ぶらぶら人生

心の呟き

川上弘美ワールド

2011-06-03 | 身辺雑記
 <これが終わるまで生きてるかな。
  そんなふうに、しばしば思うようになったのは、この数年のことだ。
  深刻に思うわけではない。
  私はさいわい今のところ病気でもないし、市の健康診断で悪い数値が出ることもない。けれ
 ど、この年になると、なにしろあちらこちらにガタが来るのだ。
  朝起きると、突然膝が痛くなっていたり。
  体の全体がなんとなくしぼんだ感じになったり。
  心臓が苦しくなったような気がして、でもすぐにすうっとなおったりして。
  人に会うのが面倒になったり。
  体の、隅から隅までが完全に元気、ということは、ほぼなくなってしまった。
  といって、終日苦しいとか、鬱々としている、ということでもない。>
          川上弘美著『パスターマシンの幽霊』所載の「庭のくちぶえ」より

               

 読みかけのまま、積み上げてある書籍の中に、川上弘美著『パスターマシンの幽霊』をみつけた。
 栞の紐が本の半分どころにあり、読みかけであることを示している。読了していれば、習慣に従って、栞を本の扉に収めているはずなのだ。
 発行日が2010年4月22日になっている。発行直後に、この本を購入し、半分読んで、そのまま放置していたらしい。1年余りも。

 22編からなる短編集である。今日、未読の作品を読み上げた。
 お腹にもたれない、おいしいご馳走を味わっている喜びを感じながら。

 芥川賞受賞作『蛇を踏む』以来、この作家の作風が気に入って、かなりの作品に接してきた。深刻さはないけれど、人びとの心の内面に潜む機微を上手く表現していて、独特の雰囲気が楽しめる。
 特殊な人が登場するわけではない。身近なところにいそうな人たちが織り成す人生模様が面白いのだ。
 ソフトな文体も、心地いい。
 川上弘美さんにしか書けない世界である。
 登場人物の、心の揺らぎを表現することが、格別上手だと思う。
 
 最初に引用した文章を読みながら、私の今を代弁してもらっているような気がした。
 私の場合は、血圧、コレステロール、骨粗鬆症など、数値に問題があり、病院の薬をもらっている。が、怖いことかもしれないけれど、いずれも自覚症状はない。
 ただ、心境的には、作品に登場する初老の女性によく似ているのだ。
 

 以前読んだ同作者の『センセイの鞄』が、書棚のどこかにあるはずだ。その横に、読了したこの本を早速納めておこう。          
コメント
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