鋸南町のお隣(かな?)である君津の宿でたっぷりと眠った翌朝。
この町のボランティアセンターに赴く。
ここもまた、強風による被害と、長期の停電で苦戦を強いられている町なのだ。
前日までの週末三連休が終わったため、ボランティアはかなり減っている。
その中で、屈強な男子のみの六人チームを組み、「桜の木が倒れてるので、そいつを伐採、解体、運搬せよ」という命を受ける。
はじめてのタイプの仕事で、なかなか興味深い。
現場に着くと、要請者である上品そうなお母さんが出迎えてくれた。
このひとがまた律儀なひとで、自分ちの瓦も落ち、屋根がブルーシートでパッチワークされているのに、「山のほこらをお助けいただきたいのです」と言う。
つまり、この家から少し山に入った場所に、小さな神さまを祀るほこらがあるのだが、その背後に立っていた立派な桜の木がほこらの小屋根に寄りかかって、潰れそうになっているのだった。
しかし、ギリギリ潰れなかった、という点がすごい。
そのお姿を見たら、不意にこの場に呼ばれたような気がしてくる。
がんばらねばならない。
が、この仕事が非常に難しい。
桜の木は、人間の背丈ほどのところで二股に分かれていて、それが風で根こそぎにされて倒れ込んでいる。
その片っぽがほこらの屋根にのしかかり、かろうじてバランスを保っているのだが、下手に切り倒すと、どこがどう動くかわからない。
先っちょの枝から少しずつ落としていき、まずは荷重を減らしていこう、ということになった。
このチームの若きリーダーは、自宅の裏山で枝打ちの真似事をしているという林業マニアで、チェーンソーから木登り用のハーネスまで持参という心強い人物だ。
われわれ素人軍団は、ノコギリを手に手に、三脚にのぼる。
こうして枝を落としていくわけだが、その下には、極めて心細いつくりの灯籠が二基、立っている。
しかも、あたりは一面、ぬかるみだ。
この水は、台風によるものではなく、近くでこんこんと湧いているものだという。
それを聞き、ますますこの地を守りたくなった。
ほこらにのっかった幹から先をすべて取り除くと、桜の根幹が人力でも動くようになった。
そこで、桜の幹の上部にロープをかけ、ほこらと逆方向に引っ張ろう、ということになった。
そうして張り詰めさせたまま、チェーンソーで徐々に切り刻んでいく。
ついに根っこの立ち上がりまできれいに伐採すると、ほこらに寄りかかっていた桜は、休憩にちょうどよろしい切り株となった。
ほこらのかたわらで成長したこの桜は、春になると、神さまの後光のように花を咲かせたのだという。
この子は、ただ台風の被害を受けただけで、悪さをしたわけではない。
なのに切り倒されてしまい、かわいそうなことだった。
しかし、無事に神さまをお救いすることができた。
上品なお母さんのところに戻り、遠慮遠慮の彼女の家の中も片づけさせてもらった。
帰り際、このひとがまた、ものすごく感謝してくれる。
泣きそうな勢いで拝み倒してくれるのだ。
いつもボランティア仕事の後には達成感があるけど、今回のはひとしおだった。
チームの仲間も最高だったし、清い湧き水もいただき、清々しい気持ちで現場を後にした。
夜は例によって、被災した町でふんだんにお金を落とすべく、がんばってお酒を飲むのだ。
宿に戻って湯船に浸かると、目の前に虹が立っていた。
おしまい
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
この町のボランティアセンターに赴く。
ここもまた、強風による被害と、長期の停電で苦戦を強いられている町なのだ。
前日までの週末三連休が終わったため、ボランティアはかなり減っている。
その中で、屈強な男子のみの六人チームを組み、「桜の木が倒れてるので、そいつを伐採、解体、運搬せよ」という命を受ける。
はじめてのタイプの仕事で、なかなか興味深い。
現場に着くと、要請者である上品そうなお母さんが出迎えてくれた。
このひとがまた律儀なひとで、自分ちの瓦も落ち、屋根がブルーシートでパッチワークされているのに、「山のほこらをお助けいただきたいのです」と言う。
つまり、この家から少し山に入った場所に、小さな神さまを祀るほこらがあるのだが、その背後に立っていた立派な桜の木がほこらの小屋根に寄りかかって、潰れそうになっているのだった。
しかし、ギリギリ潰れなかった、という点がすごい。
そのお姿を見たら、不意にこの場に呼ばれたような気がしてくる。
がんばらねばならない。
が、この仕事が非常に難しい。
桜の木は、人間の背丈ほどのところで二股に分かれていて、それが風で根こそぎにされて倒れ込んでいる。
その片っぽがほこらの屋根にのしかかり、かろうじてバランスを保っているのだが、下手に切り倒すと、どこがどう動くかわからない。
先っちょの枝から少しずつ落としていき、まずは荷重を減らしていこう、ということになった。
このチームの若きリーダーは、自宅の裏山で枝打ちの真似事をしているという林業マニアで、チェーンソーから木登り用のハーネスまで持参という心強い人物だ。
われわれ素人軍団は、ノコギリを手に手に、三脚にのぼる。
こうして枝を落としていくわけだが、その下には、極めて心細いつくりの灯籠が二基、立っている。
しかも、あたりは一面、ぬかるみだ。
この水は、台風によるものではなく、近くでこんこんと湧いているものだという。
それを聞き、ますますこの地を守りたくなった。
ほこらにのっかった幹から先をすべて取り除くと、桜の根幹が人力でも動くようになった。
そこで、桜の幹の上部にロープをかけ、ほこらと逆方向に引っ張ろう、ということになった。
そうして張り詰めさせたまま、チェーンソーで徐々に切り刻んでいく。
ついに根っこの立ち上がりまできれいに伐採すると、ほこらに寄りかかっていた桜は、休憩にちょうどよろしい切り株となった。
ほこらのかたわらで成長したこの桜は、春になると、神さまの後光のように花を咲かせたのだという。
この子は、ただ台風の被害を受けただけで、悪さをしたわけではない。
なのに切り倒されてしまい、かわいそうなことだった。
しかし、無事に神さまをお救いすることができた。
上品なお母さんのところに戻り、遠慮遠慮の彼女の家の中も片づけさせてもらった。
帰り際、このひとがまた、ものすごく感謝してくれる。
泣きそうな勢いで拝み倒してくれるのだ。
いつもボランティア仕事の後には達成感があるけど、今回のはひとしおだった。
チームの仲間も最高だったし、清い湧き水もいただき、清々しい気持ちで現場を後にした。
夜は例によって、被災した町でふんだんにお金を落とすべく、がんばってお酒を飲むのだ。
宿に戻って湯船に浸かると、目の前に虹が立っていた。
おしまい
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園