裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/意識編・3

2024年01月24日 10時13分58秒 | 世界のつくり

3・彼の中に生きるものたち、って

適者生存による自然淘汰を受ける上に獲得形質を遺伝させないダーウィン進化に主体性を持ち込むのは整合性に問題があるけど、これは物語なので以降も、彼の中の「装置の駆動」を「行動」とし、その振る舞いを能動体の形で描かせてもらう。
その彼に意識を持たせよう、って試みがこのお話なんだから、まったく矛盾したものだ。
ま、そこはこらえてもらうとして・・・
さて、彼は絶え間なく働きつづけてる。
外界から材料を取り込み、新しい部品を組み上げ、壊れたものを外して交換し、必要のなくなった古材は体外に排出する。
外界からは、単元素のような粗素材だけを取り込むわけじゃない。
欲しいのはぶっちゃけ、アミノ酸だ。
古い時代にそのアミノ酸をいちから組み立ててたことを、彼は遺伝子の中に記憶してる。
めんどくさいそれをすることもできるけど、都合のいいことに、外界にはそいつが・・・つまりアミノ酸がふんだんに漂ってる。
それどころか、アミノ酸を長々と連ねたタンパク質、脂質、核酸などの高分子までが、周囲には濃厚に存在する。
それらは彼のように生命体になりきることなく、実験段階で敗れ去り、崩壊していった前駆体たちの残滓だ。
おびただしい前駆体が、数億年もの間、駆動原理と素材開発競争の中でさまざまな試行錯誤を繰り返した末に、ついに生命を獲得することなく、海の底のもくずとなったんだ。
図らずもそれが今、彼の「食べもの」となってるわけだ。
彼は外界のものを飲み込むとき、物質の選別のために小さなチャネルを利用するけど、もっと大きなものを「自分の外膜ごと」丸呑みする(エンドサイトーシスという)こともできるんだ。
そうして体内に取り込んだ高分子は、組み立てとは逆に分解され、アミノ酸に選別される。
さらに、ゲノムにコードされた順序で各種アミノ酸を並べてタンパク質の形に合成し、自分のパーツとして望みの部位にはめ込む。
なんと楽ちんな新陳代謝だろう。
おびただしい前駆体は、こんな分解と再構築の化学反応を磨き上げる数億年を送り、その技術を最終的に彼という洗練形に極めたんだ。
つまり、彼の中には途方もない数の生命前駆体が生きてる、ってことになる。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・2

2024年01月22日 11時35分45秒 | 世界のつくり

2・最初期生命体の営み、って

彼は、最もシンプルなつくりをした単細胞の原形質だ。
まだ、生きていく上における最小限の装備しか持ってない。
生きることのみに特化した彼の外観には、手足や目耳はおろか、口も肛門もついてない。
だけど、体・・・というよりも「彼という物質系」を覆う脂質の膜には、イオンチャネルという出入り口(弁)が設けられてて、彼の内部と外界との電荷の勾配で物質がやり取りできるようになってる。
彼はその構造を利用し、必要なものを受容することができる。
だけど周囲には、爆発的燃焼剤である酸素も、光合成に道を開く太陽光もなく、鉄や硫化水素や二酸化炭素などという味気ない素材しかない。
それでも彼は、各種イオンを内部に取り込む際に酵素を駆動させ、粗分子から元気玉を組み上げるという仕事をすでに体得してる。
そうしてできた元気玉を用い、日々、単純な代謝にいそしむ。
体内で行われてるのは、物質の酸化・還元という化学反応(電子の使い回し)だけど、これがうまい具合いにエネルギーの循環となる。
ひと仕事を終えると、おつりのようなメタンが生成されると同時に熱も発生してるので、どちらも体外に捨てる。
彼はこうして、ふさがった系の中でエントロピーの平衡状態を自律的につくり出す。
ただその作業は、彼の意を反映してるわけじゃなく、ゲノムの命ずるところのものだ。
そんなゲノムもまた、自分の目的を反映させようと意図して命じてるわけじゃない。
自然界の現象が積み重なって積み重なって、たまたま「このやり方は系の中で物質がサイクルする」というメカニズムに行き着き、たまたまその仕様を核酸が塩基配列にコードしただけだから、その先のことなんて考えも及ばない。
つまり、彼のスタイル構築にも、その内部系統にも、さらには彼の仕事っぷりにも、どこにも「意識」は働いてない。
彼は、意識を持ってないんだ。
まだ。
だとしたら、彼の意識はいったいいつ、どこで、どう芽生えたんだろう?

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・1

2024年01月18日 18時21分20秒 | 世界のつくり

1・最初の生命体、って

彼はこの世界に生まれ、「生命」なる得体の知れないものを起動させた。
いや待てよ・・・「生まれ」という言い方は厳密な意味では正確性を欠くので、「できた」と表現するべきかな。
「・・・を起動させた」という言い方も、あまりにも自覚的かつ能動的すぎるかもしれない。
正確を期して、「彼の中で精密に噛み合った自然物からなるメカニズムの活動が自律的に開始された」と受動体にしよう。
とにかく、彼は無自覚なまま、「生き」はじめたんだった。
彼は生きることそのものを全機能とし、ひとまず死なないことを全うすることに特化した、純粋な生存機械だ。
その存在自体が生命現象そのものと言ってよく、他に意図も目的も持たない。
エネルギーを循環させること以外にはなにもできないし、自分が何者であるかも、なんのためにどう振る舞っていいかもわからない。
なにもできない、ただの「はじまりから終わりまでを自己完結させる有機物塊」だ。
彼は、あなたが思い描くよりもずっと単純で素朴なつくりで、あり得ないほど小さく、心細い見てくれなんだ。
だけど、膜によって外環境から完全に独立してるし、エネルギーと物質の流れが体内・体外の間でサイクルしてるし、そんな自分の複製をつくることもできる。
ただ、その他にはなにもできない。
さて、この先、どうしていこうか。
彼には、情報の入力網(神経系)もなく、出力装置(手足)もなく、もちろん脳も意識もない。
持ち得たのは、五感を超えた直観だけだ。
そんななにも考えることができない彼だけど、立派なことに、ちゃんと理解してる。
「動けるかぎりに動きつづけよう」と。
どういうわけか、そんな意欲に突き動かされるし、それが「生きる」ということだと訴えかけてくるものが内側にある。
それこそが、ゲノムの役割りなのかもしれない。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/生命編・おしまい

2024年01月10日 09時26分27秒 | 世界のつくり

おしまい・生きる、って

最初期生命体である彼が獲得した能力は、自然界から電子を取り出すシステムだ。
この目の付けどころはすごい(目はまだないけど)。
ま、なんの食べものもないこの時代には、ジャガイモからデンプンを、肉から脂質を、なんて難しい化学(いや、むしろ手法としてはイージーなんだが)は不可能なんで、周囲に存在する元素の分子構造をいじって、最も初歩的なパズルの組み替えをするしかなかったわけだ。
とは言え、現代の高度知性を総動員しても困難極まる、こんな極限小のデストロイ&ビルドをやすやすとやってのけるとは、最初期生命も侮れないものだ。
だけど、そここそが自然特有の着想と手法なんであり、現象としての最初手なんであり、あり合わせかつ徒手空拳の生命体には、それ以外にはやりようがなかったんだ。
彼が発明したこの初手は、モダンな言い方では、呼吸というやつだ。
呼吸の役割りは、酸素や炭素を取り込んで固定する※1という二次的な利点もあるけど、究極的には、分子から電子を剥がして駆動部のスイッチングに用いる、ということに尽きる。
この作業さえ覚えれば、生きてるかぎり、システムの作動をつづけることができる。
逆に言えば、このサイクルこそが「生きる」ということなんだ。
彼は、まだまったく頼りない、微細な有機物塊だ。
だけどこの一大事件が、きみやぼくの存在へと一直線につながっていく。
彼のつくった「この世界に存在する」という概念そのものが、本当にまっすぐにきみやぼくに受け継がれてるんだよ。
まったく、信じられない奇跡だ。
ハッピー・バースデイ!生命。

おしまい

※1 もちろん、酸素が地上に現れるのは相当後の時代のことだし、太陽光の届かない深海底では光合成反応も使えない。そこで彼は、硫黄を取り込んでメタンを生成しながら炭素を固定する原始的な化学反応・・・つまり呼吸をしてたと考えられる。

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世界のつくり/生命編・27

2024年01月08日 09時44分12秒 | 世界のつくり

27・生命誕生、って

われわれ全生命体の希望である「彼」は、ついに単純な活動機械にゲノムを搭載し、生命現象を獲得した!
塩基の配列は、彼がすべきことをコードするに至った。
それは、「生きていく」上において必要不可欠で、かつ、最小限度の情報だ。
内容は、シンプルだ。
「壊れたら、直せ」「部品の集め方は、こう」「つくり方は、こう」・・・
彼は、生きよう、とはまだ考えることができない。
生きる、の意味がまだわからないんだから。
だけど、死なないようにせよ、というゲノムの命令に従う。
そして、さらに重要な命令がある。
「すべての部品を集め」「もうひとつの自分をつくり上げ」「増やせ」・・・
その命令すらコピーし、次の世代に渡す。
こうすれば、自分が滅びても、系をつなぐことができる。
原初にして、なんという知性の奥深さだろう。
彼は、まだまだ荒削りではあるものの「閉じた系」「新陳代謝」「増殖」という最低限の条件を備えた装置内で、その操縦桿を握ったんだ。
ここに至るまでのハード&ソフトの構築作業は、前駆体のいわば「なんちゃって進化」によるものだった。
外界からの干渉による分身・散開と、成りゆきまかせにした塩基の切り貼りからは、自発的な活動などは生まれようがなかった。
だけど、彼はその高みにたどり着いた。
もちろん、彼はまだ意識などというものは持ち得ないものの、とにかく自律式の循環機能を・・自分の内側だけで回せていく独自世界を手に入れたんだ。
彼だけが、それを手に入れた。
彼以外の誰もそれを実現できず、他の実験体の系は、ことごとく滅んでいった。
つまり、今ここに、彼による万世一系の生命が誕生したんだった。

つづく

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世界のつくり/生命編・26

2024年01月01日 09時28分38秒 | 世界のつくり

26・生命の夜明け前、って

乗りもの、機械としての「物質的な彼」は、すでにチムニー内の環境で自然の力によってつくり上げられ、自律駆動の段階にまで達してる。
今つくり上げられんとしてるのは、その操縦者としての「ゲノムの彼」だ。
乗りものは、そこに乗り込む操縦者がいて、はじめて自由な活動を獲得するんだ。
ところでふと思ったんだけど、初期ゲノムは、自分自身のアイデンティティを確立させるよりも、中途半端ながらも自身をまずは分裂させることにプライオリティを置いたんじゃないだろうか。
このスタンスなら、塩基配列の書き換え機会と実験効率はべき乗となり、幾何級数的(倍々ゲーム)に進化を繰り返せる。
数撃ちゃ当たる作戦だけど、これならわずか数億年もあれば、生命メカニズムの洗練度は文字通りにケタ違いになる。
アクシデントにまかせてふたつにちぎれるだけだったRNAは、おびただしい試行錯誤によって分裂の精度を上げ(やがて二重らせんにまで発達することになる)、塩基文字の表意配列は物質の構成にまで言及するようになり、そこにコードされた内容を別ユニットが理解(ジョイントの形状の噛み合わせ検索)するようになり、指示に応じて必要な物質を集めるセクション(トランスファーRNA)や、それらを組み立てるセクション(リボソーム)、組み上がった製品をたたんだり振り分けたり配達したりする分業制にまで・・・んー、これははるか未来の話とはいえ、そう育っていくヒントを獲得していったにちがいない。
まだまだそんな構造の初歩的段階だけど、生命前駆体である彼は、ついに成長のコツをつかんだ。
無限とも思えるほどの途方もない塩基配列を試してみる。
環境になじまない試みはあっけなく打ち捨てられるが、たまたまアジャストしたものは抜きん出てコピーを増やし、台頭し、またその中から突出したアイデアが生まれ・・・まさしく加速的に進化は突き進む。
ゲノム・・・いや、今や「遺伝子」と呼ぶが、そいつのブラッシュアップと適者生存の淘汰律が働きはじめれば、あとは彼の意識が目覚めるのも時間の問題だ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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