久しぶりに、小説を読んだ。
井上靖 作 『愛』
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角川文庫で、100ページほどの小説集。
「結婚記念日」
「石庭」
「死と恋と波と」
の3遍が、おさめられている。
上掲の作品は、あらかじめ<愛>にまつわる作品集として書かれたものではなく、それぞれは独立した短編であったものを、たまたま文庫本として、3作品をまとめるにあたって、『愛』という表題がつけられたもののようだ。
最近、小説を読みたいという意欲がわかず、もっぱら評論やエッセイの類を読んできた。その方が、読みがいがあると思っていた。
が、久しぶりに、井上靖の小品を読んだところ、小説も読むに値すると、改めて思い直すことになった。
人々の心の機微が細やかに描かれていて、理屈ではなく、読む者の心に直々訴えかけるものがある。
井上靖の作品はかなり読んできたし、その詩(散文詩)も含めて好きな作家である。しかし、この小冊子は、買ったまま、書棚で眠っていた。
短編だけに、いっそう言葉が選び抜かれ、緻密な味わい深い文章となっているような気がした。
ありふれた市井の人が織りなす平凡な出来事が描かれているにも関わらず、人と人との関わりのなかで生まれる、心中の機微が、読者の心に、しみじみと語りかけるように書かれている。
小説でなくては味わえない妙味を改めて感じた。
野村尚吾の解説が、本の最後に載っている。それによると、井上靖が、『闘牛』で芥川賞受賞を受賞された1950(昭和25)年当時に、この『愛』の3作品も書かれた様子である。
いい作品は古びないものだなと、つくづく感心する。