裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/意識編・21

2024年06月29日 07時24分36秒 | 世界のつくり

21・自分、って

彼は、みっつの眼を持つことで空間上のひろがりを知り、二次元世界を生きることになった。
ただその視界のバージョンアップは、明滅するスクリーンがX軸とY軸でエリア分けされた、というだけで、二次元と聞いて誰もがイメージするアニメーションのようなものじゃない。
光を三点の受容体で受け取って平面にシグナル配置するだけなので、クリアな風景は存在せず、そこにはただ右左とタテヨコだけがあるんだ。
ここから先は、四つ眼が試され、五つや六つ眼が試され、さらなる複数眼が試されたことだろう。
が、結果は同じで、彼は二次元よりも先へは進めなかった。
ところが、そこを限界とあきらめなかったゲノムは、世界の更なる更新を求め、劇的なイノベーションを果たす。
なんと「複数の眼をひとくくりにまとめて多ピクセル数を持つ片眼とし、それを2セットにして」、彼の形質に組み入れたんだ。
進化によっておびただしい神経を手に入れた彼は、それを盛大に束ねたんだ。
すると、彼の視界についに奥行きが、深みが、立体感が・・・すわなち、三次元空間が立ち現れた。
3D動画をはじめて見たときの感激を、きみは覚えてるだろう。
あれなんだ。
彼は、自分の閉じた系の外側に、無限のひろがりがあることを知った。
そこには森羅万象が配置され、独立しながら連動し、そんな活動をするひとつひとつが彼との相関関係で結ばれてるようだった。
彼はまさしく、目を見張った。
自分がその舞台に「いる」のだと、自覚した。
神経系がいっせいに目覚め、開き、求め、「知ろう」という衝動が湧き起こった。
そうして、ふと根源的なことに気づいた。
外の世界とは、内なるなにものかと相対的なものなのだ、と。
閉鎖系の内と外という理解は、「わたくし」という普遍的存在の理解につながっていく。
彼の中で果てしないまでに伸び、展開し、細分化し、精密化した感覚神経系は、そのすべての情報を中枢機能である頭部に集約し、こうしてできた脳は、情報へのカウンターとして運動神経系に対応を指示するまでに高度化した。
つまり、かつて純粋に自律的だった彼の活動は、今や主体的的と言っていいまでに能動化している。
彼の中に、ついに「意識」なるものが芽生えようとしている。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・20

2024年06月20日 11時23分14秒 | 世界のつくり

20・方向とひろがり、って

彼が備えた光子捕獲装置、すなわち「眼」は、神経系によって肉体組織とダイレクトに結ばれることで、個体の生存率をぐんと高めてくれる。
そのものに触れずとも、なにかが目の前に近づくだけで「逃げろ」の警戒信号が出され、危険を自動的に回避できるんだから、こりゃ便利だ。
対象物に触れないと、そこになにかがあることを感知できなかったこれまでとは大違いだ。
この単純お知らせ機能は、彼が主体的な行為者として覚醒する前段階の、機械的な反射反応システムと言える。
これを、遠距離察知機能である聴覚、対象物の質を識別する嗅覚などと連動させれば、より明確な世界観を築くことができそうだ。
そしてこれらの全自動式のからくり全体を洗練させ、刺激→反応のみの活動から、状況判断→意図的行動という、より能動的な個体へと自身を進化させていきたいものだ。
というわけで、めでたくひとつ眼を獲得した彼なんだった。
進化はこの「着眼」のステージが最も困難で、それに比べたらここから先の展開は、出来合いのものを応用し、更新していけばいいので、時間をかけさえすればわりとイージーに進める。
ひとつ眼から抜きん出ようという圧にさらされるゲノムは、まずは最も安直に、ひとつをふたつに増やそうとした。
こうして、後の世代に進んだ彼は、進化の過程でふたつめの眼を手に入れる。
あたりまえに思えるこのアイデアだが、効果は絶大だ。
なにしろ、ひとつ眼だと点でしか確認できなかった外界が、ふたつ眼になると線で解釈できるようになる。
ゼロ次元だった世界が、一次元になるんだ。
具体的には、ふたつの眼=2ピクセルが時間差で反応することで、目の前の相手がどちらからどちらへと移動したかを理解できる。
いるかいないかだった対象物の情報が、位置と動きを持つことになったわけだ。
点滅のみの視界世界の中に、「方向」という新基軸が備わった。
気をよくしたゲノムは、さらに眼をみっつに増やす。
線だった世界が、いよいよ面になる。
彼は世界の中に「ひろがり」を感じはじめた。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・19

2024年06月19日 09時28分52秒 | 世界のつくり

19・視覚、って

自分を分裂させて増える、という単純な一系統相伝方式では、獲得した機能が細分化・専門化して拡散するばかりだ。
だけど彼は、いったん分かれたそれらを集約して総合する方法・・・つまりくっついて増える「有性生殖」の原理を編み出した。
別個性を持ったふたりが出会い、お互いに生存に有利なカードを持ち寄って機能をコンプリートしていけば、ゲノムを果てしなく高性能にしていける。
まさしく、ダーウィン進化が目指すところの選択による淘汰律とは言えまいか。
これは、自然選択を主体的選択に変質させていく、すなわち意識獲得へのステップかもしれない。
そして彼は、いよいよ感覚機能の金字塔とも言える視覚の形成に本腰を入れはじめた。
自分という閉鎖系の外側に存在するらしきひろがりを、距離、形、色・・・つまり景色で把握しようという野心的な試みだ。
そもそもひろがりという意味を理解できていない彼は、距離感や運動などといった、これまでに抱いてきた心的形象を画づらとして描き起こすことができない。
ここには、二次元や三次元といった空間概念や、製図法などの高度な数学の技術、さらには感覚刺激を選り分けて内的世界構築にまで落とし込むまでのアルゴリズムの工学的な大変革が必要だ。
彼にできることといえば、拾い集めた化学物質の組み替えと、電気信号によるエネルギー伝達だけだ。
これをどう組み合わせれば、外界の地図化が可能になるだろうか?
ところが彼は、またしても長い長い歳月をかけ、これをやってのける。
この世に最初に「お目見え」を果たした目は、前頭部(かどうかはわからないけど)にうがたれた、光を落っことすピンホールだった。
彼を照らす光が、ホール(細穴)の底まで一直線に差し込む、というところがミソだ。
こうして光が進めるわずかな距離を設けることよって、捕捉物体の位置が特定できるのだから。
穴の底部には、光子に反応して光か影かを判定するスイッチが組み込まれていて、そのオン・オフの情報は「1ピクセルのモノクロ画」と考えることができる。
彼がはじめて見る世界は、白か、黒か、そのうちのどちらかというシンプルなものだった。
この機能を、彼は劇的に発達させていく。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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