オトフリート=プロイスラー 中村浩三訳(偕成社)
《あらすじ》
荒れ地の水車場の見習になった少年クラバートは、親方から魔法をならう。が三年後、自由と、ひとりの少女の愛をかち得るため、生死をかけて親方と対決する日がやってくる。
ドイツの一地方に伝わる〈クラバート伝説〉をもとに、現代の語り部プロイスラーが、十一年の歳月をかけてねりあげた壮大な長編小説。
《この一文》
”「それであなただとわかったのよ」”
どことなく『ハウルの動く城』な表紙の装丁にひかれて読んでみました。すると、中の挿絵にも『ハウル~』な感じの絵があってびっくり。気のせいかもしれませんが。
さて、とても簡潔でありながら、綿密に構成が練られているよく出来た物語でした。何と言ってもロマンチックなのが良いのです! 夢の中の声に呼び寄せられて水車場の見習になったクラバートは、一年の見習期間のうちに三つほども年を取ったりします。そして魔法がいかに労働を簡単にし、また人の心をも自由に動かすことの出来る力であるかを知るようになり、日々魔法の勉強に勤しむのでした。村の少女の美しい歌声を聴く、その日まではーー。
主人公のクラバートが、三年目までにどれだけ成長するかがこの作品の見所です。この成長の様子が実に上手く描かれています。最初の年にクラバートを助けてくれていた職人頭のトンダ、密告屋のリュシュコー、トンダの次に職人頭になったミヒャル、ぼんやりしているが家事の得意なユーロー、クラバートが三年目を迎えると同時に見習として入ってきたかつての仲間ローボシュ(しかし、ローボシュはクラバートがあまりに成長しているので本人だと気が付かなかったりして)などなど、周囲の人物が魅力的かつ的確に配置されています。各地の水車場に表れては労働条件を改善するように親方を懲らしめながら渡り歩くという伝説的人物デカ帽のエピソードも印象的です。人間は正しく労働をしなくてはならない、また、それをせずして同じ結果を得ようとするまやかしの力に魅了された少年を救うのは、真実の愛! というような主張がきっぱりとした、すっきりした読後感を味わえる作品でありました。
この物語は、伝説をもとに作られたそうです。練りに練られているせいか、伝説というのは面白いものが多いですよね。良い機会なので、もうちょっと色々な地方の伝説を読んでみたいところです。