パピとママ映画のblog

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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法★★★・5

2018年06月26日 | アクション映画ーハ行

前作「タンジェリン」で注目を集めたショーン・ベイカー監督がフロリダの安モーテルを舞台に、社会の底辺で生きる母娘の厳しくも愛おしい日々を優しく見つめた感動ドラマ。やんちゃな6歳の女の子が、過酷な現実の中でも周囲の大人たちに守られて伸び伸びと暮らしていく姿を、次第に浮かび上がるアメリカ社会の矛盾とともにカラフルな映像美で描き出していく。主演は天才子役と高い評価を受けたブルックリン・キンバリー・プリンスと演技初挑戦のブリア・ヴィネイト。共演に本作の演技でアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされたウィレム・デフォー。

あらすじ:“夢の国”ディズニー・ワールドのすぐ隣にある安モーテルに流れ着いたその日暮らしのシングルマザー、ヘイリーと6歳の娘ムーニー。無職のヘイリーが滞在費の工面に頭を悩ませる一方、ムーニーは同じモーテルに暮らす子どもたちと一緒に、周囲の迷惑も顧みずにイタズラし放題の冒険に満ちたキラキラの毎日を送っていた。管理人のボビーは、そんなムーニーたちのやんちゃぶりに手を焼きながらも、優しく見守っていくのだったが…。

<感想>この映画は、夢の国「ウォルト・ディズニー・ワールド」リゾートがすぐそばにありながら、その華やかさとは全く縁がない世界の話。今から、50年以上も前に、ウォルト・ディズニーはフロリダ州オーランドに、第二のディズニーランド、しかも単なるリゾート施設ではない、実験的未来都市を作るつもりで土地を購入した。計画半ばでウォルトはこの世を去り、最終的に彼の志とは異なる形になったものの、1971年、世界最大級のリゾ-トが完成。以来、ウォルト・ディズニー・ワールドは、リゾ-ト施設として未だに世界最高の入場者数を誇るという。

今年のアカデミー賞でタイトルを聞くまで、そういう映画の存在も知らなかったのだが、世界にその名を轟かせるこの夢の国のごく近い距離にありながら、その華やかさとはまったく縁のない世界を描いた傑作でもあります。

舞台はディズニー・ワールドへとやってくる観光客を目当てに建てられたモーテル群。近くには高速道路が走り、確かに需要はありそうに見えるが、実際のところ、モーテルを利用しているのは、殆どが職なしか、金なし、他に行き場のない人々たち。

主人公のヘイリーとムーニー母娘が、その日暮らしをしているのも、そんなモーテルの一つ“マジック・キャッスル”だ。紫いろの魔法のお城で暮らす子供たちは、したたかである。通りすがりの観光客や大人に小銭をねだれば、アイスクリームを食べられるからだ。友達みんなで一つのアイスでも、一緒に食べればそれも楽しいおやつタイム。車にツバを吐いて遊び、近所の空き家を探検し、挙句に果てには放火までする。

元気いっぱいやりたい放題の子供を放っておくしかないほど、大人たちの生活は汲々としている。モーテルは宿泊施設なので、無期限に住むわけにはいかない。それでもいったん入ったら、これ幸いと出て行く人もいない。追い出したくとも、ヘイリーとムーニーのような、他に身寄りもなく生活の手立てもなさそうな母娘が相手となると、並みの神経ではとても邪険には扱えないし追い払えないのだ。

タイトルの“プロジェクト”には、「低所得者向け公共住宅」とか、「貧困地域への支援活動」という意味があるらしい。まさにこの「モーテル」が「フロリダ・プロジェクト」そのものなのだ。まさにフロリダ独特のパステルカラーを使って表現している、とても巧い演出効果である。それに、花火に虹とくればなおさらのこと。

毎日の食事は、食堂の残り物や、教会の支援がなければ暮らせず、家賃を捻出するためにインチキな香水を観光客に売りつける。ヘイリーが娘と生きてゆくために取った手段は、モーテルの部屋に観光客を売春でおびき寄せることだ。それこそが彼女から娘を取り上げる理由になってしまう。そんなこと、充分に分かり切ったことなのに。

この映画が、是枝裕和監督の「誰も知らない」を参考にしたところがあるそうですが、児童福祉局が介入してヘイリーとムーニーは、引き離されることになります。この映画はドキュメンタリーなのか、生意気で小憎らしい子供たちの下品な言葉使いとか、子供たちと大人のやりとり、言葉や動きのすべてが、そこに暮らしている時間が溢れて寒気がするほど。

監督が実際にその場所で、自分の耳、眼で見聞きして来たそのままを、どういう手段でかスクリーンに映しだしたものを見せられているという感じになっている。そんな彼女たちにも頼りになる人がいないわけではない。モーテルの管理人ボビーがその人で、演じているウィレム・デフォーがぴったりのハマリ役でした。

彼自身も大した力があるわけではないが、大きな頼もしい安心感を母娘に、観ている観客にも与えてくれる。ですが、彼にも出来ないこともある。それは、別のモーテルに住んでいるアシュリーという友達、娘がジャンシーと言って、ムーニーと仲良しである。アシュリーはファミリーレストランで働き、残り物をヘイリー親子に分けて上げている。

だが、ヘイリーが売春をしてしまい、そのことが自分の娘の教育上に悪いことと知り、警察へ電話をして児童福祉局から局員たちが調べにくる。ヘイリーは、自分のしていることが、その内に警察に知れることとなり、娘と離れて暮らすことを考えていたに違いない。ある日の朝は、二人で立派なホテルに忍び込み、モーニング・バイキングをたらふくご馳走になる。

そして、児童福祉局の人たちが娘のムーニーを迎えに来ると、ムーニーは直ぐに隣のモーテルの親友ジャンシーの元に行き、ムーニーが初めて涙を見せる場面に、それを見たジャンシーがとっさにムーニーの手を掴んで、高速道路の向こう側にある「ディズニー・ワールド」へと二人で手を繋いで入って行くのでした。そこには、綺麗な虹が出ていてこれからの未来を祝福しているようにも見えましたね。

これが英国映画なら、福祉行政の谷間の出来事として描き、時には母親に対して厳しい処断を下すところだが、そこには最大限個人の自由を認めるアメリカのこと。法に触れないかぎり、モーテルに住む人々、中でも子育て中の母親に暖かい手を差し伸べるのだ。

最後の魔法の在りかを見つける子供たちも素晴らしいが、この母親の芯の強さには驚き返す言葉もない。安易な成長を拒否するかのようにひたすら娘に愛をそそぐその頑固一徹さはどこから来るのか。そこに管理人のウィレム・デフォーも、びっくりの移民の底力を見せつけられたような気がした。

ショーン・ベイカー監督の全編iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」は、まだ観ていないので、これからDVDで鑑賞したいと思っています。

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