半透明記録

もやもや日記

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サンショウウオ

2006年06月26日 | 夢の記録
 夏休みの課題で、私はサンショウウオを一匹捕まえなければならない。しかし、体長二十五センチ足らずの可愛らしいサンショウウオたちは、学校の大きな水槽の中を群をなして泳ぎまわっていた。それで、私はその中に手を突っ込むだけでよかった。

 私は、もともと通っていた学校を一年間休学して、別の学校で生物学を習っている。それも前期が終わって、あと半分となったいまは夏休みである。課題を済ませた私は寮へ帰ろうと、日差しをよけて木々の茂る山道を葉っぱの影の形を見比べながらゆっくりと下ってゆく。ふと前の学校が懐かしくなった。ちょっと顔を出してみようと思うが、その前にいま両手にそっと握っているサンショウウオをなんとかしなければならない。
 手の中のサンショウウオは、私に捕まえられているためなのか、水から出たためなのか苦しそうに身をのけぞらせている。その体からはどんどん水分が抜け出ているらしく、しっぽの方から硬くなりはじめた。私ははやく水に浸けてあげなければと慌てるが、みるうちにサンショウウオは黒い半透明のガラスの置物のように固まってしまった。
 とんでもないことになったと嘆きながら、私はいまの学校の寮の中庭へと帰ってきた。寮は木造の二階建でコの字型をしており、壁は白く塗られ、屋根は錆色をしている。昼間の強い日差しが照りつける中庭には、ちょうど先生や他の生徒たちもいた。先生の足もとにはバケツがひとつ水を張られていて、私のサンショウウオをその中に入れるように言われた。そこで私はサンショウウオを水に浸けてみたが、すっかり固まったその体はもう水には馴染まないようで、水面から弾きかえされてバケツの外へ飛び出した。
 「これはもうだめなようだね」とおっしゃる先生と私とがふたりでその死を悲しんでいると、バケツの外に飛び散った水たまりの中で私のサンショウウオはその小さな手の指を少しばかり動かした。私がいそいでバケツに入れてやると、サンショウウオは元気がなさそうに、しかしゆっくりと水の中を泳ぎはじめた。


 半年振りに訪れた私のもとの学校の食堂には、夏休みだというのに生徒が大勢集まっている。その中には私の友人も何人かいた。食事をとっている彼女たちの向かいの席に座って、互いに近況などを報告し合った。私は先ほどのサンショウウオの事件とそのサンショウウオも明日の実習ではきっと解剖しなければならなくなることなどを話し、彼女たちは隣りのクラスにいるという美少年のことを話してくれた。
 「ほら、ちょうど彼が来たよ」と言うので振り返ると、私の後方に並ぶ白い長方形のテーブルの列の間を、夏の制服を着た男の子がひとりやってきて、彼の友人の席で立ち止まって静かに話をしている。白いシャツの彼はたしかに美しい人だった。真っ黒な大きな瞳、美しい額には艶やかな黒く短い巻き毛がかかっている。何もかも均整のとれた彫像のようで、生きて動いていることが信じられないほどだ。休学していなければ彼と同じクラスになっていたかもしれないと思うと、何だかとても惜しまれた。
 そろそろ帰らなければならない。私のサンショウウオはどうしているだろうか。


 寮に戻るともう夜だった。そのまま庭のサンショウウオのバケツを見に行くには暗いので、まずは食事を済まそうと思い食堂に入る。私の新しいクラスメートが席を取ってくれてしかも私の分の夕食の膳も用意してくれていた。お礼を言って席につくと、茶色い木の盆の上にはいつもの定食とともに黒い大きなおかずが一品加えられていた。それは盆に直に載せられた私のサンショウウオだった。私はてっきり実習のために捕まえたと思っていたサンショウウオが、実は今晩の夕食のためのものだったことを知った。
 私は箸でそっとその背中の部分をすくってみる。黒いゼラチン質の皮の下には白い柔らかい身があって、少しくせがあるけれども甘くておいしかった。向かいに座った友人は「これは身はいいんだけれど、骨が○○○○だよね」と言いながら自分のサンショウウオを食べている。うん、そうだね。たしかに骨は○○○○だね。私も白くて太い骨ごとばりばりと私のサンショウウオを平らげた。
 それだけで、すっかり腹が膨れてしまった。