ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

1995 わかれ

2006-06-30 | Weblog
ほんとうのおまえよりおまえが
すこし余計に良い人であったり
すこし余計に悪い人であったとき

過去かあるいは未来が
おまえの心臓を脅迫していた

季節に寄り添い
こころが風景の近くにあったとき
おまえは死の気配を感じていた

それは自然の酷薄なやさしさかもしれなかった

何度目かの訣別が訪れたとき
おまえは一つの風景を諦めたようにみえた

かたちのない喪失がこころに響いたとき
おまえは暗い自由を招き入れたようにみえた

いつも見ていた遠い山並みの向こう側から
とどいていたのはいったのは何

黄昏に染まった空の向こうへ
出て行こうとしていたのは何

谷間の里の風景につつまれ
幼いからだが乳を吸った場所で
おまえはいつか聞きかったのだろうか

尋ねられない問いを秘めながら
いつか答えてくれる誰かを
おまえは探していたのだろうか

〈たくさん生きるんだよ〉

賄いの湯気の向こうには
ほほえみが輝き
じぶんではない誰かを祝福することが
みんなの幸せだった
黄金の時間が流れた

それはあたたかな息と体温が結晶した
おまえがこの世で出会った
最初の光景のひとつをつくった

〈どこまでおまえは行くのだろうね〉

おまえの最初の記憶をつくった光景は
おまえが最後までたずさえていく
こころとからだがひとつに結ばれるための
チカラの原理だったのだろうか

ほんとうのおまえよりおまえが
すこし余計に楽しかったり
すこし余計に悲しかったとき
おまえはもっと遠くへ行きたいと考えていたのかもしれない

いつかほんとうのわかれがくる
その日のために
おまえは準備をはじめていたのだろうか

ひとつの訣別とひきかえに
すこしだけじぶんでかんがえ
すこしだけじぶんの手でつけ加えられる
何かがあることを

おまえは最初の場所から見ていた空の向こうに
そのことを予感していたのだろうか
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