裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

生命の誕生、その思考実験・5

2020年11月27日 09時39分44秒 | 生命の誕生
開かれた系において、有機物がたまたまぶつかり合ってアミノ酸の構造に結んだり、アミノ酸がたまたま絡み合ってタンパク質を形成したり、という確率は、ほぼないらしい。
それが偶然に起きるには、パズルのピースが多すぎ、構造規模が大きすぎるのだ。
ところが、物質がギュウギュウ詰めに凝集し、そこに高いエネルギーが介入すると、複雑な構造の生成は不可能とは言えなくなるようだ。
「有機物のスープに雷が落ちて生命が誕生」するわけだ(この言い回しはかなり粗雑だが)。
さて、場面は振り出しに戻って、深海の熱水噴出口なのだ。
前述した通り、生命におけるエネルギーは、電子のやり取り・・・最も単純な例では、水素と二酸化炭素間での受け渡し・・・の際に発生するようだ。
こいつが熱水噴出口の周囲で起こってる、という話なんだった。
生命が存在しなかった昔々、大気中や海洋内に酸素はほぼ皆無だった(光合成をしてくれる植物がいないため)。
海の中は、二酸化炭素で満たされてたわけだ。
現代のような酸素たっぷりの海の中に水素が飛び込むと、両者は安定を求めて水(H2O)になるが、地球誕生当時の二酸化炭素の海に飛び込むと、メタン(CH4)になる。
メタンで生命が創造できればいいのだが、その後に誕生したわれわれの肉体は、極めて雑な言い方をして、「メタンになりきる前の中間物質」であるホルムアルデヒドからメタノールあたりの「雰囲気」でできている。
つまり初期生命は、安定した水素と二酸化炭素の壁は化学変化で飛び越えたが、メタンに到達してしまうほどには変化しすぎなかったわけだ。
その中間の不安定な物質に留まって、生命は創造されたのだ。
こんな難しい作業を、魔法で実現させてくれるのが、深海の熱水噴出口の周囲というわけだ。
この穴は、鉄と硫黄でつくられた(要するに、これらの金属まじりの熱水が噴出する)煙突とワンセットになっており、そのスポンジのように多孔質な壁面は、微細な迷路が稠密に入り組んだ構造になっている。
煙突の外には二酸化炭素の海があり、一方で内側からは、水素をたっぷりと含んだ熱水が噴出してくる。
水素の熱水と、二酸化炭素の外海との間が、硬いスポンジの煙突によって隔てられているわけだ。
煙突を形成する素材である鉄と硫黄の化合物は半導体で、電子が都合よく通過できるようになっている。
水素と二酸化炭素が壁なしに混じり合った場合、両者は安定を求めてそのままでいつづけるか、メタンとして一体に組み合うかの二択となるが、この「スポンジ質な半導体の壁で隔てられた環境」は、不安定な物質を化学生成させるのんびり反応に非常に都合がいい。
しかも熱水噴出口では、水素を噴出させる煙突内と、外界である海との間に、前にも言ったプロトン勾配(「陽子=+」と「電子=-」の濃度による電荷の差)がある。
内と外とで陽子(プロトン)の数が違うために、浸透圧により、陽子も電子も多い方から少ない方に流れたがるのだ。
これが勾配(理論上の坂の角度)となり、海底深くから噴出してくる水素まじりの熱水から、二酸化炭素の海に向かって、半導体である煙突の迷路を電子がほとばしる。
エネルギー、すなわち電気の発生だ。
スポンジの中で眠っていた無機物が有機化され、多孔質な煙突の小部屋に、生命の素とも言うべき初期物質(単純なアミノ酸など)が濃縮されてたまっていく。
「開かれた系において」と、この文章の最初に示唆しておいたが、閉じた系においてこうした物質がギュウギュウ詰めにせめぎ合えば、アミノ酸が結びついてタンパク質になってくれたりもするかもしれない。
プロトン勾配による電子や陽子の移動(系への出入り)を経験し、学習した小部屋の壁(リン脂質かそれに近い機能のもの)は、前回に説明したATP生成システムのような構造を発達させるかもしれない。
自分でエネルギーを使いまわせる機構の誕生だ。
こうしてついに、生命のタネができる。
もう一度まとめると、こうだ。
ゴツゴツとした熱水噴出口の周囲に、岩の微細な孔を利用した小部屋ができる。
その中に、有機物の前物質が閉じ込められる。
海底から噴出する金属の作用により、小部屋の内外で電子や陽子の移動が起きて電気が発生し、エネルギーが充填される。
小部屋内で化学反応が起き、有機物が生成され、それらがつながってアミノ酸になる。
稠密に入り組んだ穴の中では、化学反応もゆっくりだ。
せまく暗い迷宮には逃げ場もなく、生成された物質の密度も高くなっていく。
アミノ酸同士が押し合いへし合い状態となり、凝集が起き、ぶつかり合い、つながり合って、タンパク質になる。
こうして、多様なタンパク質が一箇所にそろったとしようではないか。
それらが連動して機能をしはじめ、自発的なエネルギー発生システムが備わった、ともしよう。
岩の穴の中に閉じ込められていたそれら一連の機構だが、ついに脂質によって完全に閉じた、つまり移動可能なマイルームを手に入れる。
活動サイクルが行き届く支配地域を囲む区画壁ごと自分の素材でつくり上げ、代謝活動に組み込んだ「肉体」に丸まったわけだ。
ついにこのあぶくを「彼」と言おう。
彼は、熱水噴出口という外部環境から切り離され、海の中で完全な独立を果たす!

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
コメント
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