徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

2018年02月18日 | 書評ー小説:作者ア行

 『Maze(メイズ)』は荒野の丘の上に立つ長方形の白い建物が舞台。そこは原住民の間では古くから【存在しない場所】または【あり得ない場所】などと言われている禁忌の場所で、一つしかない入口から入ると中で消えてしまう人が居るとのことで、第1章はほぼその遺跡にまつわるエピソードのみに費やされています。章の終わりごろにようやく主人公の神原恵弥(かんばらめぐみ)が登場します。男性にしては線の細い優男ですが、女系家族の中で育ったためにお姉言葉を話す強烈なキャラです。非常に頭脳明晰で、アメリカの製薬会社に就職し、どうやらウイルスハンターのようなサンプルを集める仕事をしているらしいのですが、詳細は今一つ不明。その彼に7日間雑用として雇われた元同級生の満は、過去のデータからその遺跡で人間が消えるルールを見つけ出すという依頼を受けます。

満以外のメンバーは恵弥を含めて3人で、現地に資材を運び込む兵士たちの指揮をとっていることになっていますが、どういう任務なのかは機密ということで、遺跡そのものだけでなく、任務も謎めいていて、また嵐の夜に幽霊?が登場し、メンバーの一人が行方不明になり。。。とホラーサスペンスめいてきます。

どこに辿り着くのか気になってどんどん読めてしまいます。

 

 

『クレオパトラの夢』は神原恵弥シリーズ第2弾の作品で、不倫中の双子の妹を説得して東京に連れ戻すという名目で北海道のH市(明らかに函館市)に向かいます。ところが着いてみたら、妹の相手であった男性は既に亡くなっており、その日は葬儀が行われていました。恵弥にはウイルスハンターとしてH市と関係があるらしい「クレオパトラ」と呼ばれるものの正体を掴むという重大な目的があったのですが、いきなり何も知らないはずの妹から「クレオパトラって何?」と聞かれて驚愕することに。その後妹は「一人になりたい」と姿を消します。恵弥を取り巻く状況がどんどん不穏になっていき、妹ですら敵なのか味方なのか分からなくなってきます。彼の探している「クレオパトラ」とは果たして何なのか?

恵弥のお姉言葉とおばさんキャラの可笑しさとストーリーの深刻さが絶妙にミックスしていて、読者をぐいぐいと引っ張っていく筆致はさすがです。オチはちょっと拍子抜けする感じですが、まあそういうのもありかなと思えます。緻密なミステリーとは言い難いですが、エンタメ性は高いと思います。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『六番目の小夜子』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)

神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

書評:恩田陸著、常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』(集英社e文庫)

書評:恩田陸著、『夜の底は柔らかな幻』上下 & 『終りなき夜に生れつく』(文春e-book)

学園もの

書評:恩田陸著、『ネバーランド』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

書評:恩田陸著、『雪月花黙示録』(角川文庫)

劇脚本風・演劇関連

書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『中庭の出来事』(新潮文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品

書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

短編集

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

書評:恩田陸著、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『上と外』上・下巻(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『ライオンハート』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(河出書房新社)

書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)