隣家の雨戸の戸袋にヒヨドリが頻繁に出入りするようになったのは4月からであった。
2羽の親鳥が代わる代わるエサを運んでいるようだ。暫くすると親鳥が入るときには激しく鳴くヒナ鳥の声が聞こえるようになった。
隣家の住民もかなり前から雨戸を開け締めしなくなっている。
イワン・アサノヴィッチは庭に出てタバコを吸う時、日に何回も戸袋を眺めていた。
早いときは1~2分、遅いときでも4~5分間隔で親鳥はエサを運んで来る。凄腕の狩猟家である。
しかし親鳥は一体全体いつ食事をするのだろうかと変な心配をしてしまう。
6月2日、朝の7時20分。庭に出たときついにヒヨドリの巣立ちに遭遇した。
親の2羽は戸袋に近い電線の上でぴいいっぴいいっと大声で戸袋の中の子どもたちを呼んでいる。
1羽はすでに親と一緒に電線の周囲を飛び回っている。やがてもう1羽のこども鳥が出てきて一家そろった。
ヒヨドリ一家は飛行範囲を拡げ始めた。一服やっている間に親鳥は3~4回、子ヒヨドリは1~2回ほど巣のあった戸袋に戻ってきたが、その間隔は長くなりやがて飛び去ってしまった。
夕方である。親鳥が夫婦で戸袋近くの屋根の上に居る。
毛繕いしながら、ぴいっぴいっと夫婦の間で優しく鳴き合っている。
まるで子育ての労苦を思い出しながら、互いの苦労を労(ねぎら)い合っているようだ。
イワン・アサノヴィッチ夫婦は3人の子どもを育てた。そして今は独立している。
3番目の子が大学4年の時、最後の授業料を納めた妻が『やれやれ、これでやっと一息つけるわね』とつぶやいた言葉を想い出した。
『子どもたちが独立したので、やっと落ち着けるはね。』と妻ヒヨドリ。『しかし、なにか拍子抜けしてしまったな。』と夫ヒヨドリ。
初夏の夕暮れの屋根の上の会話である。
こんなに身近でヒヨドリが巣を作るのですね。すごい!
巣立ちは、鳥も人間もおなじでしょうか?(笑い)。
なにか屋根の上の夫婦を見ていると、巣立ちというものは人も鳥も同じだなと思いました。
ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは僅か1.5%と聞きました。きっとヒヨドリともそんなに違わない筈だと思います。
だから、巣立ちの時に抱く、親の感情だって同じでしょう。(笑)