ニンゲンの歴史より古い
からだが浸されている海があり
海は際限をもたず
どんな縁やボーダーも想定することができなかった
海はからだ深く浸透していたために
からだを浸す感触も定かではなかった
くりかえされる海の揺らぎの内側でからだは揺らぎ
ただ揺らぎつづけることでじぶんを保っていた
海は夢とも 幻とも
時として生々しい実在とも
さまざまに変幻しながら
どこまでいっても海であることをやめなかった
じぶんと海の境界を計る
どんなオーダーも存在しなかったのだろうか
しかしこの僕という意識は鮮明であり
あなたではないほからならぬ僕が存在し
あなたと言葉を交わすことのできる僕がいて
そして僕と画然と分けられたあなたが存在していた
あなたに何をつたえたいと僕は考えるだろう
あなたと触れ合い
近くに言葉や息や感情を聞いた僕は
いま訪れようとしている
恐ろしい終末の宣告に身をふるわせ
かたちをたどれない懐かしさをよみがえらせる
僕はあなたが激しい痛みに耐えている
目をそむけたくなるような苦悶の形相に
生命が引きうけなくてはならない過酷を
生涯にわたって支払わなくてはならない
生誕以来のせつないエネルギーの試行を見ていた
僕はこんな風にあなたを見ることを許されているのだろうか
あなたをこの世で一番いやなヤツと思ったことがある
誰よりも回避し遠ざけたいニンゲンだと感じたことがある
しかしいまその反目も否認も憎悪も軽蔑も
すべてがすべて不可解な変質を遂げて
あなたに抗った感情や観念が遠景に退き
ただ心をしめつける懐かしさだけがからだを包みはじめている
心はそこから遠ざかりたいと思っているのに
そこにはある不可解な力の作用があって
きのうまで嫌いだったあれやらこれやらが
耐えがたかった小さないさかいのひとつひとつが
許容できないはずのあなたの価値をめぐる言説やふるまいのあれこれが
ある親しみを湛えた海へと融解していくように感じられる
それは何かもうひとつの死の形だろうか
それとも誰もが帰っていく最後のふるさとの感触だろうか
ある懐かしさや寂しさや悲しみへと
すべてが結語されていくように感じられるとき
あなたと僕というニンゲンの関係は
もはや死後の世界へ踏み入れていることになっているのだろうか
拮抗や反目や敵対を許していた
ただ「ある」ということだけに
僕の知らないもうひとつの生は
深く根を下ろしていたのだろうか
だれも見たことのない海に浸されたニンゲン同士として
あなたと僕はつながれていたのだろうか
世界を融解させるちからにおいて
海は最後にそのことを告げたのかもしれなかった
しかし僕にはもう一つのチカラが現象していた
海に浸されたニンゲンとしてでなはく
いまここに観念の小屑にまみれて生きるニンゲンとして
僕はあなたと僕の関係を最後の儀式の内部に
閉じ込めてしまうことができなかった
完結しようとする海の作用に抗って
僕はこれからも生きていかなくてはならなかった
僕が見てきたこの世の一つの掟は
みずから望んでこの世にあることを選べと告げていた
海の融解させるチカラに抗い
揺らぎそのものをじぶんの証として
僕はただ一つ
あなたが嫌いだった事実を見殺しにしないとだけ考えていた
からだが浸されている海があり
海は際限をもたず
どんな縁やボーダーも想定することができなかった
海はからだ深く浸透していたために
からだを浸す感触も定かではなかった
くりかえされる海の揺らぎの内側でからだは揺らぎ
ただ揺らぎつづけることでじぶんを保っていた
海は夢とも 幻とも
時として生々しい実在とも
さまざまに変幻しながら
どこまでいっても海であることをやめなかった
じぶんと海の境界を計る
どんなオーダーも存在しなかったのだろうか
しかしこの僕という意識は鮮明であり
あなたではないほからならぬ僕が存在し
あなたと言葉を交わすことのできる僕がいて
そして僕と画然と分けられたあなたが存在していた
あなたに何をつたえたいと僕は考えるだろう
あなたと触れ合い
近くに言葉や息や感情を聞いた僕は
いま訪れようとしている
恐ろしい終末の宣告に身をふるわせ
かたちをたどれない懐かしさをよみがえらせる
僕はあなたが激しい痛みに耐えている
目をそむけたくなるような苦悶の形相に
生命が引きうけなくてはならない過酷を
生涯にわたって支払わなくてはならない
生誕以来のせつないエネルギーの試行を見ていた
僕はこんな風にあなたを見ることを許されているのだろうか
あなたをこの世で一番いやなヤツと思ったことがある
誰よりも回避し遠ざけたいニンゲンだと感じたことがある
しかしいまその反目も否認も憎悪も軽蔑も
すべてがすべて不可解な変質を遂げて
あなたに抗った感情や観念が遠景に退き
ただ心をしめつける懐かしさだけがからだを包みはじめている
心はそこから遠ざかりたいと思っているのに
そこにはある不可解な力の作用があって
きのうまで嫌いだったあれやらこれやらが
耐えがたかった小さないさかいのひとつひとつが
許容できないはずのあなたの価値をめぐる言説やふるまいのあれこれが
ある親しみを湛えた海へと融解していくように感じられる
それは何かもうひとつの死の形だろうか
それとも誰もが帰っていく最後のふるさとの感触だろうか
ある懐かしさや寂しさや悲しみへと
すべてが結語されていくように感じられるとき
あなたと僕というニンゲンの関係は
もはや死後の世界へ踏み入れていることになっているのだろうか
拮抗や反目や敵対を許していた
ただ「ある」ということだけに
僕の知らないもうひとつの生は
深く根を下ろしていたのだろうか
だれも見たことのない海に浸されたニンゲン同士として
あなたと僕はつながれていたのだろうか
世界を融解させるちからにおいて
海は最後にそのことを告げたのかもしれなかった
しかし僕にはもう一つのチカラが現象していた
海に浸されたニンゲンとしてでなはく
いまここに観念の小屑にまみれて生きるニンゲンとして
僕はあなたと僕の関係を最後の儀式の内部に
閉じ込めてしまうことができなかった
完結しようとする海の作用に抗って
僕はこれからも生きていかなくてはならなかった
僕が見てきたこの世の一つの掟は
みずから望んでこの世にあることを選べと告げていた
海の融解させるチカラに抗い
揺らぎそのものをじぶんの証として
僕はただ一つ
あなたが嫌いだった事実を見殺しにしないとだけ考えていた