本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

誰も知らない

2018-07-14 06:31:39 | Weblog
■本
56 戦前の大金持ち/出口 治明、稲泉 連、山川 徹
57 国体論 菊と星条旗/白井 聡

56 ライフネット生命保険の創業者であり、現立命館アジア太平洋大学学長である出口治明さんによる、戦前の大金持ちのスケールの大きなエピソードから教訓を読み取ろうという本です。スティーブ・ジョブスやイーロン・マスクといったITベンチャーの伝記を読んでいるかのような、癖が強すぎるそれぞれの個性に接することができ、とても面白かったです。各人に共通するのは、世界を相手にすることの躊躇のなさと、常識に囚われず自分の信念や情熱に基づく一途な行動力(そして豪快なお金の使い方)です。そのような行動様式が、グローバル化が進展し不確実性が増す現在の日本人にも求められていて、とかく小さくまとまりがちと言われる日本人も、そのような特徴を持ったのは大量生産に最適化した戦後教育の影響によるだけで、本来は豪快に考えることのできるポテンシャルを持っていることがわかり、勇気づけられる本です。

57 「国体」という日本に独特な極めてあいまいな概念をテーマにしているため細部も含めて理解しようとすると非常に難解な本です。その一方でその幹となる論旨は明確で、戦前は「天皇」が、戦後は「アメリカ」が国体として機能し、戦前に国体としての「天皇」が、形成・発展・崩壊という過程を辿ったのと同じように、戦後の国体としての「アメリカ」も同じ過程を辿りつつあるのが、現在の日本の状況であるという議論が展開されます。第2次世界大戦末期と同じく、現在の日本は危機的状況であり、逆説的にその危機についての懸念をいち早く表明したのが、当事者として「国体」について最も考えられていた天皇による、生前退位を巡る「お言葉」であるという結論になっています。結局、従属する対象が「天皇」から「アメリカ」に変わっただけで、その恩寵にあずかることを期待して、我々国民が思考停止し続けていることが問題であり、自分の頭で考えることにより民主主義を鍛えていくことの大切さを訴えている本だと私は理解しました。


■映画 
53 誰も知らない/監督 是枝 裕和
54 そして父になる/監督 是枝 裕和

53 親に置き去りにされた子どもたちが必死にかつ、したたかに生きる姿をドキュメンタリータッチで描いた作品です。主人公の少年を演じた柳楽優弥さんの演技が完璧過ぎます。少年から青年に変わりつつある瞬間の、繊細さと傲慢さの危ういバランスが見事に表現されています。若くしてこんな大きな仕事を成し遂げたら、その後の人生がさぞや大変だっただろうなと想像できます。それだけに、最近、個性派俳優として活躍されている柳楽さんを見ると応援したくなります。結構悲惨な話の割には、観客を過度に感情的に煽るわけでもなく、どちらかと言えば、淡々とユーモアさえも交えながらストーリーが展開されます。子どもたちを悲惨な状況に追い込んだ理由を、頑ななまで個人に求めない姿勢から(置き去りにされた子どもの親たちは無責任ではあるものの、それなりに心優しく、魅力的にさえ思えます)、日本社会のシステム上の問題がくっきりと浮かび上がります。バッドでもハッピーでもないエンディングに、是枝監督の現実を単純化せず複雑なまま受け取ろうとする強い意図も感じます。「万引き家族」で評価された要素が、ほぼ全て含まれている極めて優れた作品だと思います。

54 続けて是枝監督作品の中でも評価が高いこの作品を観ました。新生児の取り違えに悩む二つの家族が描かれます。こちらも、責任を個人の登場人物に求めない優しさと、現実を単純化しない監督の意図を強く感じます。ただ、福山雅治さんというビッグスターが主演であるためか、ストーリーがよりドラマティックに展開され、主人公の見せ場に配慮されているような気がしました。リリー・フランキーさんは「万引き家族」でも見せた、飄々とした俗ではあるが悪ではない人物を好演されています。新生児取り違えの原因となった看護師の設定が秀逸で、この登場人物とその家族の存在により、物語がより重厚になり、良い意味で観客を混乱させることに成功しています。この作品もエンディングはバッドでもハッピーでもなく、もやもやとした気持ちが残りますが、それでも後味は悪くなく、監督の匠の技を感じます。
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