ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

「病者の光学」20240819(20210402)

2024-08-19 | Weblog

 

                                                                                        Dawnlight (youtube.com)

 

 


 誤謬は弱さではなく力であり、夢想は煙ではなく火である。

      (ドミニック・ルクール『カンギレム』沢崎他訳)

     *

記述命題「A」を定立する
すると、願っても願わなくとも
かたわらには必ず「非A」が配置される

正常/異常

正常であることを記述するとき
異常であることが同時に反照され
両者をわける区分線が自動的に引かれる

善を語れば悪が
美を語れば醜が
真を語れば偽が

意味と価値をめぐるラインが走り
世界は二極の構造として姿をあらわす 

     *

「正常-異常」を区切る一般意味は告げる
精神を病むことは正常からの逸脱である──

病む者の体験の内側に深く踏み入るとき
この一般意味規定はいったん崩壊する

「正常-異常」をわけるラインに従うかぎり
けっして触れることができない視線が生まれる

病んだ者に立ち上がる生の主題は一般意味から遠く
ただひとりの固有性において固有の問いを生む

「俺は、いまここを、いかに生きるべきか」

ただひとり〝俺にとって〟という病むことの意味の固有性
この問いは「正常-異常」という一般的意味規定を突き破る

「俺はほんとうに正常に帰還したいのか」

病者の視線が逆立ちした世界のライン設定を照らし出す 

一般意味から逆算され規定される「俺」ではなく
一般意味規定が触れることができない「俺」の実存

「正常-異常」のラインそのものを対象化する視線

正常への復帰とは、異常を生む環境世界への復帰であり
同じことの反復、再発の道をたどりなおすことにすぎない

世界の姿を固定すれば「俺」はある一点に配置される
「正常-異常」の正規分布の座標にマップされる「俺」

「ありえない」

「正常-異常」を切り分けて構成された世界に戻りたいか
そもそも、正常とはなにか、異常とはなにか

この視線は一般的意味として確定された〝正常〟を反照する光
世界の自明性、定常性を照らし返す光として動きだす

代替不可能、いちどきり、固有の歴史を生き抜くひとりの生
この代えがたさを一般意味に回収することはとうていできない

一般言語が包括できない実存としての生が放つ光
世界を照らし返すこの光の側に立つとき
世界とみずからの関係を読み換える新たなことばが生成する

「誤謬は弱さではなく力であり、夢想は煙ではなく火である」

 

 

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