徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 毒物殺人<新装版>』(講談社文庫)

2018年12月11日 | 書評ー小説:作者カ行

ST 警視庁科学特捜班の初期シリーズ第2弾『毒物殺人』では、代々木公園と世田谷公園で連続して死体が発見され、ふぐ毒(テトロドトキシン)が検出されますが、フグを食べた形跡がないため、関連する可能性のある毒殺事件として捜査本部が立ち上げられます。警察内にはSTを疑問視する声が強く廃止計画が持ち上がってきているため、百合根警部は上司の桜庭科捜研所長と三枝管理官から「手柄を立てろ」とプレッシャーをかけられます。百合根警部はSTキャップとして曲者ぞろいのメンバーに手を焼いていますが、意外と彼らに好かれているようで、今回は特に山吹が要求されて手柄を立てるために、少々危ない賭けに出て活躍します。

プロファイリングなどを専門とする超絶美形の青山が代々木公園の死体を通報したホームレスとのんびり話をしていたり、相変わらず「僕もう帰っていい?」と一切空気を読まないマイペースさを発揮するところが笑えます。だけど、少々功を焦っている百合根に山吹を信じて捜査の邪魔をするなとくぎを刺したり、捜査で被害者双方の共通点として浮かび上がってきた女子アナ八神秋子の恋人とストーカーの関係を見抜くなど、鋭利な洞察力を発揮します。

STと刑事部の連絡役として任命されている菊川警部補がだんだんとSTを悪くないと思いだしているところがいいですね。頑固ではあっても頑迷ではないところがなかなか魅力的な人物。

百合根警部も本人が悩んでいるほど無能ではないですが、突き抜けた天才ばかりのSTメンバーの中にあって唯一の常識的秀才という感じですね。

週刊誌などでバッシングを受け、プライベートでも常にカメラマンなどに付きまとわれる人気女子アナのストレスも想像に難くないですが、そういう彼女との関係を懸命に維持しようとする恋人の方も大変ですね。彼の場合なんだか変な方向に思いつめちゃってましたが。無理をして付き合えば、どこかでほころびが出てくるということなんでしょうね。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『転迷(隠蔽捜査4)』、『宰領(隠蔽捜査5)』、『自覚(隠蔽捜査5.5)』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『去就―隠蔽捜査6―』&『棲月―隠蔽捜査7―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『廉恥』&『回帰』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ(幻冬舎文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード1<新装版>』(講談社文庫)


書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード1<新装版>』(講談社文庫)

2018年12月10日 | 書評ー小説:作者カ行

『ST 警視庁科学特捜班 エピソード1<新装版>』は、多様化する現代犯罪に対応するため新設された警視庁科学特捜班、略称STに属する特殊能力を持つ5人のスペシャリストの活躍を描くシリーズ第1弾です。

法医学担当の極端な女嫌い赤城左門、第一化学担当の武道に優れ、超人的な嗅覚を持つ黒崎勇治、第二化学担当で曹洞宗僧侶でもある山吹才蔵、文書鑑定担当の美青年にして「秩序恐怖症」の青山翔、物理担当の超人的聴覚を持つ美人でナイスバディの結城翠の5人は科捜研でも有能な変わり者たち。彼らを率いるのは若いキャリアの百合根友久警部。体育会系の空気にいまいち馴染めず、ST班長としての役割にも苦悩しています。

このキャラクター設定だけでもかなり面白いですが、彼らの交わす珍妙なやりとりも相当おかしいです。

中国人ホステスが2人、中南米系娼婦が1人中野区管轄内で殺害され、最初は淫楽殺人と見られていましたが、3人ともマフィアの愛人であったこともあり、マフィア同士の報復殺人の線が浮かび上がりますが、青山翔はそうした捜査本部の流れに異を唱え、プロファイリングで浮かび上がった犯人像の矛盾を指摘し、単独犯による「連続殺人」である可能性を示唆します。

テンポよくストーリ展開するエンタメ性の高い作品です。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『転迷(隠蔽捜査4)』、『宰領(隠蔽捜査5)』、『自覚(隠蔽捜査5.5)』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『去就―隠蔽捜査6―』&『棲月―隠蔽捜査7―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『廉恥』&『回帰』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ(幻冬舎文庫)



書評:木内昇著、『光炎の人【上下 合本版】』(角川書店単行本)

2018年12月09日 | 書評ー小説:作者カ行

『光炎の人』は2016年に上梓された木内昇の最長編小説で、明治後期から昭和初期の日本の技術躍進期に徳島の貧しい葉煙草農家の三男に生まれ、小学校も卒業していない郷司音三郎が、徳島の池田にある葉煙草工場の職工、大阪の小宮山製造所の職工、大都伸銅株式会社の技師を経て、東京の陸軍お抱えの十板火薬製造所の研究員にまで上り詰める立身出世を描きながら、音三郎を通して技術開発における指標や理念とは何か、理念なき開発がどこに行きつくかを問います。

音三郎は子供のころから頭がよく、小学校の授業に退屈していたので、学校をやめて家業を手伝うように言われた時はむしろそれを喜び、いかに工夫を凝らして家業を大きくするか考えを巡らすことに夢中になっていましたが、幼馴染の利一が山を下りて池田という街の工場に働きに行くというのに誘われ、そこで葉煙草を刻む最新式の機械を見て、その機械に夢中になり、職工として働きながら機械について学んでいきます。その刻み機が旧式になった頃、煙草が政府の独占するところとなり、煙草工場の先行きが怪しくなり出したので、出入りの商人に機械工として見込まれ、先輩の機械工と共に大阪の小宮山製造所に紹介されます。そこで電気のための銅線やソケットの製造に携わりながらますます電気に魅入られ、自腹で仕事の合間により良い製品開発をしようと実家への仕送りをやめて貯金し、材料を仕入れようとするなど、一機械工にあるまじき並々ならぬ執念を燃やしますが、結局自分が開発しようとしていたものは大手に先を越されて苦汁をなめることになります。その経験を通して製品開発にはそれ相応の環境が必要ということを学び、大阪工業界の重鎮・弓濱に目をかけられたことを利用して大都伸銅株式会社の技師に収まり、無線開発に没頭し、そこでの製品化に挫折すると、今度は学歴を詐称して弓濱の紹介で十板火薬製造所の研究員になり、無線分室長の肩書を得て、関東軍の通信兵養成のために満州に渡る、という波乱万丈の一代記なわけですが、その中で最初は純朴な機械マニア・電気マニアであった主人公がどんどん歪んで、人として大切なことを見失っていく過程が何とも苦々しいです。実家の兄たちには当たり前のように送金を要求され、礼の一つも言われずに大阪で自分だけいい思いしているとなじられたり、最初は送金の催促だけしに来ていた叔母が主人公のところに居候するようになり、なんで自分が叔母を養わなければならないのかと理不尽な思いをして、こういう人たちを切り捨てようとする心の動きには非常に共感できるのですが、結婚を前提にお付き合いしていたおタツに対する態度は「この唐変木!」と詰って足蹴にしたくなるような身勝手さですね。とにかく自分の開発したものを世に出すという功名心に憑りつかれ、結局関東軍の思惑に絡めとられてしまうのは自業自得なところもありますが、根が純朴で交渉下手である主人公はうまく立ち回り切ることができず、悪人になれないところに気の毒だと思う余地があります。小学校中退という学歴ながら、自分の興味のあることはどんどん質問して先輩から学び、また図書館に通ったりして必死に最新知識を取り入れ、試行錯誤を続けてたその努力が今一つ報われないまま終わるのはやはり同情できます。自分より学歴のある同僚にライバル心を燃やして、国のためになるような大きなことをして彼らを見返そうとすることに執着したのがやはり道を誤る原因だったのだろうと思います。過分な競争心や焦りの導く先にはろくなことがないということをこの小説は教えているようです。

大都伸銅株式会社時代の音三郎の同僚金海が、「電気は素町人(阿呆)が使っても大丈夫なように安全を確保しなければならない」という理念のもとに安全器を開発し続け、ついに製品化し、外国からも引きが来るほどの商業的成功を収めるところが非常に印象的です。この金海という人は工業高等学校を出ていることをはなにかけ、職工たちを馬鹿扱いするかなり口の悪い鼻持ちならないキャラなのですが、それでも技術者としての責任をよく理解しており、その点に関しては決して信念を曲げないという、なかなか尊敬に値する面もあります。もちろんこの金海の「御託」が音三郎にはうるさく感じられ、また彼の学歴に対する劣等感が刺激され、ライバル心を燃やす余りに変な方へ行ってしまうきっかけにもなっています。この金海がもうちょっと職工を尊重する人で、伸銅一筋の触るだけで銅の表面の状態や空気の含有量まで分かるという職工の駒田のように音三郎が尊敬できるようなキャラであったなら、音三郎の人生も違ったものになっていたのではないかと思わなくもないです。

この長編小説の素晴らしいところは、大正デモクラシーや治安維持法成立の世間の受け止め方、日露戦争や第1次世界大戦と日本の景気や貿易の流れなどが丁寧に描写されているところです。また、音三郎の技術的試行錯誤も丁寧に描かれており、物理、特に電気関係を大の苦手とする私も何やら分かったような気になれるところも魅力的ですね(笑)著者も理系は苦手で、この点には非常に苦労したとのことです。木内昇氏はかなりのチャレンジャーなんですね。

合本版には著者とのインタビューも収録されていて、それによると著者はこの作品を書くにあたって、戦争と技術について思考を巡らせており、東日本大震災と福島第一原発事故が「技術の暴走」についての考察を深めたそうです。

この作品の中では「技術の暴走」はさほどしているようには見受けられませんが、音三郎という技術者は暴走していると言えるかもしれません。そしてその彼の技術を利用して関東軍が暴走を始める図式が見えます。


書評:木内昇著、『漂砂のうたう』(集英社文庫)~直木賞受賞作

書評:木内昇著、『櫛挽道守(くしひきちもり)』(集英社文庫)中央公論文芸賞・柴田錬三郎賞・親鸞賞受賞作

書評:木内昇著、『新選組 幕末の青嵐』(集英社文庫)

書評:木内昇著、『新選組裏表録 地虫鳴く』(集英社文庫)


書評:村田沙耶香著、『授乳』(講談社文庫)~第46回群像新人文学賞優秀作受賞

2018年12月08日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

芥川賞受賞作『コンビニ人間』でこの作家に興味を持ち、何冊か適当に買っておいた中の最後の一冊がこの『授乳』でした。立て続けに読むにはかなり疲れる世界観が展開されるため、数か月放置してました。

この本には表題作のほか『コイビト』、『御伽の部屋』の2作が収録されています。

『授乳』は高校受験を控えた「私」のもとにやって来た家庭教師の「先生」との間の危うい関係を描く物語です。「危うい関係」と言ってもそこには恋愛的要素は一切なく、「私」の思春期的好奇心や嗜虐心が前面に出ており、「先生」が「生きてて済みません」的な自我の弱い人物で彼女の要求に諾々と応えるのと対照的です。潔癖症で少女のようなところがある母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父に向ける観察眼は鋭く、また「先生」に対して自分が優位に立てることを敏感に察知して彼を自分の「ゲーム」に引き込んで支配下に置くところなど、思春期の女の子の怖さが凄い説得力を持って浮き彫りにされるような作品です。

『コイビト』はぬいぐるみを心のよりどころとする大学生の女子が同じくぬいぐるみをコイビトとする小学生の女の子に偶然に出会い、彼女の常軌を逸した行動を観察しながら自分の行動の奇異さに気づき、嫌悪感を抱いていくストーリーです。

ぬいぐるみが好きな人はたくさんいるでしょうし、私自身も好きで結構たくさん持っていますが、ここに登場する二人はぬいぐるみ全般が好きなのではなく、たった1つのぬいぐるみに異様なほど執着し、それ以外の「外の世界」には基本的に興味を示さず、唯一無二のぬいぐるみの恋人と閉ざされた世界を形成するのが特徴的です。こういう行動は小学生としてもやはりかなり常軌を逸していると思います。自閉症スペクトラム障害の一種でしょうか。主人公はそういった自分から卒業するために彼女が長年愛し、拠り所としてきた「ホシオ」を窓から放り投げてしまいますが、それを見ていた小学生の美佐子が「そんなことしても、ぜったいに、ソレがなくちゃお姉ちゃんは生きられないんだよ」「ソレは形を変えて、必ず、お姉ちゃんの中からもう一匹生まれて来るよ。何度捨てたって、必ず、きのこみたいににょきにょき、生えてくるんだよ」と予言めいたことを言うのが、たぶんかなり的を得ていて印象的です。強迫神経症などでは、こだわる対象が一つ無くなったとしても実際に形を変えて別のこだわりが生じることがよくあるので、この特殊なぬいぐるみ依存症にも似たようなことが言えるのかなと思いました。

『御伽の部屋』は、大学2年の佐々木ゆきが貧血と熱射病で倒れたところを助けられた縁で同じ年の関口要二と親しく(?)なっていく話なんですが、やはりここでも恋愛感情は一切介在していなくて、性的な関係もゼロ。関口要二の潔癖症的に整ったマンションの一室で双方が決まった「役割」を演じ合って二人しかいない閉ざされた非日常の空間と時間を楽しむという関係のようです。しばらくはこの現実感の乏しい関係が安定的に継続しますが、ある日要二の友達ケンがマンションに遊びに来たことによって少しずつずれが生じて行きます。主人公のゆきがどんどん現実とのつながりを失い、究極のナルシズムの中に引きこもる過程が描かれているように見受けられます。

どれも共感できるようなストーリーや世界観ではないので、物珍しく興味深いとは思ってもファンにはなれないと思いました。やはりこの主人公たちの「閉ざされた」関係や世界が醸し出す閉塞感が、やや不快感を催すというか。。。何冊か読んでみて「もういいわ」という感じです。


書評:村田紗耶香著『コンビニ人間』(文春e₋Book)~第155回芥川賞受賞作

書評:村田紗耶香著、『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』(マガジンハウス)

書評:村田紗耶香著、『殺人出産』(講談社文庫)


CVポートよ、さようなら(がん闘病記28)

2018年12月08日 | 健康

抗がん剤治療の終了から11月末で1年経ち、CTや超音波検査で再発の気配が見えないため、がん専門医と相談の上、抗がん剤治療のために埋め込んだCVポートを除去することになりました。CVポートの埋め込み手術を受けたマルテーザー病院で除去することに決め、手術日は12月6日と割ととんとん拍子に決まりました。朝7時半に病院の外科ステーションに来るように言われていたので、普段そんなに早起きしない私は結構苦労して時間通りに行ったのですが、看護師さんたちは患者さんたちを次から次へと手術階に運ぶことに忙しく、30分以上待たされました。それなら最初から8時と言ってくれてもよかったのに。。。という不満はさておき、8時過ぎに前掛けを大きくしたような病院服と手術中に着用する下着を渡され、名前と生年月日とバーコードが印刷された腕輪をつけられて病室に案内され、着替えを済まして8時20分くらいに手術階に運ばれました。

受付から手術階に運ばれるまではあっという間でしたが、そこから実際に手術室に入るまでかなり待たされました。通常であればこの待ち時間中に麻酔医が来て血圧計を装着したり、麻酔の準備をしたりするのですが、今回は局部麻酔で手術を受けることになっていたため、そういう準備もなく9時過ぎまで手術控室に転がされたまま放置されてました。9時20分頃にようやく執刀医が顔を出し、看護師さんたちが私を手術室に運んで、消毒などの準備を行い、患部を除いた全身にブルーシートを覆いかぶせ、私の視界が遮られたところで局部麻酔開始。ブルーシート越しの対話という奇妙な体験をさせてもらいました。「対話」と言っても私の方は痛みがあったら「痛い」と言うだけで、主に執刀医が次に何をするか(「麻酔の針を刺しますよ。ちくっとしますよ」とか、「電気メス使うので、変な音と臭いがしますよ」とか)を宣言するという感じなのですが。まあ、基本的には歯医者で抜歯や歯根治療を受けるのと大して変わりません。

執刀医が「ポートがちょっと深い位置にあって、細胞組織に結構取り込まれてるので手間がかかるけど、もうすぐ終わるから大丈夫だよ」などと状況説明をしてくれ、私が心配しないように気遣ってくれていたのは良かったですね。そんな中で、手術室の外から「まだかかる?」なんて聞いてくる人がいて、執刀医が「いや、いま縫合してるから、もうすぐ」なんて答えてて、なんか随分と緊張感がない印象を受けました。まあ、CVポートの取出しは埋め込みよりもずっと簡単な手術だからというのもあるのでしょうけど。手術台のブレーキがどこにあるか分からないような新米の看護師さんも配属されていましたし(笑)
そして手術が終わって病室に戻されたら、10時になってました。

こんな(下の写真)ドレーンをつけられてました。

病室には、朝食パッケージが用意されてて、それ食べてちょっと待ってろということだったんでしょうけど、なんか食欲のわくようなものでは…(笑)

朝から何も食べてなかったので、ひと心地着いてからサンドイッチとリンゴジュースは頂きました。

11時半くらいに執刀医が様子を見に来て、退院許可が出たので、治療報告書や就労不能証明書を外科ステーションの受付で受け取って、旦那に迎えに来てもらい、12時ちょっと前に退院することができました。ドレーンをつけたまま帰宅というのがちょっとショックではありましたが。

このドレーンを取ってもらうために翌朝8時15分に「選択的外来(Elektiv-Ambulanz)」に来るように言われ、あーまた朝早いのやだなーと思いつつ帰宅しました。

寝てる間にドレーンにくっついている廃液バッグが取れたり潰れたりしないかちょっと心配だったのですが、そういう問題もなく、普通に廃液が溜まってました。

それで時間通りに指定された場所へ行き、ほとんど待つことなく診察室へ通されたのは良かったものの、執刀医が急な手術で来られず、代理の先生が来るまで結構待たされました。30分くらい待ってようやく代理の先生が来て、軽く診察し、あっという間にドレーンを抜き取り、今後の指示を出して終了。その間10分くらいだったでしょうか。2週間はお風呂やサウナ禁止、というのは予想してましたけど、実際にそう宣言されるとやはりいやな気分になるものですね。

でもこれで体内の異物が取れたことはよかったです。もう二度と必要にならないことを願います。


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

放射線治療の経過(がん闘病記20)

放射線治療半分終了~副作用キター!(がん闘病記21)

直線加速器メンテナンスのため別病院で放射線照射(がん闘病記22)

放射線治療終了(がん闘病記23)

段階的復職~ハンブルク・モデル(がん闘病記24)

経過観察(がん闘病記25)

抗がん剤治療終了半年後のCT撮影(がん闘病記26)

抗がん剤治療終了9か月後の超音波検査(がん闘病記27)

リウマチ性関節炎の記録


書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

2018年12月07日 | 書評ー小説:作者ア行

『夢違』は一度読んだような気がしたのですが、書評を書いていなかったので確信が持てず、内容も思い出せなかったので読んでみることにしました。そしてかなり後半まで読んでから、やっぱり読んだことがあると確信いたしました。当時書評を書かなかったのは忙しさに取り紛れてしまったか、または感想がまとまらなかったといった理由のような気がします。

夢が可視化できる時代、「獏」と呼ばれる夢を読み取る機械は日本では心理療法分野に特化して使用されていた―という設定は、面白い未来ファンタジーだと思います。主人公は「夢判断」を職業とする野田浩章という男性で、ある日この夢読み取り(夢札を引く)技術の初期から被験者として関わって来た予知夢を見る古藤結衣子という女性の幽霊を見るという体験をするところから物語が始まります。古藤結衣子は彼の兄の婚約者でしたが、予知夢の件で世間の注目を浴びてしまった後は浩章の方が兄よりもむしろ親しい関係にあったという少々複雑に絡んで抑制された恋愛感情が、この物語の根底に仄かに流れています。彼女は10年以上前に火災事故で亡くなったことになっている(死体が確認できなかったため)ので「幽霊」なのですが、浩章が彼女の幽霊を見た日に同僚との見に行った先で彼女とかかわりの深かったドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が不自然にリピートされていた、というこれからの物語の展開を暗示するような不思議な出来事があります。その後で次の仕事の話があり、全国で散発しているらしい小学生たち(常に一クラスのみの生徒たち)が「何かが教室に入ってきた」とパニックを起こし、その後一部の子たちが悪夢を見続けるという事件の当事者の子どもたちの夢札を見ることになります。子どもたちの夢から実際に何が起きたのかを分析しようという試みでしたが、謎は深まるばかりで、そうこうしているうちにある小学校の1クラス全員が担任の先生とともに神隠しに会うという事件が起こります。子どもたちの集団パニックと神隠し、それにちらほらと見える古藤結衣子の影は関係があるのか、あるとしたらどのように関係しているのか、という謎を追うミステリーは非常に興味深くドキドキしながら読み進みました。

が、しかし、これらの謎はまあ、おおよそはファンタジー的に解明されるのですが、そこまでの話の流れにそぐわないような納得しがたい結末が非常に残念です。ページ数の関係で話をぶった切ったのかと疑いたくなるほど、前後の繋がりが希薄で、謎を残したまま暗示的にフェードアウトする感じです。クライマックスまですごく面白かったのに、「え、これだけ?」というエンディングは腹立たしいですね。自分でエンディングを書き換えたいくらい(笑)


三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『六番目の小夜子』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)

神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

書評:恩田陸著、常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』(集英社e文庫)

書評:恩田陸著、『夜の底は柔らかな幻』上下 & 『終りなき夜に生れつく』(文春e-book)

学園もの

書評:恩田陸著、『ネバーランド』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

書評:恩田陸著、『雪月花黙示録』(角川文庫)

劇脚本風・演劇関連

書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『中庭の出来事』(新潮文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品

書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

短編集

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

書評:恩田陸著、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『上と外』上・下巻(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『ライオンハート』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(河出書房新社)

書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)


書評:夢枕獏『陰陽師』のすべて(文春文庫)

2018年12月06日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

この『『陰陽師』のすべて』には本当にありとあらゆる夢枕獏の『陰陽師』に関わる対談やインタビューや座談会やエッセイなどが集められており、改めて30年間(2016年当時)継続したシリーズの影響力が実感できる1冊です。マンガも映画も見てないので、この本を読むまでその広がりを実感することはなかったのですが。

私が読み続けているもう一つの陰陽師シリーズ、結城光流の『少年陰陽師』も夢枕獏の『陰陽師』の映画化の後にブームに乗って出た話だったと知って、ちょっと驚いたり。結城光流のインタビューも掲載されています。『少年陰陽師』を書くにあたって、夢枕獏の『陰陽師』のイメージに引きずられないように原作を読むことをしなかった、という告白になんか納得してしまいました。夢枕獏は壮年期の安倍晴明を描いているのに対して、結城光流は晴明の孫・昌弘(架空の人物)を主人公にして、晴明は昌弘にとって「くそじじい」であり、すでに「妖のくくり」に入っていると妖どもに思われているような人物として描いています。年齢の違いがあるせいか、両者のイメージに得に矛盾は感じられません。強いて言えば『少年陰陽師』における安倍晴明には家族臭が強いということでしょうか。夢枕獏が安倍晴明の私生活をわざと排して、生活臭を漂わせないようにしている(酒とつまみ以外に食事していない、奥さんや家族が登場しない)のと対照的です。

『『陰陽師』のすべて』には、刊行済み作品の総解説もあって、また壮観です。

陰陽師・安倍晴明などの怪奇譚の文学的源泉は今昔物語集にあるらしいですが、そうすると安倍晴明伝説は日本版アーサー王伝説のようなものと言えるかもしれませんね。長く語り継がれているばかりではなく、題材として様々に咀嚼され、解釈されて、文学ばかりでなく映画や漫画、果てはゲームにまで利用されているところが共通しています。


書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第8・9巻 瀧夜叉姫 上・下』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第10巻 夜光杯ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第11巻 天鼓ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第12巻 醍醐ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第13巻 酔月ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第15巻 螢火ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第16巻 玉兎ノ巻』(文春文庫)


書評:夢枕獏著、『陰陽師 第16巻 玉兎ノ巻』(文春文庫)

2018年12月06日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

 『陰陽師 第16巻 玉兎ノ巻』は、「邪蛇狂ひ」、「嫦娥の瓶」、「道満月下に独酌す」、「輪潜り観音」、「魃の雨」、「月盗人」、「木犀月」、「水化粧」、「鬼瓢箪」の9編を収録した短編集。

「邪蛇狂ひ」は、やたらと使用人を刀にかける渡辺元網という人が蛇と死んだ使用人の霊たちに憑りつかれる話。陰陽師が活躍するよくあるパターンですね。

「嫦娥の瓶」は、藤原兼家の屋敷の観音堂でとらえられた日ごとに体毛の色が変わり、人語を話す不思議な兎の話。月に棲む玉兎のエピソード。

「道満月下に独酌す」はタイトルの通り道満が酒を飲む話ですが、萱鼠にお囃子や踊りを踊らせたりして微笑ましいメルヘンタッチ。

「輪潜り観音」は身寄りがなく乳母と二人で暮らす綾子なる女性が男が通わなくなったことを嘆いているうちに、菩薩観音が現れて、頭に通す輪を貰うが、小さすぎて通せず、毎夜少しずつ大きな輪を貰うという話。乳母が心配して晴明に助けを求めます。

「魃の雨」は、漁師が丹波の山の中で得体の知れないものを捉え、そのうわさを聞き付けた藤原兼家がそのものを都に持ってこさせたら、以来梅雨なのに日照り続きになったという話。そのものは「魃」という黄帝の娘で、行く先に旱魃をもたらすという。

「月盗人」は、西の京に庵を結んで乳母と暮らす玉露という女性が病で行き倒れていた男を助け、看病してもなかなか容体が良くならないので、すぐ近くの破れ寺にある十一面観音に病平癒を祈って酒を供えたら、たまたまそこにいた蘆屋道満が例によってその酒を飲み、礼として男を治す方法(満月の夜に月の光を受けた滴を集めて男に飲ますことを3月続けて行う)を授け、困ったことがあれば晴明に相談せよと言い残したので、3月目に神泉苑に入ると月が隠れ、そこを出ると月が出るという問題が起きた際に晴明に助けを求めに行くという話。寂しい女の葛藤を描くエピソード。

「木犀月」は、月がひときわ大きく明るく見える日に博雅の笛と蝉丸法師の琵琶で合奏をしていると天から斧が落ちてきたという不思議な話。その斧は月で木犀を切り倒そうとする斧を振り続ける神仙・呉剛のもので、笛と琵琶の合奏に聞きほれてうっかり落としたというちょっとおまぬけなおとぎ話。

「水化粧(みずけわい)」は、在原清重という男が通っている女・明子のところへ10日ごとくらいに恐ろしい顔をした女が夜に枕元に現れて恨み言を言うので、清重が待ち伏せして確かめてみると、実はこの女は清重が昔通ったことのある女だった、という話。白狐の毛でできた百済川成という絵師の筆の不思議な力が発揮されます。

「鬼瓢箪」は、一夜にして白髪になり、瞼の裏に泥が詰まり、急に腹が膨らんで虫が出たり、米が食えなくなるという奇妙な病にかかり、10日ほどすると墩炳(東平)という法師が現れて鬼祓いをして治るということが3件続き、4人目に藤原兼家がこれにかかってしまったので清明が乗り出すことになるという話ですが、基本的なパターンは『蛍火ノ巻』の「むばら目中納言」にそっくりです。唯一新しいのは博雅が梅の香りと酒の薫りを堪能しながら「呪」を持ち出したことくらいでしょうか。普段は晴明が呪の話をし出すと嫌がる博雅ですが、長い間共に行動しているうちに少なからず影響されたようですね。

どの話も悪くはないですが、メルヘンタッチの「道満月下に独酌す」と「木犀月」がほのぼのしていて気に入りました。


書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第8・9巻 瀧夜叉姫 上・下』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第10巻 夜光杯ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第11巻 天鼓ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第12巻 醍醐ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第13巻 酔月ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第15巻 螢火ノ巻』(文春文庫)


書評:夢枕獏著、『陰陽師 第15巻 螢火ノ巻』(文春文庫)

2018年12月04日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』を去年の11月下旬に読んで以来なんとなく飽きてしまい、その続きの巻も買ってあったのに放置していたら1年過ぎてしまいました。今日また期間限定割引やラクーポンやらに釣られて新シリーズ(主に推理小説)を大量に買い込んでしまい、それを読みだす前に未読の本を片づけておこうと思い立ち、『陰陽師 第15巻 螢火ノ巻』を手に取った次第です。やはり短編集で9編収録されていますが、「闇は我が褥、地獄の獄卒は我が同胞よ」を標榜する法師陰陽師・蘆屋道満が多く登場します。

「双子針」では帝と都の繋がりをテーマとしており、地震によって乱れた龍脈によって帝が病にかかり、安倍晴明が龍脈を正すことでその病を治すという内容です。鍼の要領で都を「治療」するので「針」がタイトルになっているようです。

「仰ぎ中納言」はなにかと天を見上げて星を見ることが好きな中納言の話で、5年前から口に出したことが真実になったかのように見える不思議な事態がいくつもあって、つい先日姿の見えぬものに「藤原兼家が死ぬ」と言えと脅されてどうしたものかと安倍晴明に相談するという話です。北斗七星の開陽に寄り添うようにある小さな星を伊勢参りの際に手水舎の水を柄杓で掬ったときに一緒に掬って飲んでしまい、以来未来が見えるようになった、という日本昔話的ファンタジー。

「山神の贄」は、常陸の国から陸奥の国へ抜ける焼山の関近くで、夫をその歌声のよさゆえに山の神に奪われてしまった女が、自分も琵琶を弾いて山神に気に入られるようにしてあわよくば夫のもとに行こうとし、蘆屋道満がその女が持っていた酒を目当てに暴漢から助け、果ては彼女の願いが叶うように山神にわたりをつけるというエピソード。酒欲しさに随分と親切になっている道満に少々違和感を感じます。単に年をとって「丸くなった」のでしょうか?

「筏往生」の舞台は摂津国豊島郡(せっつのくに・てしまのこおり)、箕面(みのお)の滝へ続く道。蘆屋道満が鳴き声と酒の匂いに釣られて細い道を辿って炭麻呂という男に出会って話を聞くという展開です。炭麻呂は、箕面寺の祥雲という僧と衆生を極楽に迎えに来る筏に乗った阿弥陀如来とのやり取りを松の下で偶然聞き、祥雲の説明を聞いて感動して泣いていたところでした。阿弥陀如来は来年の同じ日の晩に祥雲を迎えに来るという約束をしていったために炭麻呂は自分も連れて行ってもらおうとして、道満は成り行きが気になって再び箕面に向かいますが。。。寓話のように皮肉な結果に終わります。ここでも道満はなかなか親切です(笑)

「度南国往来」例によって土御門で酒を酌み交わしながら晴明と博雅が齢について語り合うところから始まります。そして博雅が、5日前に亡くなった膳広国(かしわでのひろくに)について晴明が遺族に何やら耳うちしたらしいという噂を聞き付けたので、その真偽を問うと、ちょうどその亡くなったはずの膳広国の使いが来て、二人で膳広国邸に赴いて事情を聴くという展開です。膳広国は死後の世界・度南国へ連れていかれ、そこで妻と父に会って、また戻ってきたという「そういう話もあったかよ」的なエピソードですね。

「むばら目中納言」では中納言柏木季正(かしわぎのすえまさ)が数年前からよく病にかかるようになり、そのたびに播磨の法師陰陽師である四徳法師を呼ぶと治るのだが、このところは病が頻繁となったために安倍晴明に相談に来ます。晴明が四徳法師のずるを暴いて一件落着する話です。

「花の下に立つ女」は博雅の不思議体験エピソードです。彼が六条河原院の東にある桜の木の傍で笛を吹いていたらどこからともなく女が現れ、気が付くとまた消えるということが何度もあり、ある日笛を吹いていたらいつもと違って女が泣いていたので気になって、自分は宿直で行けないので晴明に代わりに行ってもらうように頼みます。晴明の計らいによりこの桜の精(?)は救われてちょっとほっこりするお話です。

「屏風道士」は藤原兼家が手に入れた「黙想堂」と呼ばれる、唐から伝わったという屏風の修理を絵師の単先生に頼んだところ、その黙想堂に扉を描き、その中に入ってしまって出てこなくなった、と安倍晴明に相談が持ち掛けられます。実はこの単先生はすでに300年も生きている仙人もどきの道士で、この屏風を描いた本人だったという驚きの話です。晴明と博雅が屏風の中に入って一緒に酒を飲んで、笛を聞かせてこの絵師の孤独を癒して3人揃って出てきて、絵の中には3つの杯と瓶子が載った膳が残されたというファンシーなエピソード。

「産養(うぶやしね)の磐」は、妊娠中の女が都に帰ってしまった男を訪ねようとして道に迷い、途中で[灰坊(へいぼう)様]へのお供え物を空腹のあまりそれと知らずに食べてしまい、村人にばれて自分が食べたお供え物の代わりに灰坊様(=狼)への生贄にされてしまい、あわや狼に喰われるかというところを蘆屋道満に助けられます。例によって女が持っていた酒につられて(笑)齢を経た狼は人に化けられるという話。


書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第8・9巻 瀧夜叉姫 上・下』(文春文庫)

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書評:夢枕獏著、『陰陽師 第11巻 天鼓ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第12巻 醍醐ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第13巻 酔月ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』(文春文庫)


書評:酒見賢一著、『ピュタゴラスの旅』(アドレナライズ)~中島敦文学賞受賞作

2018年12月02日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『ピュタゴラスの旅』も恩田陸の『小説以外』というエッセイで紹介されていたので買っておいて数か月放置していました。表題作を含む5編の短編集です。

・そしてすべて目に見えないもの
・ピュタゴラスの旅
・籤引き
・虐待者たち
・エピクテトス

「そしてすべて目に見えないもの」は推理小説の約束事に挑戦するような作品で、警察内の取調室で「自然死」を遂げた18歳くらいの少女を巡って話が展開していきますが、うまい進行役が見つからず模索するという妙な展開で、結局「殺すのはいつも作者だ!」という結論に至ります。他作品に比べてさほど面白みがある作品ではないように感じました。

「ピュタゴラスの旅」はタイトル通り数理学者にして教団の指導者でもある哲人ピュタゴラスの魂の浄化を求めて果てのない旅を描いています。彼の後継者として育成中のテュモスが旅の段取りをしてお伴しながら、師ピュタゴラスに疑問をぶつけて議論するという話ですが、古代ギリシャですから、そこには師弟関係だけではなく同性愛的な絆も当然のごとくあり、テュモスの死後、ピュタゴラスが代わりの者を認めずに一人で旅を求道の続けるというなかなか感動的なストーリーです。

「籤引き」はこの短編集の中で一番パンチが聴いていると思える話です。英仏が植民地の取り合いでにらみ合う時代にまだ植民地化されていない未開の村に総督として派遣されたイギリス人がこの村の籤引き裁判という慣習に憤慨し、実際に鶏泥棒が起こって裁判となったところに立ち会い、明らかに無実と思われる老婆がくじを引いて犯人となり、次に刑を決めるくじで「死刑」を引いたので、死刑になるという展開にイギリス的法意識がついて行けずに阻止しようとして村人と対立してしまいます。まあ、私にとっても決して納得できるような慣習ではありませんが、それが厳粛な神事であり、それを行わなければ村が滅ぼされると強く信じられており、またくじを引いて「裁かれる」者も納得づくでむしろ喜んで刑を受けているとなれば、「そういうものか」と思うだけでこのイギリス人のように力づくで止めさせようとはしないと思います。村長の息子がカルカッタまで放浪して英語を学び、そこの大学にも通ったことがあるので、イギリス人の通訳を務めますが、それはあくまでも善意の行為なので、村のものと対立するようなら止めると言ってイギリス人の暴挙を止めるのもなかなか立派です。しかも、村の者たちは「大人だから」イギリス人が来て勝手に屋敷を建てて住み着いても追い出すようなことはしないが、好き好んでイギリス人たちと付き合いたいと思っているわけではないので、村の風習が気に入らないなら出て行くがよろしいと突っぱねてるところが痛快な感じです。また、籤引き裁判に関する見解も「目から鱗」で、村人たちはめったに起こらないとはいえ犯罪が起こればその罪を犯した者を「大人だから」許すが、村を守る神様はそれを許さないから籤引き裁判をするというのですね。そして真犯人は自分で犯人のくじを引けばいいですが、そうならない場合は他の者が彼の罪の裁きを受けるという状況を甘んじて受けねばならず、自分が裁かれなかったこと、その代わりに他人が刑を受けたことに対する罪悪感に悩ませられることになるので十分な心理的な罰に値するらしいです。

このイギリス人男性の若い奥さんは現地の文化を柔軟に受け入れ、分け隔てなく付き合いますが、仲良くなりすぎたようで、旦那に殺されてしまいます。かくしてこのイギリス人は自分が最も唾棄していた籤引き裁判にかけられることとなり、強烈なしっぺ返しを食らうことになります。でも、村人たちは「大人だから」刑を受けるに値しない異人を縛り付けることはしない、と彼を死ぬ前に解放します。驕り高ぶり、自分の価値観でしか物事を測らず、違う価値観を受け入れないばかりか侮蔑し否定することしかしなかった人にはいいお仕置きですね!

「虐待者たち」はどちらかというとファンタジーで、飼い猫がある日ひどい虐待を受けて命からがら帰宅したので、飼い主が会社を休職してまで(本当は辞職するつもりだった)復讐をしようとする話です。猫に惚れられた男の因果みたいな?なんとも不思議な話です。

「エピクテトス」はストア派の哲学者である奴隷のエピクテトスの伝記のような話です。自分の力の及ばないことに対しては全て諦めて受け入れるという哲学とかなりの忍耐力を持ったエピクテトスは嗜虐趣味のある者たちに一種の恐怖を与える存在となっていく過程の描写が非常に興味深いです。

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書評:酒見賢一著、『語り手の事情』(アドレナライズ)