徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

2017年11月14日 | 書評ー小説:作者ア行

『ネクロポリス』上・下巻は、ミステリーとホラーファンタジーがミックスされた盛りだくさんの作品です。物語の舞台は英国と日本の文化が融合した世界「V.ファー」の「アナザーヒル」というところ。そこでは死者と交流する「ヒガン」と呼ばれる行事が毎年11月に行われています。「V.ファー」で「血濡れジャック」連続殺人事件が発生した年、聖地である「アナザーヒル」でも次々と事件が起きます。聖地には入山許可書を持った限られた人たち(300人程度)しか入れない一種の巨大密室。

聖地で起きた事件も「血濡れジャック」と関係があるのか否か?
事故で双子の兄を亡くしたというジミーは、死者が実体を持つ聖地で兄・テリーに殺されることを恐れていたが、その理由とは?
10年前に聖地で突然行方不明になったケントはすでに死んでいるのか否か?
日本からV.ファーの親戚を頼ってアナザーヒルの調査に来たジュンイチロウ・イトウはなぜ頻繁に「お客さん」と呼ばれる死者たちと出会うのか?彼の会ったお客さんの一人らしい少女サマンサとは誰なのか?

等々読めば読むほど謎が増えていく感じの話運びで息つく暇もありません。上・下巻でボリュームありますが、一度話の中に入ってしまうと止まらなくなり、結局徹夜して一気読みしてしまいました。

最初は「V.ファー」という奇妙な文化融合世界と「アナザーヒル」で行われる「ヒガン」の約束事に馴染むのにかなり時間かかって、ちょっとしんどいのですが、その辺のしんどさは主人公のジュンことジュンイチロウ・イトウが体現してくれるので、彼と一緒に驚いたり疑問に思ったりできます。

文庫版の解説は漫画家の萩尾望都が書いています。「V.ファー」とはどこの島かを本文中の断片的な描写から考察する非常に興味深いもので、『ネクロポリス』を読んだ後にもう一度この作品を違った角度から味わえる貴重な解説です。

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