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A・H・トルストイ-「恋」

2009年05月19日 | 読書日記ーロシア/ソヴィエト


A・H・トルストイ 北垣信行訳
(『世界文学大系93 近代小説集』(筑摩書房)所収)



《あらすじ》
エゴール・イワーノヴィチには家庭も仕事もあったが、やはり既婚者であるマリヤ・フョードロヴナとの恋を成就させるためにすべてを捨て、マーシャの妹ズュームとともに彼女を迎えに行くのだが、彼女の夫は決してそれを許さず――

《この一文》
“「君はぼくを棄てることができるのかね?」彼は立ちあがると、火掻き棒を取って、それを炭のなかに突っこんだ。「ところが、ぼくはこう思っていたんだぜ――君とぼくだけだと……君とぼくだけだと。」”




「カリオストロ」、「五人同盟」のA・H・トルストイの短篇。この人の作品は、どうやらとてもドラマチックであるようです。「カリオストロ」などは、私はもう夢中になりました。あまりに……こう、面白くて!! 鮮明なクライマックスの、その鮮明さが非常に印象的です。

この「恋」という短篇も、それぞれに家庭を持つ男女の恋を描いた、言ってみれば普通のラブロマンスなのですが、結末へさしかかるあたりの勢いがすごい! あの加速度はすごい。映画のストップモーションのよう。盛り上がります。わなわなしてしまいました。クライマックスの面白さは異常です。いいなぁ! しかし結末が悲しいのはいつものことなのでしょうか。「カリオストロ」もハッピーエンドのようなそうでもないような感じでしたけど(たしか…)。

それから、ヒロインの描き方がよいですね。「カリオストロ」のマリヤもかなり可愛い女性でしたが、この「恋」のマリヤもなかなかです。ふとした瞬間の描写にぐっときます。

“ふり返ってみると、マーシャは目を閉じたまま坐っていた。その濡れた睫毛からは涙が頬をつたって流れていた。”

とか! う-む、美しい。実に美しい。それから上にも引用しましたが、エゴールのこの台詞もたまりません。

“「ところが、ぼくはこう思っていたんだぜ――君とぼくだけだと……君とぼくだけだと。」”

君とぼくだけだと……君とぼくだけだと。……うぅっっ!! こういうところが、私には魅力的でしかたがありません。もうだめだ。




この人の作品では『苦悩の中を行く』が名作なのだそうです。そのうちに読みたいところです。また、解説に挙げられている『アエリータ』(映画化されたことがあるらしい)や『技師ガーリンの双曲面体』(大昔に邦訳があったらしい)なども読みたいのですが、どこかで読めないものですかね。