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『ゴッケル物語』

2006年06月07日 | 読書日記ードイツ
ブレンターノ作 伊東勉訳(岩波文庫)


《あらすじ》
生き物を憐れみ、神を信じることの篤いゴッケル老人。その彼が、魔法の指輪の力で妻や娘とともに栄枯盛衰、貴族から乞食まで、さまざまな境涯を経験し、次々と奇想天外な事件に巻きこまれる。ドイツ・ロマン派の詩人ブレンターノ(1778-1842)が、美しい森を背景に詩情豊かに物語るファンタスティックな長篇童話。


《この一文》
”こう言って、アレクトリオに、パンをすこし与えた。雄鶏はことわって、いかにも悲しげに話した。
 「ガリーナと雛にさきだたれ
  いきがいもない わたしには
  パンは無用で ございます
  アレクトリオは いさぎよく
  家宝の剣で 斬られます。」 ”


だいぶ前に買ってあったのに、そのまま忘れ去っていたこの本を発掘しました。すらすら読めるくらい面白いのに、もっとはやく読めばよかったです。

物語は、ゴッケル一家が落ちぶれて森の奥にある荒れ果てた古城へと向かう場面からはじまります。娘のガッケライアが道々「もうビスケットは食べられないの?」などと尋ねますが父が答えて言うには「ビスケットはないよ。あんなものは毒だ。胃をこわすからな」。一家が従える家来と言えば、つがいの雄鶏と雌鶏のみ。しかし、この鶏夫婦にはおそろしく威厳があるので、ゴッケルの妻ヒンケル(悪人ではないが、少々怠け者の見栄っ張り)と娘ガッケライア(食いしん坊で、やはり怠け者の餓鬼なんだそうです)などは到底さからうことなどできません。

上に引用したのは、ゴッケルの家に伝わる魔法の宝石をめぐって仕組まれた罠のために、最愛の雌鳥ガリーナを失った雄鶏のアレクトリオの言葉です。ガリーナと卵から孵ったばかりの雛たちは猫の手にかかって死を遂げるのですが、その犯人たる猫親子を裁くため、怒りのゴッケルは裁判を開いたりもします。ここでのアレクトリオのいじらしさとゴッケルの演説には心を打たれます。

そして、アレクトリオの死によってゴッケルが手にすることになる指輪はあらゆる願いを叶えてくれるものであり、一家は指輪の恩恵を受け、若さと美しさ、そして富を得ます。しかしそこへまた新たな罠が仕掛けられるのでした。

登場人物はみな、なかなか個性的です。偉大なる雄鶏アレクトリオは言うまでもなく、ハツカネズミの王子と王女(ふたりは新婚旅行中に猫に追っかけかれているところをゴッケルに助けられます)のキャラクターがとても良かったです。王子は王子として生まれ育ったので、人にものを頼むときについ「王様口調」になったりして、あとでそれはまずかったと後悔したりします。人間は眠っているときにだけ、彼らの言うことを聞くことができるというのも面白い。ネズミの仕草はいちいち可愛らしいのです。


冒頭はかなりユーモラスに描かれているので、私はところどころで笑いながら読み進めたのですが、アレクトリオの死の場面あたりからかなり真剣に読んでしまいました。意外と先の読めない物語でありました。結末にも驚きましたし。
魔法の指輪によってもたらされた一夜にして出現する壮麗な城や、卵の殻で出来た王様の城、チーズを精巧に齧って作り上げたネズミの城などなど視覚的にも美しい、とても良く出来たお話だと思います。

それにしても、パンやお菓子やチーズにハムと、ドイツっぽい食べ物がたくさん出てくるので、腹が減って仕方がありませんでした。