裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/生命編・25

2023年12月31日 09時12分16秒 | 世界のつくり

25・前駆体に操縦者を乗っける、って

染色体分割という強力な起動力を持たない初期の彼(まだ前駆体)の分裂は、頼りなく、不安定で、散発的で、「ちぎっては投げ・・・」式ならぬ、「ちぎれては捨て置かれ・・・」方式だったと思われる。
それでも、チムニー内には着実に彼のコピーが増えていった。
おびただしい彼のコピーが鋳込まれるうちに、コピーミスが発生する。
それは、定められた塩基配列にはさまったささいなバグのようなものだけど、これが積み重なると、徐々に初期設定と乖離して、別ものになっていくんだ。
細胞核なしのRNAは、ほとんど環境にオープンな状態なので、ヌクレオチドの端っこに新しいパートがくっついたり、あるいはところどころが剥離したり、またつながったりして、まったく新しい書き換えが起こったりもしよう。
初歩的なダーウィン進化だ。
それが何億年間もつづくんだから、軌跡のような配列の実現も可能だ。
ある日、塩基の並びが、たまたま任意のアミノ酸を意味する「コドン」という言語単位になり、特定されたアミノ酸に結びつく。
物質は、頭脳で理解はしないが、分子の形状によって「それが何物であるか」を完全に見極める。
「このアミノ酸を集めよ」という指令は、「この形状にぴたりとフィットするようにジョイントせよ」と言い換えられる。
こうして、カオスだったゲノム配列は、ゆっくりとゆっくりと、何事かができるように整いはじめる。
その何事かとは、自分を能動的につくり上げるという、生命にとって根源的な作業だ。
チムニーから放出される物質の流れから自動的かつ偶然に与えられてきたものを、今度は自分で選り分け、あるいは素材からつくり出そうというんだ。
最後のステージを上がるために、彼史上最大の創発が開始された。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・24

2023年12月28日 08時23分33秒 | 世界のつくり

24・塩基配列のコピー、って

こうして考えてみれば、彼もまた、何者かから分裂したのかもしれない。
どんな形をしてたんだかしれない、前駆体から。
それは「細胞分裂」なんて高度な作業じゃなかったはずだ。
最原初のRNA(これもまたDNAの前駆体)は、ゲノム配列なんて複雑な構造はしてなかった。
塩基配列を言語としてタンパク質のアミノ酸配合をコードするなんて知的なアイデアを、原形質が・・・ましてやその前駆体が発明するなんて、考えられない。
要するに、ゲノムが生命を誕生させたなんてのは幻想で、はじめのうち、原初生命体・・・いや、ゲノムの搭載されてない生命前駆体は、ただ塩基をでたらめに並べただけのものだったにちがいない。
四種のヌクレオチドのパズルは、自律的にらせんの連なりとなるわけだから、とりあえず自然は、塩基を並べた長い長い核酸のヒモを編み上げた(と仮定していく)。
このヒモにジョイントできるのは、固有の分子構造によって、任意の塩基の相方と定められてるから、その一対一対応の結果、最初の塩基配列を鏡写しにしたもう一対の配列が編み上がる。
編み上がった二本ヒモの縦の連なり(ヌクレオチド同士)はイオン結合で固く結ばれてるけど、ヒモ・ヒモの横のつながり(相方塩基同士)は水素結合だから、電子でも走らせれば、ジッパーのようにあっけなく別離できる。
塩基の対配列、すなわち、最初のRNAをメス型としたオス型の鋳込み型ができた。
あとは、こいつを使ってコピーしまくるだけだ。
そして、閉じた系の離れた場所にふたつのコピーを配置してたある日のこと、アクシデントが発生し、系が真ん中からちぎれる。
不細工ながらも、分裂ができた。
こいつにダーウィン進化をさせれば、ゲノムが組み上がりそうだぞ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・23

2023年12月26日 08時40分40秒 | 世界のつくり

23・細胞分裂、って

たくさんの細胞からできたぼくだけど、かつては小さな小さな生殖細胞だった。
父ちゃんの精子細胞がくっついた母ちゃんの卵子細胞。
ふたつがひとつになったこの一個の受精卵が、最初期のぼくの姿。
ぼくは、もともと母ちゃんと父ちゃんだったわけだ。
ぼくは実際に、父ちゃんと母ちゃんの肉だったんだ。
ふたりにつくられたんじゃなく、ぼくはこのふたりだったんだよ。
それがいつの間にか分かれて、ぼくというアイデンティティを獲得して、ぼくになった。
父ちゃん細胞が這い込んだ母ちゃん細胞が分裂し、さらに分裂活動を繰り返すうちに、父ちゃんと母ちゃんのアイデンティティが打ち消え(忘れ去られ、と言ってもいいかもしれない)、別個性であるぼくちゃん細胞になったわけだ。
父ちゃんと母ちゃんをさらにさかのぼると、(ふた組の)じいちゃん細胞とばあちゃん細胞に行き着く。
ぼくはかつて、じいちゃんとばあちゃんと、別のじいちゃんとばあちゃんという、四人だったんだ。
さらにさかのぼる。
ぼくのご先祖さまは、すべてがぼくのかつての姿だ。
ご先祖さま細胞はおさる細胞から分裂したものだし、おさる細胞は原初哺乳類細胞から分裂したものだし、さらにさらにさかのぼれば、ぼくは原初真核生物に行き着き、もっともっとさかのぼれば、最原初の単細胞=彼にたどり着く。
最もシンプルで、必要最小限の装備しか持たない、スタートアップな原形質の細胞に。
この原形質が細胞分裂をした瞬間に、生命体は生命体の体を成し、彼はぼくになったんだ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・22

2023年12月16日 12時20分27秒 | 世界のつくり

22・生体、って

原点に戻って、生体とはなんなのか?というところから考えてみる。
現代的な定義によると、脳死した肉体は生きてない、とされる。
大雑把な相関関係では、大脳は考えを、小脳は運動を司るので、これらが機能しなくなると、ぼくは「ぼくの世界」というアイデンティティと、そこでの活動とを失う。
ところがそんな状態に陥っても、脳の一部(脳幹のへん)の機能が残ってると、ぼくの心臓は自律機械としての鼓動をやめない。
心臓は、ぼくの意思から独立した活動部位なんだ。
フルオートマチックモードの心筋が動くと、血液が肉体内を勝手にめぐってくれる。
血液がめぐると、肺から取り込まれた酸素(この臓器の活動は意思から独立してないので、無理矢理に気道から空気を送り込む作業、すなわち、外的な力による酸素吸入が必要だ)がめぐってくれる。
酸素がめぐると、細胞に栄養が行き渡るので、ミトコンドリアがエネルギーをつくって全身に活力を展開させ、要するにぼくは瑞々しく生きたままの姿でいられる。
なのに、その肉体は生きてはいない、とされるんである。
脳内組織の通電こそがぼくそのものなんであり、それなしに活動するボディはもはや何者でもなく、自律駆動する物体、と言える。
ただ、細胞ひとつを生命体と考えると・・・殊に細胞内器官として組み込まれてるミトコンドリアなどは、もともと独立した生命体だったことから、大きなぼくが脳死をしても、別の形でぼく(の一部)は生きてる、ということになる。
が、もはやそのぼくは、ぼくではない他者だ。
いったい、細胞がたくさん集まってできたぼくとは、どの部分、そしてどのプロセスから先が、生命を宿した存在と言えるんだろう?

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・21

2023年12月11日 07時35分39秒 | 世界のつくり

21・世界の支配者、って

ゲノムは、あなたの形質そのものと言えるけど、そんなあなたは、ゲノムのほんの一部でしかない。
あなたはあなた独自のゲノムを持ってるけど、ゲノム本体は天体規模で大展開してるんだ。
あなたは、ゲノムという地球上の全生命体を網羅した設計図の、枝分かれした末端でしかない。
ゲノムは、過去にあなたを含めた環境をつくり上げ、今なおさらにつくり込んでる最中だ。
ゲノムは、ただ一度きり、地球上に発生した。
そして、現在この瞬間においても、ゲノムはそのひとつきりだ。
ただ、幹から分かれた枝先がほぼ無限に細分化してるんだ。
種(しゅ)という枝がさらに枝分かれして枝分かれして枝分かれしきった先っちょに、あなたという新芽(子という新たな芽が発生してればあなたはすでに分岐してるが)が伸びてて、その先はなおも未来に向けて枝分かれしていく。
時間という縦方向でつながり、空間という横方向でつながり、ゲノムは世界にあまねくひろがる。
そのひろがりきった枝を分岐点に分岐点にとさかのぼり、太い幹を下って根元に収斂する一点が、彼だ。
彼こそがゲノムのコアなんだ。
彼を生み出すということは、世界をつくるという作業でもある。
彼のボディはつくった。
仏つくって魂入れる。
あとは、彼のゲノムをつくらなきゃならない。
いや、彼というゲノムを。
ゲノムという彼を。

つづく

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世界のつくり/生命編・20

2023年12月07日 10時26分45秒 | 世界のつくり

20・タマシイ論、って

「肉体にタマシイを込める」という霊的な言い回しは、科学的には「物質にゲノムの機能を持たせる」と言い換えられそうだ。
そのプロセスは昔から、神さまの思し召しと考えられてきた。
しかし、無機物同士の噛み合わせからはじまったわれわれの積み木細工は、ついに生理のメカニズムを大構築した。
素朴な石ころは、深海底で長い長い歳月をかけて揉まれた末に、自律式の機能体という高みにまで発展したんだ。
このやり方で、さらに創発を何段階も推し進めれば、必要最低限の情報を内蔵したゲノムを出現させることは可能だろうか?
ゲノムは霊的なものじゃなく、物質世界の物理現象と化学反応を用いた緻密なネットワークだ。
現代に生きる高等生物が獲得した「混沌の極限」と言いたくなるゲノムだって、上記のシステムをただ多様で多面多角的に複雑化させたものにすぎない。
だったら、そいつの最もシンプルで原初的な形と様相を、この物語で再度つくり上げてみようではないの。
・・・と勢いこんでみるが、いやはや、なんと壮大で困難な事業をはじめてしまったんだろう、この書きものって。
それでも生命は、すっからかんだった最初の時点で、この最重要にして最難解な「内容物」を持ったんだ。
とすると、ぼくらが思考実験でつくり上げたソフトなしの空っぽのハードが、自力でソフトをつくり上げたわけか。
でなければ、先立つことハードなしの剥き出しのソフトが自然界から与えられてて、それがハードをつくり上げるしかない。※1
しかし、指示書があっても機械がなければどこからも手をつけられないし、機械があってもそれを動かす指示書がなければそもそも起動ができない。
このごちゃごちゃに入り組んだプロセスの、いったいどの時点で「生命」は目を覚ましたんだろう?
ところで、ぼくらが生きた後の「死」という世界は、生まれて「生」をはじめる前の世界のことだよ、という死生観がある。
その暗闇に展開するのは、おなじみの量子場だけど、またそこに立ち帰るしかないのかなあ・・・(読者のうんざり顔が目に見えそうだ)

つづく

※1 「ソフトがハードをつくる」というのが、現代を生きるわれわれ生命体の順序だ。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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