という特別な施設に集める。そこで働く研究者の大瀧(綾野剛)と新人の響子(黒木華)は、提供者たちのケアにあたる。
<感想>本作では、選ばれた若い女性の胸に何故か植物が寄生し、命を奪う危険で美しい花を咲かせる。咲く花をめぐる話をつづり、幻想性を強く放つが、奇抜でシュールな設定の野心作だが、月下美人だけが花ではなく、女性の個性に応じた華麗な花や毒々しい花がなければ、メタファーとしての具体的な説得力に欠けると思う。

だが、超現実性な花の妖しい美しさが目を奪う。殆どが月下美人である。上の写真は家の月下美人です。サボテンに咲く花で、美しさよりも毒々しい感じがする妖しい花。夜の月の光で咲き、昼には萎んでしまう1日だけの花。サボテンの葉肉は薬用にも使えるそうです。
花は画期的な新薬の開発に繋がるとともに、女性の命に係わる場合もあるという。しかし、いくら1億円の報酬がもらえるとはいえ、妖しい美しさは、その生と死の両面性の発想であろう。中には、蕾のまま朽ち果てる場合もある。
だから、映画の半ばで一人の女性が、他の女性の胸の花を素手で取り去ってしまうという騒動もある。花を取られた女性たちは、何とか生きて蕾を植え付けられたのだろうか。摘み取った彼女は、心臓発作で死んだという知らせだけ。もしかして、殺されたのかも?・・・そんな胡散臭い研究所のような気がした。

それにしても、なぜ女性の胸だけに花が咲くのか。咲くというよりもまるで子供を産むというような、花が華麗に咲きそれを切除する手術のシーンでは、切除した後にその女性が息絶える。きっと、蕾を胸に植え付けるということは、花の根っこが体の血管や肉体の細胞まで浸食してゆき、その花を切除するということは、心臓が止まるということなのか。しかし、元気に退院する女性もいるとか、その切除された花は、どんな患者の薬品になるのかは物語では明らかにされていない。

製薬会社の研究室のゲストハウスで、植物学者の綾野剛が隔離された女性の胸の蕾を育て、新任のアシスタントの黒木華が彼女らの心身をケアする役割。綾野剛が演じる大瀧は、胸に謎の花の蕾を宿した女性たちを収容し、その花を開花させ提供してもらうことを目的とした施設に勤める植物学者。胸の花は蓋のついた丸いケースで保護されている。「僕はただ、花を見守るだけの役目ですけど」と観察サポートし、「よかった」「え、そうかな」と囁くような声で花たちに寄り添っていく。それは、花や母体の状態に微妙に左右され、そのことが静かにはかなくどこか不穏なこの施設ばかりか、作品そのものトーンを決定づけているようにも見えた。

大瀧の方は提供者の女性をいわゆる恋愛の対象としては見ていないのだが、彼の優柔不断とすれすれのどっちつかずで、この曖昧な状態を楽しんでいるような罪の深さを印象づける。だから伊藤歩が哀しく演じる奇跡の花の検体、ユリエの恋は、片思いにのめり込む女の妄想のとめどなさが、観客に他人事でなく迫ってくる。
興味深いことに、蕾を持つ女性はみんな何か心を病んでいる。女性にだけ花が咲くわけは、そのあたりの全体にうかがえる。

花が象徴するように、この映画では、全てが暗喩的で、その謎めく様がサスペンスを生み、想像をそそり、妖しい魅力を結晶させるのである。そんな中、明確な出来事として、主人公男女のラブストーリーが描き出されてゆく。
黒木華の胸にも蕾が見つかった時、恋人の綾野剛が切除を提案するのに対して、彼女は花を咲かせてみせると言う。明らかに彼女は越境したのであり、地面に妖しく美しい花がびっしりと咲いている荒野の夢は、その表徴に他ならない。そしてその夢に生きる彼女と再会した綾野も、そこへ越境してゆく。

綾野剛と黒木華のテンションを抑えた演技もいいが、所長役の古舘寛治の、彼のいかがわしい存在感がいい。若い綾野と黒木のメロドラマに比重を置きすぎて、花をめぐるミステリーやその侵食によって世界が変わっていく恐怖みたいなものが、何とも薄っぺらに感じてしまった。
都市に出現し始める花もチラホラと咲いている程度で、人類一丸となって摘み取ってしまえば阻止できそうに思えた。一種のSFのような特殊な設定で、世間から隔離された非日常の世界。二人のラブストーリーも悪くはないが、製薬会社や女性たちの家族関係は疑問だらけなので、細部のリアリティを積み重ねて大きな嘘をつくのが映画だとすれば、細部にもっと工夫が欲しいところだ。

ラストの荒野の夢は異様な色合いで描かれ、不気味さを放って怖いが、暗い例えに満ちた物語の果てにそのように浮かび上がる愛は、もっと不気味に美しい。荒野の夢のシーンは、いわば映画の中の別世界であり、映画に登場する人物がそこへ越境するとは、映画だからこその表現なのだろう。それでも、こじんまりした感じで終わってしまっているのが残念に思えてならない。
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