裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/意識編・8

2024年03月29日 10時46分19秒 | 世界のつくり

8・光合成、って

遺伝子の変異・・・すなわち進化は、必要いかんに関係なく、また計画も方針もなく、タイミングもお構いなく、空気を読むこともなければ、なにより突拍子もない。
あらゆる状況下で、あらゆる変異が起き得る。
その中で、当たりくじを引いたようにたまたま時代と環境にフィットした機能を獲得するものが現れる。
彼はそのアドバンテージを利用して生き抜くことができ、さらには出現した形質を後の代に継承することで、ある意味、ひとり勝ちをおさめていく。
有効な進化をしたもののみが、自分の遺伝子を後世にまで残し得、種を繁栄させることができるんだ。
個体同士での生存競争が、すでにはじまってる。
チムニーのひもじい環境で過ごした彼は、試行錯誤の末に(つまり塩基配列がいろんな並び替えをするうちに)、得体の知れない金属を取り込み、電子を取り出して心細いエネルギーに変換した上で、廃棄物をメタンの形にまとめて排出するという進化をした。※1
その金属は、地球上のあらゆる場所にあるわけじゃないので、彼はもっと別のエネルギー生成メカニズムを探る必要がある。
硫化物による化学反応を使い、鉄による酸化還元反応を使い、あれを使い、これを使い・・・彼の遺伝子はあらゆる実験を重ねていく。
そうするうちに、生態系全体の海洋への浸透は、ついに海岸線の浅瀬にまでたどり着いた。
ここには、今まで見たこともなかった陽光が降りそそぐため、熱エネルギーに光エネルギー、なんてものまで豊富にある。
そこでふと(不図)彼は、光子を取り込むことで分子を励起させ、エネルギーの高い状態をつくり出す、という発明をした・・・いやいや、たまたまそんな変異を起こした。
海中に豊富に存在する二酸化炭素を用いて体内で活発化させ、エネルギー化しては酸素を生成し排出するという「光合成システム」を可能にした彼は、ついに地球の大気の組成を変えはじめた。
これまで地上に単体で存在しなかった酸素は、実はとてつもない燃焼作用というポテンシャルを秘めた爆発物なんだ。
そこから取り出せるエネルギーは、これまでとはケタ違いだ。
なんだか生命たちの営みに、劇的な飛躍が予感されるではないか。

つづく

※1 前駆体からの進化・・・というよりは深化によって、彼は生命体となった。なので正確には、「彼はダーウィン進化を開始する生命のスタートモデルにたどり着いた」と表現すべきかもしれない。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・7

2024年03月28日 09時13分41秒 | 世界のつくり

7・自然淘汰、って

外洋に出ていく際に、彼は温度変化に適応できるタイプのものをごく少数だけ生み出した。
その変異は、いろんなコピーミスを犯すうちにたまたま起きたもののひとつだ。
だけど、他のほとんどのものは温度変化には適応できないままだった(というか、関係のない別の変異をした)。
そこに、これまたたまたま冷水の環境が目の前に迫った。
冷水適応タイプと不適応タイプのどちらもそこに飛び込んだけど、おびただしい数がいたはずの後者は子孫を残せず、前者は着々と増殖することができた。
こうしてハイブリッド種※1だけが生き残って繁栄し、他者は絶滅する。
これが、適者生存による自然淘汰のメカニズムだ。
塩基配列のバグによるダーウィン進化は無作為で全方向、と書いた。
彼は、分裂して世代を下っていくごとに、あらゆる変異を自分の肉体に試す。※2
無作為全方向にわたるいわゆる「進化」をあらかじめしておいた上で、たまたま新たな環境にアジャストできたものだけが、あるいはたまたま生存に有利な機能を獲得してたものだけが、生き残っていく。
つまり、環境にアジャストしようとして、あるいは生存に有利な機能なので、という理由で進化は起きるわけじゃない。
すべての進化は、まったく意図せず発生した偶然なんであり、そこには計算も予測もデザインも介在しない。
高い木の葉っぱに届くようにキリンは首を長くしたわけじゃなく、たまたま首が長くなってしまったキリンがたまたま高い木の葉っぱを食べることができ、首の短いタイプよりもたまたま生存に有利となった、の順序だ。
生存に有利な首の長いタイプは、旧態依然のタイプよりもモテるため(異性も自分の子孫の生存を求めるのだ)、世代を経るごとにキリンの種全体の首が伸びていき、首の短いものはすたれて、長いものが後世を席巻することになる。
ダーウィン進化は、こんな残酷な淘汰をともなう。
が、結果得られた機能性のアップデイトは、種全体の生存確率を劇的に上げていく。

つづく

※1 交配がないのでこの表現は厳密ではないが、古い機能と新しい機能の交雑種、と解釈しよう。
※2 何度も書くように、変異は偶然の産物だが、ここでも進化の作用を彼の主体性と能動性に還元できるものとして表現させてもらう。なにしろ、物語なもので。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・6

2024年03月26日 14時42分09秒 | 世界のつくり

6・適者生存の法則、って

さて、深海底の風景に戻る。
増殖をつづける彼の分身たちは、圧倒的な速度と量とで、ぬくぬくと熱水を噴出させる孔を覆い尽くした。
さらに、その外洋・・・と言えるかどうかはわからないけど、生まれ故郷であるチムニーの外へ外へと、生態系の前線を押しひろげていく。
まるで、生まれたての生命による、活力みなぎるエデンの園だ。
一方で、生命の浸透が及ばない遠隔地には、純粋無垢なまでの荒涼とした景色がひろがる。
この時代には酸素すらないために、鉱物はさびることを知らない。
そんなフレッシュな正真正銘のフロンティアに、彼らは勇敢にも飛び込んでいく。
ところがそこには、寒さという環境変化のワナが待ち構えてる。
かつてあっちっちのマグマ塊だった地球はすでに冷え、水面からはるか隔絶された深海底には太陽熱も届かず、地中からの放射性崩壊熱があるのみの冷たい冷たい水の底・・・
熱水に育まれた彼の身には、極めてシビアな条件だ。
こうして、ついに生命の世界進出は止まる。
・・・いや、完全に止まったわけじゃない。
なんと、そんな冷たい環境にも平気で飛び込んでいくやつらがいるではないか。
思い出してほしいんだけど、遺伝子の変異は意図的じゃなく、無作為かつ全方向なんだった。
なぜなら、ゲノムの書き換えは不意なコピーミスに過ぎないんだから。
彼は、ぬくぬくの温度帯に適応できるように塩基配列を書き換えてきた・・・かと思いきや、「ぬくぬくの温度帯に適応する塩基配列の書き換えがたまたま生じた」ために、彼は熱水噴出孔で生きる可能性を獲得したんだ。※1
彼が熱水の環境でも平気でいられたのは、ゲノムがコピーされる際のエラーによる偶然の産物でしかない。
それと同様に、一部の彼らのゲノムは、冷水に適応できるような塩基配列のコピーミスを起こした。
こうしてたまたまその一団だけが、冷水の中でも生き延びられるようになった。
これが、適者生存の法則だ。

つづく

※1 この書き換えが起きなかった個体は、全滅した。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・5

2024年03月25日 09時52分57秒 | 世界のつくり

5・コピペミス、って

生きる機械である彼の駆動手順をアルゴリズム化したものが、ゲノムだ。
要は、生きていく上においてするべき作業の指示書と言える。
彼のゲノムは、彼の生命機械(肉体)に指図する。
それに従い、彼は活動する。
意識をまだ持たない彼は、ソフトに動かされるハードウェア・・・つまりロボットのようなものなんだ。
ゲノムの命令は、次のようなものだ。
「外界から物質を探し出し、獲得せよ」
すると、彼が体表面にめぐらせたイオンチャネルとエンドサイトーシスの機構が反応し、触れるものの中から求める素材を選別して体内に取り込む。
「肉体の部品を構成せよ」
すると、RNAの塩基配列の特定箇所が起動し、リボソームなどの内器官を総動員してアミノ酸からタンパク質を編み上げる。
「故障箇所を修繕せよ」
すると、新しいパーツが古いものに取って替わり、いわゆる新陳代謝が行われる。
「自分をコピーせよ」
すると、RNAの全らせんがそっくりコピペされ(核はまだないのだ)、ゲノムの原文から分身したプリントがもう一体のボディを構築した上で、別の系として独立する。
単細胞分裂、だ。
そして、ここがとてつもなく重要な点なのだが、本体のゲノムの情報は別系統へと、そのまま完璧にコピーされるわけじゃない。
ところどころにエラーが・・・つまり、原文とは別の指示書きが紛れ込む。
塩基配列・・・すなわち、彼の機能は、コピーがくり返されるごとに、ほんの少しずつ上書きされていく。
こうして、図らずもダーウィン進化が発生する。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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