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もやもや日記

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『ツバメの谷』

2006年06月13日 | 読書日記ー英米
アーサー・ランサム 神宮輝夫訳(「アーサー・ランサム全集2」岩波書店)


《あらすじ》
ツバメ号でのはじめてのヤマネコ島への航海から1年が過ぎ、ウォーカー家の子供たちは再びハリ・ハウ農場へやってきた。しかし、兄妹たちを待ち受けているはずのアマゾン海賊もフリント船長も姿を現さない。ツバメ渓谷とピーター・ダックの洞窟の発見、カンチェンジュンガ登頂などなど、この夏には、兄妹たちが予想していたのとは違う展開が待っていた。

《この一文》
”「うむ。」と、フリント船長がいった。「きみは今までだって、きょうとおなじくらいノロマだったことがきっと何度もあったんだよ。ただ、今まではなにごともおこらなかっただけさ。われわれはみんな、ときどきノロマになる。しかし、それに気づくことがたまにしかないんだよ。」  ”



ツバメ号シリーズの2冊目です。前回からちょうど1年経った夏休み、ツバメ号の乗組員であるウォーカー兄妹の冒険が再び始まります。しかし、冒頭からなにやら雲行きが怪しく、どことなく重苦しい雰囲気が漂います。アマゾン海賊であるブラケット姉妹も、その叔父のフリント船長も「土人のごたごた」に巻き込まれているらしく、なかなか現れません。そんな中、普段は冷静なジョン船長は、冒険を始めたばかりの船員たちを難破水夫の身の上にさせる大きなミスを犯してしまうのでした。

うーん、今回も非常に面白かったです。イベントも、新しい登場人物も多いので、前回よりも物語を長いように感じました。そして、私のお気に入りのAB船員ティティは、今回も期待以上の大活躍です。アマゾン海賊とフリント船長を苦しめる暗黒女王を追いやるための、思わぬオカルト的展開に目が離せません。可愛いなあ。ボーイのロジャも去年より注意力の散漫さに拍車がかかっています。末っ子っぽくてよろしい(しかし、実際にはロジャはもう末っ子ではありません。下に赤ちゃんのブリジットがいます。前回ヴィッキイとして登場した赤ちゃんですが、それはヴィクトリア女王にそっくりだったためにつけられたあだ名だったんですね)。

登場人物たちは、誰もが前作よりもさらに性格が強く特徴付けられているように思えます。そして、前の年には優秀に見えた彼らも、予想外の出来事が起きたり、思ったように事が運ばなかったりしてひどく落ち込んだり心配したりします。しっかりものの航海士スーザンでさえ、自分の判断が甘かったのだと言って激しく落ち込んだりします。もちろん、子供たちはそんな状況の中でも自分たちに出来る最大のことをやろうとし、周囲の大人は彼らをそれとなく支え、失敗しても決して責めたりはしません。引用したのは、大失敗をやらかして落ち込むジョン船長に対してフリント船長が言った言葉です。確かに、誰でもいずれはやることになる失敗です。それでも初めて経験する失敗というのは、子供には大きな衝撃です。それを単純に叱りつけてしまわないで、被害の状況と正しく照らし合わせて反省させるのが大事なのかもしれないと思います。大人たちから信頼と責任を与えられた子供たちは、失敗を踏まえて成長してゆくのでありました。

子供たちの冒険のところどころに挟み込まれた大人の物語も面白いです。スウェンソン農場のきれいな娘さんメアリー・スウェンソンにはどうやらきこりの恋人がいる(ひょっとしたらまだきこりの片思いなのかも)ようなのですが、その若者のことを子供たちが「メアリー・スウェンソンのきこり」と呼ぶのに、私はやたらにときめいてしまいました。スウェンソン農場の、歌をうたいだしたら止まらないおじいさんや、その傍らでいつもキルトを縫っているおばあさん。前回も登場した炭焼き小屋の「年よりのビリー」と「若いビリー」親子とそのマムシ、ロジャが炭焼き小屋で1晩泊まった時に若いと言っても相当年をとっている「若いビリー」が話してくれる昔の思い出。アマゾン海賊のナンシイとペギイの両親は、どうやら幼なじみだったらしいこととか。で、お父さんのほうは今はいないらしいことなども分かります。こうした細かい物語が、あちらこちらに散らばっていて、その土地の人間関係を、とてもさりげなく語っています。


それにしても、今回も食べ物はおいしそうでした。ニジマスのバター焼き、マーマレードを塗ったぶどう入りパン、りんご、チョコレート……あー、腹減った。