裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

mRNAワクチンとは?

2021年09月12日 08時56分27秒 | サイエンス・ガクジュツ的な

mRNAワクチンのメカニズムの、最も簡潔かつ基本的な知識をここに書き留める。

さて、ワクチンの前にまず、「ウィルス」について理解しておかなきゃならない。
ウィルスは、微生物である細菌などとは違って、呼吸も新陳代謝も自己複製(自発的に子孫をつくること)もしない、生物と無生物の中間にある物体なんだ。
その構造はシンプルかつ無機的で、ほぼDNA(自分のコピーをつくるための設計図)の入ったカプセルと言っていい。
能動的に動けないので、空中を浮遊して移動するしかない(生物というよりも、鉱物に近い)。
ところが、これが生物の体内に入り込むや、寄生先の細胞のDNAに働きかけて自分のコピーをつくらせ、増殖して(させて)いく。
増えに増える。
やがておびただしいウィルスにおかされた寄生先の生物は、せきやくしゃみをさせられる。
あるいはうんちや、さいあく死んで腐って体液を垂れ流すことで、体内のウィルスをさらに世界中にばらまかされることになる。
かくてウィルスは大繁栄する、というわけ。
・・・ふむー、無生物が書いたにしては、うまいプロット(台本)だ。
上記したように、ウィルスは生物とは言えないので、毒では殺せない。
蚊取り線香でも、殺虫剤でも、いわゆる「殺菌作用」のやつでも無理。
生きていないから、死なないのだ。
つまり、壊すしかない。
なので人類は、アルコールで彼らを溶かして、浸透を防御するんだね。
だけど、一度体内に入ってしまったものはどうすることもできないので(お酒を飲んでもだめなようだ)、ワクチンを、というわけなんだった。

RNAの前に、まずはDNAのシステムをおさらいしておこう。
DNAは、四つの文字(塩基)によってその生命体の遺伝情報が書き込まれた二本のひも状分子で、おなじみの二重らせん構造に絡み合っている。
片方のひもに書かれた文字列は、もう片方のひもの対面の文字列と対になっているので、二本をほどき、それぞれに対応する塩基を新しくパズルのように当てはめていけば、文字列を新たに複製することができる。
そうしてコピーをつくることで情報を保存し、自らを収蔵して便利に動きまわれる生命体そのものを組み立て、維持し、子孫(遺伝実体のコピー)にまで情報を連綿と受け継がせていこうというのが、DNAの企てなんだった
生物は、DNAの指令によって行動し、遺伝情報を伝えるために次の世代をつくらされているに過ぎない存在なのだよ、ちょっとこわいね・・・
ま、それはさておき、肝心のRNAだ。
RNAは、DNAの文字情報を「実体」としてつくり上げるために働く、コピペ係と言っていい。
まずこいつは、DNAの二重らせんの一部をほどいて、二本の対となっていた文字列をむき出しにする。
さらにその片側にくっつき、欲しい情報(わりと短文であることが多い)を読み取って、対となる文字起こしをする。
この文字は記号ではなく、塩基という物質でできているので、塩基の配列を新たにつくれば、情報のコピーの持ち出しは可能なのだ。
この短い一重らせんの形をしたコピーこそが、m(メッセンジャー)RNAだ。
mRNAは、得たコピー情報を細胞内のリボソームに持ち込み、読み取ってもらう。
すると、t(トランスファー)RNAというやつがアミノ酸をつないでいき、欲しかったタンパク質の形に編み上げてくれる。
噛み砕いて言えば、人体の仕組みを網羅したファイル(DNA)を元に、必要なパーツの設計図をmRNAがコピーして工場(リボソーム)に渡すと、作業員(tRNA)が材料を集めて組み上げてくれる、というわけなんだった。

さて、いよいよ本題のmRNAワクチンだ。
ここで重要なのが、コロナウィルスが体内に格納しているのは、DNAではなく、RNAだという点だ。
遺伝情報は、必ずしも高度なDNAではなく、RNAの一重らせんの形でも事足りるのだ。
DNAという素晴らしく完璧なアイデアが生まれる前、古代世界に生きる先達はRNAによって情報を後世に伝えていたのだよ。
そんな名残なのか、コロナウィルスは自らの情報をRNAの形で保存しているのだった。
そのゲノムを読み取った人類は、それを逆手に取って、コロナ撃滅の反撃に出たのだな。
日々、報道などで目にするコロナウィルスの姿を思い浮かべてほしい。
ころりと丸いボディに、「スパイク」というトゲトゲが飛び出している。
この突起は、コロナウィルスが生物に取り込まれようとする際に、相手の「レセプター」という受容体と噛み合わせるためのジョイント部だ。
要するに、人類の体内の細胞にコンセントがあり、ウィルスのスパイクは、それにぴったしと合うプラグの役割を果たすわけだ。
このタンパク質製の小パーツ(スパイク)の構造をコピったmRNAこそが、mRNAワクチンなのだった。
さて、「コロナウィルスのスパイクパーツの遺伝情報」を、きみの体内に注射するとどうなるか?
細胞深部に浸透したmRNAは、リボソームに働きかけ、tRNAにアミノ酸をタンパク質の形につながせて、スパイク(つまり、コロナウィルスの無毒な一部)を作成し、体内に解き放つ。
対してきみの体内の免疫機能は、この異物を排除しようと襲いかかる。
スパイク自体にはなんの害もないので、人類は罹患することもなく、この対決(練習試合)にあっさりと勝利できるのだった。

人類の体内に侵入してきた異物を「抗原」といい、特定の抗原に対応する専門の迎撃隊を「抗体」という。
件の模擬戦での勝利によって、きみの体内には、コロナウィルスのスパイクに対応する抗体ができたわけだ。
この一回目の戦闘後、コロナスパイクにぴたりと接合するレセプターを獲得したきみの免疫系は、戦った相手の面構えを知る「記憶細胞」として眠りに就く。
さらにきみは何週間か後、二回目のワクチンを打つわけだが、このときの体内の反応がすごい。
「こないだのあいつがまたきゃーがった!」とばかりに、記憶細胞が一斉に目を覚まし、抗体として爆発的に増殖して迎え撃つのだ。
こうして二度の注射を終えたきみは、コロナウィルスに対するおびただしい防衛部隊をからだ中に展開し、隅々にまで警戒のセンサー網を張り巡らせて、さらなる襲来に備える態勢を整える。
そしてついに、すわ本番!となる。
きみは実際に感染して、いよいよコロナウィルスという本物の害毒が入ってくる。
ところがそのときには準備万端、アリ一匹通さぬ(アリの方がウィルスよりもはるかに大きいが)免疫センサーがウィルスのスパイク部分に反応し、素早く、かつおびただしいキラー細胞たちを前線に差し向けるわけだ。
きみは、二度のワクチンという「罹患の疑似体験」をすることによって、堅固な防衛態勢を敷き得たのだった。
まったく、うまく考えられたもんだよ、mRNAワクチン。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

コメント
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