裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

死んだらどうなるか?問題・15

2022年03月15日 18時02分28秒 | 死んだらどうなるか?問題

天体が深部で原子核を練り上げ、おびただしい種類の元素を生み出して宇宙空間に送り出すことで、この世界は多様性に満ちた物質にあふれました。
水素と酸素が出会い、パズルのように組み合って「水」になり、酸素と炭素が組み合えば「二酸化炭素」になり、塩素とナトリウムが電子をやり取りし合えば「塩」になる、というような具合いです。
そんな数知れない組み合わせの実験が、ある平凡な恒星の系をめぐる岩石型の惑星上でも行われました。
思えば、この天体に与えられた初期値ときたら、まるで奇跡です。
灼熱の恒星に、もう少し近ければ液体はすべて蒸発し、もう少し遠ければ全面が凍りついていたはずです。
天体の質量が、もう少し小さければ大気を維持する重力を獲得できず、もう少し大きければガスの層がとんでもなく厚くなっていたはずです。
ひとつの大きな衛星が付き従ってくれるおかげで、動きもバランスも非常に落ち着いています。
この天体は、その安定した表層部に、長きにわたって「ひとつの精妙な作業」をするにふさわしい実験室を提供してくれていたのです。
その作業こそが、生命活動なのでした。
はじめのうち、この天体はあっちっちのマグマ塊でした。
それが冷えはじめると、大気で水蒸気の雲ができ、やがて雨が降り、水の海をつくりました。
天体の大気は、二酸化炭素に満たされていました。
岩と水と二酸化炭素しかない、という極端なモデルから、いったいどうすれば生物をつくり上げることができるでしょうか?
まったく不思議なことですが、最初に発生した生命は、次代のことを予見して行動していたのかもしれません。
水中で有機物のあぶくとなった「彼」は、賢くも、生命が長らえられる環境づくりからはじめよう、と考えたのです。
彼は水を飲み、二酸化炭素を取り込みました(それしかないのですから)。
そうするうちに、H2OとCO2を太陽光で分解して組み立て直し、H6C12O6という炭水化物をつくって、余った酸素O2を吐き出せばいいという化学式にたどり着きました。
天才です。
炭水化物は、エネルギーにできる上に、自分の体をつくる材料にすることもできるのですから。
彼と彼の仲間たちはじゃんじゃんと育ち、水中に拡散して大展開をとげ、吐き出す酸素で大気の組成を変えるほどにまで大成功をおさめました。
ところが、調子にのって酸素を放出しすぎたために、なんだか息苦しくなってきました。
酸素は燃えやすく、物質を酸化させてしまう毒なので、あまりからだによろしくないのです。
そこで新たに台頭するのが、酸素を生命活動に利用してやろうという野心的な、ミトコンドリア系の生物です。
このルーキーたちが開発した新時代対応のエンジンは、あらかじめつくられた炭水化物を体内に直接に取り込み(要するに、旧タイプの生命体を食べ)、酸素で燃やすことで自らのエネルギーとし、(ちょうど旧タイプの作業を逆再生するように)必要のない二酸化炭素と水を排出する方式でした。
このやり方なら、エネルギー効率がぐんとアップし、とてつもない運動量が発揮できます。
やがて旧タイプと新タイプは、勢力が拮抗するようにまでなりました。
こうなると、大気のバランスも絶妙に平均化します。
あり得ないほど理想的な、植物が二酸化炭素を吸って酸素を吐き出し、動物が酸素を吸って二酸化炭素を吐くという、循環式の生物環境が整ったわけです。
ここはかっこよく、生態系が完成した、と言いかえてもよさそうです。
こうしてこの岩石天体は、水と緑と生命感が織りなす、宇宙のどこを探しても(滅多に)お目にかかれない、美しい「地球」となったのでした。
この天体は、もともとそれを育むべき最高の現場が与えられていたことは否定できません。
が、その初期値のひとつにまず「知性」の存在があり、さも心細いカードの中から最善の一手を正確に選んで、自分たちが立ち働ける環境を連綿としつらえてきたのだと感じざるを得ません。
ぼくはこの意見を強調したいのですが、生命現象は、地球の歴史上のある時点で発生したのではなく、最初からそこにあった、のではないかと。
そうとでも考えなければ、鉱物と無機物の岩塊が、いったいどうやって、エントロピーをこうまで混乱させる力を手に入れられたでしょうか。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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