裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

死んだらどうなるか?問題・21

2022年04月18日 17時47分08秒 | 死んだらどうなるか?問題

生物の「食べる」という行為は、突き詰めれば「物質から電子を引き剥がし、体内機能のスイッチリレーをさせる」という意味に他なりません。
どういうことか、単純な例でその過程を説明します。
植物が日光を浴びると、葉緑素が働いて、細胞内で栄養分がつくられます。
以前の章でも書いた、おなじみの「水・H2Oと二酸化炭素・CO2からブドウ糖・H6C12O6を組み立てて、余った酸素・O2を放出する」というやつです。
この一連の作用を起動させるのが、日光というわけです。
そのメカニズムを、分子生物学・・・つまり量子レベルで読み解くと、とてもおもしろいのですよ。
日光は、光子という素粒子でできていまして、これが葉緑素内の元素(例えば水素)に飛び込むと、その中の電子が励起(元気になる)されて飛び出します。
この電子は暴れん坊なので、水と二酸化炭素の分子構造に働きかけて、結合をほどきます。
一方で、電子(-電荷)が抜けた水素原子(もとは中性)は、水素イオン=陽子となって、電荷が+になっています。
この電荷の変更によって水素イオンは、もともと細胞内で偏りができていた電位の影響を受け(例の陽子勾配に従って)、あっちこっちの分子に受け渡されていきます。
電荷は元素間の接着剤ですから、バラバラにほどかれた分子が、イオンの力でまた組み立て直されるのです。
こうして、ブドウ糖が編み上げられます。
ここで特筆すべきは、「電子と陽子が、誰の意図を汲むわけでもなく、全自動で解体と合成という仕事をやってのけている」という事実です。
つまりこれは、物質が物理的な現象のみを用いて、まるで生きているかのごとくに連動する例です。
生命活動とは要するに、素粒子によるこうした小仕事の積み重ねなのです。
生命の問題に、いよいよ量子が顔を突っ込んできました。
分子同士の合体(化学結合)は、大雑把に言って「陽子と電子が持つ電磁気力でくっつき合う」「分子の外側に突き出た、あるいは欠けた電子の凹凸でパズルのように噛み合う」の二種類なので、電子の抽出と利用は、生命現象にとって決定的な重要事となるわけです。
励起した電子は、あちこちに受け渡されて利用され、徐々にエネルギーを吸い取られた挙げ句に、最後は酸素と結合し、呼吸で体外(植物の話をしているのでした)に排出されます。
この「あちこちに受け渡され」る行程がまた、自然現象に厳密に従っていまして、電子を強く求める分子から弱くなっていく順番で利用されていきます。
用意された勾配に従って電子が流れていくことが、生命現象の安定をもたらしているのだから、実に不思議です。
電子がその都度に道すじを判断して決めていくのではなく、あらかじめ電子が必要な順序で、生物の分子構造ができているわけです。
このミステリーの深いところが理解できていますか?
電子が遺伝子に働きかけるシーンを例に取って説明します。
まず、電子がある分子に飛び込むことで、機構の分子構造に変化が起こり、それがスイッチとなってシステムが起動し、DNAの固く結んでいた二重螺旋が解錠します。
飛び込んだ電子はエネルギーを減らし、この場では必要とされなくなりますが、次なる求めに応じて、別の分子に飛び移ります。
そして、その場でまたスイッチの役割を果たすわけです。
電子を失った水素イオンも大活躍です。
これがひとつ余るだけで、水素結合で繋がっていた塩基・塩基の組み合わせが次々にほどけて、DNA鎖がジッパーのように開いていきます。
その後は、分子構造が次々に枝分かれして、定められた通りに仕事が進みます。
要するに、電気が流れていく形で化学結合と解離が起き、さらにそれに弾き出される形で、+と−の素粒子が各現場現場に指示を与えていくわけです。
こうして、開かれたDNA鎖にRNAが飛び込んでコードを読み取るわ、コピーを終えたメッセンジャーRNAが離脱し、トランスファーRNAと示し合わせてアミノ酸を集めるわ、リボソームにもぐり込んでタンパク質の組み立てに入るわ・・・という連鎖反応が起きていくのです。(ちょっと違うかもしれませんが、こういうもんだということをざっくりと物語にしています)
そして驚くべきは、これら電子の先々に立ち現れるすべての構造分子が、電子が持つエネルギー準位と電荷を必要とする切実性の順序で並べられているという点です。
その整然と用意された順路があるために、電子はナチュラルに移動し、その度に小機構のスイッチが入っていき、連動が開始され、それらを総合した結果、素粒子のオーダーとは桁違いの巨大なメカニズムが動いて正確な仕事をする、というわけなのです。
その一連の仕事は完全に自律的・・・というよりは、自然の摂理に忠実に従っているために、生命体(細胞の持ち主)の意思が入る余地も必要もまったくありません。
生命体は、生きているのではなく、生かされている、としか表現のしようがありません。
さて、こうまで洗練されたシステムが後々の世に発生するとして、今は深海底の小穴に単純な有機物が集められつつあるのでした。
この場所で、電子とスイッチングのメカニズムを組み上げることができれば、生命誕生にぐっと近づくことができます。
われわれはそれを思考で試みてるのでした。
ところがこれがなかなか難しい作業なのです。
このせまいスペースで、限られた物質と現象を使ってつくり上げたい目標は、「RNA」なので。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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死んだらどうなるか?問題・20

2022年04月15日 17時01分36秒 | 死んだらどうなるか?問題

死んだらどうなるか?を考えていたのだと、ふと思い出すわけですが(いつも忘れます)、ずいぶんと回り道をしているものです。
ただ、その目的地にたどり着くまでに、まずは「生命現象」という途方もない道のりをゆかねばなりません。
そして、死を語る前に、どうしても誕生を考え詰める必要があるのでした。
あなたが生まれた話ではなく、生命そのものが生まれた話を、です。
ダーウィンは「生ぬるい小さな池」あたりから生命は発生したと考えていたようで、確かにその環境だと、有機的なスープが凝縮され、温められたり日を浴びたり濡れたり乾いたりを繰り返すうちに、生命の素のようなものがころりと生まれそうな予感があります。
実際に、太古の地球上に存在し得た物質を煎じて電気を流す(カミナリの代わりに)、というバカバカしい実験で、アミノ酸が生成された事実があります。
さらに、干潟の満ち干で細胞膜がつくられ(これも実験ずみ)、その中に収められた有機的なスープがうまい具合いに循環すれば、ダーウィン的進化の初手になり得るという研究もあるようです。
ところで、今さらの感はありますが、生命誕生には必要最低限の三つの条件があります。
すなわち、
1、閉じた系である(細胞膜などに覆われ、外界から独立している)
2、自分の体を自分で維持管理できる(養分を摂取してエネルギーをつくり、新陳代謝をする)
3、自己複製ができる(自分の形をした子孫を残す)
というものです。
上に紹介した「スープにカミナリ説」は、「まずは膜の中に材料を入れてしまおう」という順序なわけです。
一方で、ぼくはこちらの方がオススメなのですが、「生命現象をつくったのちに、それをカプセルに入れて環境から独立させよう」という考え方もあります。
それが、現時点で最も有力な生命発生理論である、「深海底熱水噴出口生命起源説」です。
地球が出来たての頃、大気には酸素がなく、当然ながら、海洋にも二酸化炭素が充満していました。
その深海底に、地底のマグマで熱せられた水が噴出する穴が空いていた(現在の深海底にも存在します)ところから、物語ははじまります。
この熱水は数百度もあって、文字通りにアッチッチなわけですが、その周囲に、比較的穏やかな温水噴出の口があると想像してください。
そこからは、硫化水素が主成分の(つまり、二酸化炭素の海水とはpHが違う)水が噴き出しているのです。
温水には硫黄やら鉄やらといった重金属も含まれているために、その成分が積もり積もった噴出口は、まるで煙突のようになっていまして、見た目通りに「チムニー」と呼ばれます。
さて、チムニーには非常に微細な孔がたくさん開いており、スポンジのような内部構造になっています。
その入り組んだ迷路のような孔に、都合よろしく、前生命物質が安定的にひそむことができそうなのですね。
現代のような酸素たっぷりの海の中に水素が飛び込むと、両者は安定を求めて水(H2O)になりますが、当時の二酸化炭素の海では、メタン(CH4)になります。
C!なんとなんと、この記号はゆうきの証です(有機物とは、炭素=C混じりである、ということです)。
ただ、メタンで生命が創造できればいいのですが、その後に誕生したわれわれの肉体は、極めて雑な言い方をして、「メタンになりきる前の中間物質」である、ホルムアルデヒドからメタノールあたりの「雰囲気」でできています。
つまり初期生命は、安定した水素と二酸化炭素の壁は化学変化で飛び越えたが、メタンに到達してしまうほどには変化しすぎなかったようです。
その中間の不安定な物質に留まって、生命は創造されたわけですが、こんな難しい作業を魔法で実現させてくれるのが、チムニーの多孔質な壁面というわけです。
チムニーを形成する素材である鉄と硫黄の化合物は半導体で、電子が都合よく通過できるようになっています。
そして、水素を噴出させるチムニー内と、外界である二酸化炭素の海との間に、前章でミトコンドリアの構造を例にして説明した電荷の勾配(「陽子=+」と「電子=-」の濃度による電荷の差)が存在するのです。
要するに、内と外とで陽子の数が違うために、浸透圧により、陽子も電子も多い方から少ない方に流れたがります。
この勾配(理論上の坂の角度)により、噴出してくる水素まじりの熱水から、二酸化炭素の海に向かって、半導体であるチムニー内を電子がほとばしります。
電気の発生です。
このエネルギーを獲得し、チムニー内で眠っていた無機物が有機化され、多孔質な小部屋のひとつひとつに、生命の素とも言うべき初期物質(単純なアミノ酸など)が濃縮されてたまっていくと考えたら・・・あなた、興奮しないでいられますか?

つづく

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死んだらどうなるか?問題・19

2022年04月05日 08時01分00秒 | 死んだらどうなるか?問題

「この世に物質が生まれた」の部分を入念に描写しているわけですが、本当にこの物語、死にまでたどり着く日がくるのですかね・・・?
それはさておき、比較的穏やかな環境を与えられた太陽系第三惑星で、原始世界はひとつの実験を開始しました。
電荷の勾配(+と-の強弱バランス)によるイオンや電子の移動と、化学反応(原子のモデル上の電子の出っ張りやへこみを噛み合わせるパズル)のみによって、多種多彩な分子の形成をはじめたのです。
組み上げられた分子はさらに組み合わされ、ますます多様な性質のものに展開されます。
数限りないピースの突き合わせが、ああでもない、こうでもない、と果てしなく繰りひろげられました。
原始世界は、元素間の相性を根気強く試したようです。
その結果、さまざまな分子が巧みに絡まり合うアミノ酸が「偶然に」生み落とされました。
生命をつくるのに非常に重要な素材です。
さらにアミノ酸は長大に連ねられ、とてつもなく複雑な構造のタンパク質が「偶然に」形成されました。
こんな偶然の連鎖(文字通り)が、実際に起きるものですかね?
しかしまあ、億年のケタとは、それが形成されるに十分な歳月なのかもしれません。
そもそも現代の結果からさかのぼれば、自然はその難しい方程式の解をあらかじめ用意していたわけですから、「できそうなものはできる」という法則から、必然的にそれはでき得たのでしょう。
こうして、自然は生命体を形づくる準備を終えたわけです。
それをこの惑星上で具体的な風景にスケッチすると、「ぬるい陽だまりの海辺にたまった有機物のスープ」という画づらになります。
そこへ、雷がドーン!と落ちまして、原始の生物が発生しました。
・・・というのが、古典的な科学(ただの直感?)による生命誕生物語の見立てだったわけですが、最新の理論によると、そうではないようです。
ここでもミトコンドリアの構造がヒントになっているので、生命発生のメカニズムの説明を聞く前に、予習しておきましょう。
ミトコンドリアというエネルギー製造装置は、電荷の勾配で発動します。
「プロトン(陽子)勾配」と呼ばれますが、ふたつの系の間に陽子の濃度差があるのです。
要するに、装置の外側と内側とで陽子の数が違っていまして、陽子を多く持つ装置外から浸透圧の原理で、この+電荷を中に呼び込むことができるわけです。
そして装置内への通過の際に陽子は、ある羽根仕掛けの酵素を回転させ、ころりとエネルギー(ATP)を組み上げるのです。
そのメカニズムはあまりに全自動的で、ミトコンドリアとしては「仕事をするぞう、それっ」という発意さえ必要ないほどなのです。
これはつまり、細胞内にミトコンドリアをもつ宿主(例えば人類)が、ミトコンドリアのエネルギー生産の働きを「自律的」と表現するのと入れ子になって、ミトコンドリアにとっても、ATPの生産は自律的であると言えます。
そういうからくりにできてるんだから、やろうとは考えなくても無意識下でそれをやっちゃう、という意味です。
無意識下!・・・これは非常に深い意味を持つ表現ですよ。
なぜなら、「生命体のある部分を動かすのに、意識は必要ない」「それはただの自然現象なのだから」と言っているのと同意なわけですから。
水が高いところから低いところへと流れるのと同じことが、そしてその流れが勝手に水車を回してしまうのと同じことが、生命体の内側に設置されたエネルギー製造装置において起きているのです。
そしてこの装置のメカニズムは、深海底にも存在するのだ・・・というのが、現在の発生生物学の主流となりつつある理論です。
昔むかし、太古の昔・・・ある深海底に、地下深くでマグマに熱せられた水が噴出しておったのじゃ。
・・・からはじまるお話ですが、これは次回に。「この世にものが生まれた」の部分を入念に描写しているわけですが、本当にこの物語、死にまでたどり着く日がくるのですかね・・・?
それはさておき、比較的穏やかな環境を与えられた太陽系第三惑星で、原始世界はひとつの実験を開始しました。
電荷の勾配(+と-の強弱バランス)によるイオンや電子の移動と、化学反応(原子のモデル上の電子の出っ張りやへこみを噛み合わせるパズル)のみによって、多種多彩な分子の形成をはじめたのです。
組み上げられた分子はさらに組み合わされ、ますます多様な性格のものに展開されます。
数限りないピースの突き合わせが、ああでもない、こうでもない、と果てしなく繰りひろげられました。
原始世界は、元素間の相性を根気強く試したようです。
その結果、さまざまな分子が巧みに絡まり合うアミノ酸が「偶然に」生み落とされました。
有機体をつくるのに非常に重要な素材です。
さらにアミノ酸は長大に連ねられ、とてつもなく複雑な構造のタンパク質が「偶然に」形成されました。
こんな偶然の連鎖(文字通り)が、実際に起きるものですかね?
しかしまあ、億年のケタとは、それが形成されるに十分な歳月なのかもしれません。
そもそも現代の結果からさかのぼれば、自然はその方程式の解をはじめから用意していたわけですから、「できそうなものはできる」という法則から、必然的にそれはでき得たのでしょう。
こうして、自然は生命体を形づくる準備を終えたわけです。
それをこの惑星上で具体的な風景にスケッチすると、「ぬるい陽だまりの海辺にたまった有機物のスープ」という画づらになります。
そこへ、雷がドーン!と落ちまして、原始の生物が発生しました。
・・・というのが、古典的な科学による生命誕生物語の見立てだったわけですが、最新の理論によると、そうではないようです。
ここでもミトコンドリアの構造がヒントになっています。
このエネルギー製造装置は、電荷の勾配で発動します。
つまり、装置の外と中で陽子の数が違っていまして、陽子を多く持つ装置外から浸透圧の原理でこの+電荷を呼び込み、装置内への通過の際に、ある羽根仕掛けの酵素を回転させ、ころりとエネルギー(ATP)を組み上げるのです。
そのメカニズムはあまりに全自動的で、ミトコンドリアが「意図的な仕事をする」必要さえないほどなのです。
これはつまり、細胞内にミトコンドリアをもつ宿主(例えば人類)が、ミトコンドリアのエネルギー生産の働きを「自律的」と表現するのと入れ子になって、ミトコンドリアにとっても、ATPの生産は自律的、と言えないでしょうか。
そういうからくりにできてるんだから、やろうとは考えなくても無意識下でそれをやっちゃう、という意味です。
そしてこの装置のメカニズムは、深海底にも存在するのだ・・・というのが、現在の発生生物学の主流となりつつある理論です。
昔むかし、太古の昔・・・ある深海底に、地下深くでマグマに熱せられた水が噴出しておったのじゃ。
・・・からはじまるお話ですが、これは次回に。

つづく

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死んだらどうなるか?問題・18

2022年04月04日 08時04分53秒 | 死んだらどうなるか?問題

さて、そんな物質生成プロセスが、転がりに転がって、現在の宇宙の大構造に展開したわけなのでした。
色彩鮮やかで変化に富む、豊潤極まる多様世界に、です。
・・・なんだか不思議ですよね。
なぜなら、最も単純で確率の高い(つまりナチュラルな)宇宙の進展は、一様な確度で素粒子たちが生成され、ビッグバン以降に拡大をつづける空間に完全な均衡を保った状態(どこを切り取っても一律)でひろがっていく、という形のはずです。
なのに、宇宙にはガスが偏っているし、そこには銀河もあればブラックホールもあり、あまつさえ生命体などという複雑系が存在しています。
整理整頓が行き届いた要素を解体し、エネルギーゼロの果てしない「無の平面」にならすのがエントロピーの役割なら、単独では使いものになりそうにない素粒子たちを、特異点から飛び出した勢いそのままに、散らかったまま交わらせず、各々まっすぐに進ませればよかったのです。
それだけで、エントロピーはなんの障害もなく増大しつづけ、たちまち目指す荒野に落ち着くはずでした。
その点において、現実の宇宙の秩序立った入れ子細工と有機的な連動は、意図的と言っていいほどの不自然さがあります。
ここに、ちょっとした生命の謎のヒント的な・・・生命体の誕生と宇宙の大構造展開のプロセスに類似点を嗅ぎ取るのは、こじつけでしょうか?
と、このアイデアはしばらく横に置いておいて、宇宙構築のプロセスを突き詰めます。
ビッグバンが生み落とした、素粒子とは名ばかりの量子ときたらとんだやんちゃもので、ここにいるのに同時にあそこにもいるという「もつれ」に、いながらにしていないという「重ね合わせ」ときては、その振る舞いは予測不可能です。
波の姿で空間にひろがっているのに、観測者の存在で収縮して粒子になる、などという変幻癖はまだまだ序の口。
量子の存在を表す関数の「いるかいないか50%の確率」とは、「いるといないの両方」ということであり、「いるけどいない」と「いないけどいる」が半々ずつ、という理解を超えた内容を含んでいるのです。
表現が難しいのですが、量子にとって50とは、1か100か50か、ということではなく、1か100か「1と100の両方」なのです。
意味がわからないでしょ?
放射性物質の半減期、も奇天烈です。
一個の放射性同位体は、半減期の間、崩壊前と崩壊後の両方の状態を同時に取っているというのですよ。
半減期を終えて観測をして、はじめてそれが崩壊を終えたかどうかがわかるのです。
このコペンハーゲン解釈に、アインシュタインさんは大反発をしましたが、すべての実験結果がその現実を示唆しているので、最終的には納得せざるを得ないのでした。
量子とはそんなあやふやなものですから、おびただしい素粒子がビッグバンから一直線に飛び出すというよりは、宇宙空間でモグラ叩きのように現れては消える、とした方がより正確な表現となります。
この性質を踏まえて、以前の章で雑に描写した宇宙成長の様子を細密ぎみに加筆すると、次のようになります。
ビッグバンは、物質の種であるクォークと同時に、世界に「力の素粒子」を与えることも忘れませんでした。
重力の量子場から発生する重力子=グラビトンは、質量を持つもの同士の引き合いを媒介する、例の「万有引力」の因子で(この「質量を与える」のがヒッグス場のヒッグス粒子で、重力子は相対性理論によれば「時空間をゆがめる」役割のものですが、ここでは「物質は引きつけ合う」というニュートン力学の表現を採ります)、物質を寄せ集めてひとつに丸め込み、練り上げて天体をつくります。
一方でグルーオンの核力=強い力は、核融合や超新星爆発で、天体の破壊に努めます。
重力子が、閉じた系をつくってコツコツとエントロピーの減少を試みるのに対し、グルーオンの強い力は、収支計算でマイナス分を補うにあまりあるエントロピーの増大に努めるというカウンターバランスでせめぎ合って宇宙を耕し、その仕事からこぼれ出た元素に、光子の媒介する電磁気力が働きかけます。
われわれの物質世界を、事実上構築しているのは電磁気力で、それの及ぼす化学反応(元素間の電子のやり取り)が、さまざまな性質を持つ分子構造をつくり上げてくれるわけです。
かくて、ぼくらが生きるこの複雑極まるわりに組織立った世界は、精妙につくり込まれていきます。
ビッグバンからこっち、世界は一直線にエントロピーの最大値を目指すのではなく、量子の振る舞いが許す遊びしろをつかって回り道をし、束の間(というにはあまりにも長い間)、こんなにも秩序よろしく整頓が行き届いた構造を許されたのでした。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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