徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

2018年08月26日 | 書評ー小説:作者ア行

久々に恩田作品を手に取りました。『EPITAPH東京』は先月文庫化されたので買っておいたもの。

刻々と変貎する《東京》を舞台にした戯曲「エピタフ東京」を書きあぐねている筆者Kが書く日記のようなエッセイのような作りで、どこぞのバーで出会った自称吸血鬼の吉屋と友人B子との交流体験を綴りながら、大都市として記号化された《東京》とそこで生きる人たちや都市伝説についての考察が進んでいきます。また、戯曲「エピタフ東京」のシーンも3回登場します。かなりシュールな設定で、確かに東京の都市伝説に相応しい感じがします。完成した戯曲をぜひ読みたいと思わせるだけのアイディアが詰まっていると感じました。

所々で吉屋の吸血鬼としての視点が「僕」と言う一人称で語られるエピソードが差し挟まれているのですが、それも都市伝説的な要素の一つという印象を受けます。常野物語3部作の不思議能力を受け継ぎながら市井の人たちに混じって生きている一族に相通じる設定のようです。

Kの綴るエッセイの中ではいくつかの東京または都市を題材とした作品に言及されますが、小野不由美の『東京異聞』はなぜかスルーされていましたね。奇妙な魑魅魍魎が跋扈する東京の話という意味ではこの恩田作品に通じるものがあると思うのですが。大分前に読んだ作品なのでもうおぼろげにしか覚えていないのが残念ですが、逆に言えば、記憶に残るほどのインパクトがなかったということですね。

この『EPITAPH東京』も、時が経てば記憶の底にうずもれて行くに違いない作品の1つとなることでしょう。そこそこ興味深い視点や考察が提示されるものの、さほどのインパクトは残らない、作品として完結しておらず、エッセイなんだか劇中劇なんだか分からず、またゴジラが上陸するエピソードが挿入されていて「いきなり」感が半端ないところもあり、なんというのか、作家の雑多な構想メモを見せられたような中途半端な印象を受けます。

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