『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』を去年の11月下旬に読んで以来なんとなく飽きてしまい、その続きの巻も買ってあったのに放置していたら1年過ぎてしまいました。今日また期間限定割引やラクーポンやらに釣られて新シリーズ(主に推理小説)を大量に買い込んでしまい、それを読みだす前に未読の本を片づけておこうと思い立ち、『陰陽師 第15巻 螢火ノ巻』を手に取った次第です。やはり短編集で9編収録されていますが、「闇は我が褥、地獄の獄卒は我が同胞よ」を標榜する法師陰陽師・蘆屋道満が多く登場します。
「双子針」では帝と都の繋がりをテーマとしており、地震によって乱れた龍脈によって帝が病にかかり、安倍晴明が龍脈を正すことでその病を治すという内容です。鍼の要領で都を「治療」するので「針」がタイトルになっているようです。
「仰ぎ中納言」はなにかと天を見上げて星を見ることが好きな中納言の話で、5年前から口に出したことが真実になったかのように見える不思議な事態がいくつもあって、つい先日姿の見えぬものに「藤原兼家が死ぬ」と言えと脅されてどうしたものかと安倍晴明に相談するという話です。北斗七星の開陽に寄り添うようにある小さな星を伊勢参りの際に手水舎の水を柄杓で掬ったときに一緒に掬って飲んでしまい、以来未来が見えるようになった、という日本昔話的ファンタジー。
「山神の贄」は、常陸の国から陸奥の国へ抜ける焼山の関近くで、夫をその歌声のよさゆえに山の神に奪われてしまった女が、自分も琵琶を弾いて山神に気に入られるようにしてあわよくば夫のもとに行こうとし、蘆屋道満がその女が持っていた酒を目当てに暴漢から助け、果ては彼女の願いが叶うように山神にわたりをつけるというエピソード。酒欲しさに随分と親切になっている道満に少々違和感を感じます。単に年をとって「丸くなった」のでしょうか?
「筏往生」の舞台は摂津国豊島郡(せっつのくに・てしまのこおり)、箕面(みのお)の滝へ続く道。蘆屋道満が鳴き声と酒の匂いに釣られて細い道を辿って炭麻呂という男に出会って話を聞くという展開です。炭麻呂は、箕面寺の祥雲という僧と衆生を極楽に迎えに来る筏に乗った阿弥陀如来とのやり取りを松の下で偶然聞き、祥雲の説明を聞いて感動して泣いていたところでした。阿弥陀如来は来年の同じ日の晩に祥雲を迎えに来るという約束をしていったために炭麻呂は自分も連れて行ってもらおうとして、道満は成り行きが気になって再び箕面に向かいますが。。。寓話のように皮肉な結果に終わります。ここでも道満はなかなか親切です(笑)
「度南国往来」例によって土御門で酒を酌み交わしながら晴明と博雅が齢について語り合うところから始まります。そして博雅が、5日前に亡くなった膳広国(かしわでのひろくに)について晴明が遺族に何やら耳うちしたらしいという噂を聞き付けたので、その真偽を問うと、ちょうどその亡くなったはずの膳広国の使いが来て、二人で膳広国邸に赴いて事情を聴くという展開です。膳広国は死後の世界・度南国へ連れていかれ、そこで妻と父に会って、また戻ってきたという「そういう話もあったかよ」的なエピソードですね。
「むばら目中納言」では中納言柏木季正(かしわぎのすえまさ)が数年前からよく病にかかるようになり、そのたびに播磨の法師陰陽師である四徳法師を呼ぶと治るのだが、このところは病が頻繁となったために安倍晴明に相談に来ます。晴明が四徳法師のずるを暴いて一件落着する話です。
「花の下に立つ女」は博雅の不思議体験エピソードです。彼が六条河原院の東にある桜の木の傍で笛を吹いていたらどこからともなく女が現れ、気が付くとまた消えるということが何度もあり、ある日笛を吹いていたらいつもと違って女が泣いていたので気になって、自分は宿直で行けないので晴明に代わりに行ってもらうように頼みます。晴明の計らいによりこの桜の精(?)は救われてちょっとほっこりするお話です。
「屏風道士」は藤原兼家が手に入れた「黙想堂」と呼ばれる、唐から伝わったという屏風の修理を絵師の単先生に頼んだところ、その黙想堂に扉を描き、その中に入ってしまって出てこなくなった、と安倍晴明に相談が持ち掛けられます。実はこの単先生はすでに300年も生きている仙人もどきの道士で、この屏風を描いた本人だったという驚きの話です。晴明と博雅が屏風の中に入って一緒に酒を飲んで、笛を聞かせてこの絵師の孤独を癒して3人揃って出てきて、絵の中には3つの杯と瓶子が載った膳が残されたというファンシーなエピソード。
「産養(うぶやしね)の磐」は、妊娠中の女が都に帰ってしまった男を訪ねようとして道に迷い、途中で[灰坊(へいぼう)様]へのお供え物を空腹のあまりそれと知らずに食べてしまい、村人にばれて自分が食べたお供え物の代わりに灰坊様(=狼)への生贄にされてしまい、あわや狼に喰われるかというところを蘆屋道満に助けられます。例によって女が持っていた酒につられて(笑)齢を経た狼は人に化けられるという話。