M美容院に出かけた。
あいにくの雨となった。
担当のMさんがお休みで、Tさんがカットやシャンプーをしてくださった。
Tさんとお話しするのは、初めてである。
Tさんの出生地をうかがった。
「N地区で育ちました」
と。
地名を聞くと同時に、思い出す人があった。
故人Aさんのお顔が浮かんだ。
Aさんには、二つの思い出がある。
私が風邪をこじらせ、重い咳に苦しみ続けていた時、水薬を勧めてくださった。
「良薬は、口に苦し」というけれど、それは甘く、とろっとした、口においしい薬だった。
魔術にかけられたかのように、よく効いて、たちまち咳が止まった。
(Aさんの家は、薬局を営んでおられたのだ。)
もう一つは、広大な栗園に招待してもらったことである。
後にも先にも、あれほど広い栗園を見たことはない。
緑色をした毬栗が、たくさんなっている季節だった。
みどりの香を運ぶ風が、吹いていた。
遠い遠い思い出である。
Tさんは、故人Aさんをよくご存じだった。
「私の祖父がAさんと同年で、子どものときは栗園で遊んだり、何かにつけ薬をいただきました」
と、Tさんは話された。
故人のAさんにまつわる思い出を、お互いに抱いていることの不思議を感じた。
それも、栗園であったり、薬であったり。
大きく異なるのは、私にとっては30歳半ばの思い出であり、一方、Tさんにとっては、幼い日の思い出であることだ。
心の中に、懐かしい思い出が多いのは、幸せなことといえるだろう。
帰宅した雨の庭に、<今日の花>が、咲いていた。
ハナニラ チオノドクサ ツバキ
あいにくの雨となった。
担当のMさんがお休みで、Tさんがカットやシャンプーをしてくださった。
Tさんとお話しするのは、初めてである。
Tさんの出生地をうかがった。
「N地区で育ちました」
と。
地名を聞くと同時に、思い出す人があった。
故人Aさんのお顔が浮かんだ。
Aさんには、二つの思い出がある。
私が風邪をこじらせ、重い咳に苦しみ続けていた時、水薬を勧めてくださった。
「良薬は、口に苦し」というけれど、それは甘く、とろっとした、口においしい薬だった。
魔術にかけられたかのように、よく効いて、たちまち咳が止まった。
(Aさんの家は、薬局を営んでおられたのだ。)
もう一つは、広大な栗園に招待してもらったことである。
後にも先にも、あれほど広い栗園を見たことはない。
緑色をした毬栗が、たくさんなっている季節だった。
みどりの香を運ぶ風が、吹いていた。
遠い遠い思い出である。
Tさんは、故人Aさんをよくご存じだった。
「私の祖父がAさんと同年で、子どものときは栗園で遊んだり、何かにつけ薬をいただきました」
と、Tさんは話された。
故人のAさんにまつわる思い出を、お互いに抱いていることの不思議を感じた。
それも、栗園であったり、薬であったり。
大きく異なるのは、私にとっては30歳半ばの思い出であり、一方、Tさんにとっては、幼い日の思い出であることだ。
心の中に、懐かしい思い出が多いのは、幸せなことといえるだろう。
帰宅した雨の庭に、<今日の花>が、咲いていた。
ハナニラ チオノドクサ ツバキ