恩田陸のマイブームがまだ続いています。今回読み終えたのは、失踪したらしい異母兄を探しに、彼の恋人と旅に出るという話で、タイトルは『まひるの月を追いかけて』。文庫の発行は2007年。
ちょっと詳しい商品解説があったので、こちらに転載。
奇妙な旅のはじまり、はじまり
異母兄の恋人から、兄の失踪を告げられた私は彼を探す旅へ――。
奈良を舞台に夢と現実のあわいで真実は姿を隠す。恩田ワールド全開のミステリーロードノベル。
異母兄が奈良で消息を絶った。
たった二度しか会ったことがない兄の彼女に誘われて、私は研吾を捜す旅に出る。
早春の橿原神宮、藤原京跡、今井、明日香……。
旅が進むにつれ、次々と明らかになる事実。それは真実なのか嘘なのか。
旅と物語の行き着く先は――。
「恩田作品には映像に携わる人間を刺激する何かがある。
撮りたい衝動にかられる。その言葉を発語してみたくなる。
登場人物を設定された場所に解き放してみたくなる。
そして、その場所を、実際に訪れてみたくなる」
(解説・佐野史郎)
あんまりミステリーという感じではありませんが、人がなぜ、どんな動機であることをしたのか、という方向の謎がどっさり散りばめられています。主人公の静にとっては、最初は全く気が進まない、「どうして自分が」というような旅でしたが、結果的には自分を再発見することになるというある種のカタルシスがあります。
お兄さんの研吾は、実は全然失踪なんかしてなかったのですが、どこか遠くへ行こうとしていたことは確かで、その奇妙な行動の理由が話が進むにつれて少しずつ明らかにされます。
お兄さんの恋人だった優香里が静を旅に誘った、ということになってましたが、実は本物の優香里は既に事故死していて、静を旅に誘ったのはその優香里の友人妙子だったということが比較的早い段階で判明します。そこで一気に謎の数が増えるわけです。妙子と研吾の関係は?なぜ研吾を探しに行くのか?なぜ妹の静を旅に誘ったのか?どうして奈良に向かうのか?
全ての謎がすっきりと解決されるわけではありませんが、謎の性質からして、「すっきり解決」するようなものではないので、そこは別に気にならないかと思います。ところどころに本筋とはあまり関係のない小話が挿入されていて、それがまたなんとなく物語全体の世界観を象るように物悲しい心象風景を作り出しています。
作中に「物語は喪失をモチーフするものが多い」というようなセリフが出てくるのですが、これはこの小説自身にも当てはまります。そして様々な人の死が奈良という神秘的な懐の深い土地にふわりと包まれて、しっとりとした静寂を醸しだし、そこでふと自分を振り返らずにはいられないような、そういう気分にさせる小説ですね。