裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

生命の誕生、その思考実験・1

2020年09月29日 09時48分46秒 | 生命の誕生
結局、行き着くところ(・・・逆か。出立するところ、と言わねば)は、深海の熱水噴出口のようだ。
ここなら、海ができたての頃に宇宙から受けた隕石の重爆撃や、海面の荒波や干上がりからも逃れることができる。
生命がまだ発生してないむかしむかし、誰もいないそんな原始の海に・・・鉱物と無機質な水しかない海の底に、金属が溶け込んだ熱水が噴出してたわけだ。
地中深くから薄い地殻を破って飛び出した金属の水溶液は、海底に煙突のような塔をつくる。
そこには、細かな洞穴が・・・極微細なくぼみがたくさんできる。
そんな穴のひとつにあぶくがコロリと転がり込み、有機物をはらんだわけだ。
ここで何度も書いてる生命の誕生(赤ちゃんが生まれるってことじゃなく、最初の生きものがこの世に生成された話)について、おさらいをしておく。
生命の定義は、突き詰めればたったみっつで、すなわち・・・
1・閉じた系であること(例えば膜に包まれてる)
2・その姿を維持できること(新陳代謝ができる)
3・自分を複製できること(分裂したり、子供を産んだりしないと、命は一代限りで途切れてしまう)
・・・というもの。
閉じた系は、前にも話したっけ?リン脂質みたいな「片方が親水基(水を好む)で、もう片方が疎水基(水を嫌う)」という棒状の物質がたくさん並んで球体をつくれば、泡という形で実現できる。
このタイプの物質は、水に放り込めば自動的に閉じた系になるので、要するに、水の中で油の玉ができる感じだ。
じゃ、リン脂質なる有機物をどうつくるか?という問題だが、これはむかしむかしに実験したひとがいて、無機物の水溶液を閉じ込めた密封ガラスビンを熱したり通電させたりしてるうちに、有機物の生成が確認できた。
つまり自然界においても、熱せられた無機物に雷が落ちれば化学反応で有機物化する、ということだ。
なかなか勇気がもらえる実験結果ではないか。
しかし、生命を発生させるには、ここからが難しいんだった。
そこで海底の熱水噴出口!というわけなんだけど、まずはあぶくができた。
ここでは、高温の金属水溶液がものすごい速度で飛び出してくるために、電気まで起きるようだ。
だとすると、あぶくの中で無機物を有機物化させることもできる。
以前には、海の浅瀬が「有機物のスープ」のような状態になり、そこに雷が落ちて生命が誕生した、というのが半ば定説化してたわけだが、その状況を海底にもつくることができたぞ。
さて、この有機物のあぶくが、周囲に充満した電気を吸収する。
難しい話になるけど、元素から電子を剥ぎ取ってイオン化させ、その勾配を利用してエネルギーを発生させ、自発的に物質を変換する、という作業は、神がわが世界に与えたもうた化学反応のみでできるようだ。
つまり、「生命による意志」なしでも。
いわば、自然界の全自動新陳代謝システムだ。
親水基と疎水基でできた膜が、外から必要な物質を透過させれば、あぶくは体内にため込んだエネルギーを使って、自らを平衡状態に保つことができる、ということだ。
困難に思えた新陳代謝まで、ぼくらのあぶくは実現させたぞ。
そろそろこのあぶくのことを、親しみを込めて「彼」と呼ぼうではないか。
ところが、彼にとって最も高いハードルが最後に待ち受けてるんである。
自分の複製をつくる!
現存する生物における複製のメカニズムは、例のDNAを用いたもので、要するに前の世代から受け継いだ形質をコードスクリプト(暗号、と言えばいいんだけど、シュレディンガーのこの言葉を使ってみたかった)に書き起こし、それを二枚にコピーする。
このコピーの内容は、その生命体のアイデンティティとも言うべきもので、実質、この情報こそが、彼を彼とする概念・・・つまり、彼そのもの、ということになる。
肉体なんてものは、この情報が集めた物質の一時的なかたまりに過ぎないのだから、逆に言えば、「彼自身」とは肉体などではなく、情報そのものなんである。
さて、二枚のコピー紙を一枚ずつ受け取った彼ともうひとりは、それぞれに補食した物質をアミノ酸レベルまで分解し、それらをコードスクリプトのレシピ通りにタンパク質の形に編み上げ、各所に正確に配置して、アイデンティティーの移植を完了させる。
この設計図の具現化によって、ひとりがふたりになる、というわけだ。
どうやらこの難しい作業の実現が、世界最初の生命発生、すなわち「鉱物に魂が宿った瞬間=生命の誕生」ということになりそうだ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
コメント
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