徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

2017年11月03日 | 書評ー小説:作者ア行

この『図書室の海』は奇妙な短編集でした。それぞれが別の作品の番外編のようで短編単独では理解しがたいものが多かったように感じます。

「春よ来い」

井上雅彦監修「異形コレクション」シリーズの一つ「時間怪談」というテーマのために書かれた作品。女子高生二人の卒業式の日が何度かループするお話で、一応単独での完結性があります。

「茶色の小瓶」

津原泰水監修「血の12幻想」のために書かれた作品。看護学校出なのに会社勤めをしている一回り下の同僚をたまたま会社の近くで起きた交通事故の際にけが人の処置を施しているところを見かけて興味を持ち、彼女について調べ始めたベテラン社員。彼女が突き止めたものは。。。 ホラータッチの短編作品で、短すぎるような気がしますが、単独でのまとまりがあります。

「イサオ・オサリヴァンを捜して」

これは「SFオンライン」のために書かれた作品で、元々は長編SF『グリーンスリーブス』の予告編だったそうです。そのせいもあって、何か大きなミッションの始まりを暗示する程度にとどまり、それ自体に完結性がありません。

「睡蓮」

この作品は「三月」シリーズの『麦の海に沈む果実』に登場する水野理世の幼年時代を描いた作品で、女装の校長との出会いも描かれています。

「ある映画の記憶」

叔父の死をきっかけになぜかある映画のシーンを思い出す主人公。「青玄記」という映画。そしてそのシーンが実は叔母の奇妙な死の記憶と繋がっていて、どんどんその記憶が鮮明によみがえっていくというストーリー。なんとなく中途半端な印象が残ります。

「ピクニックの準備」

この作品は『夜のピクニック』が開催される2・3日前の主人公たちの心境を描写した予告編です。本編を知っていないとやはり何の暗示なのかよくわからない印象を受けるかと思います。

「国境の南」

この作品はドキュメンタリーホラーのつもりで書かれたとのこと。主人公が新しくなった喫茶店に入り、昔そこにあった喫茶店で起きた事件を回想する設定。事件を起こしたウエイトレスは捕まっていないので、「次はあなたの街に来るかも」というホラー的な余韻を残して終わります。これ単独での完結性はありますが、さほど面白いとは思えませんでした。

「オデュッセイア」

旅する城塞都市ココロコを描いたファンタジー作品。都市が突然意識をもって動き出すという発想はおもしろいと思います。最後に住人がいなくなってしまい、どこへ行っても誰もいないので元の場所に戻る、というのは第三次世界大戦という核戦争のイメージかと思います。

「図書室の海」

表題作である当短編は『六番目の小夜子』の番外編で、関根秋の姉・夏が登場します。本編より何年か前のエピソードですね。

「ノスタルジア」

この作品は正直言ってお手上げでした。出だしは「懐かしい思い出」を語るということで何人かがぼつぼつとその思い出を語っていたのですが、途中で友人に会いに行く女性の長い回想が挿入され、地の話との関連性が見えなくなって迷子になってしまいました。

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