『陰陽師』シリーズ第5巻『生成り姫』は、4巻までとは違い、短編集ではなく1冊で一つのお話になっています。第3巻の短編「鉄輪(かなわ)」の長編版とのことですが、第2巻に収録されていた「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」も物語の一部としてリサイクルされてます。男に捨てられ、それを恨んで貴船神社へ丑の刻参りをする徳子姫が般若になりかける「生成り」というわけですが、なんとも哀れな女性です。
このエピソードでは安倍晴明の活躍の場はそれほどなく、源博雅の笛と琵琶、そしてその純粋な思いが憐れな女の魂を救います。博雅は本当に「いい漢」ですね。
徳子姫の境遇は世の無常を体現しているかのようです。人がいとも簡単に流行り病で亡くなり、家があっという間に没落し、住居も瞬く間に荒れ屋と成り果てる無常。その「いかんともしがたい」人の生にあって、楽を奏で、草花を愛おしみ、人を愛おしむ心を忘れない優しさがなおも溢れている時代。
現在の医学・科学が進歩してものに溢れた世にあって、「自己責任」と弱者叩きをする思いやりのない冷たい世の中と比べると、平安時代のいかんともしがたい無常さが何と豊かに感じられることか!
そんなことを考えさせられた作品でした。
ところで秋の土御門の庭はこんな感じだったのでしょうか。
女郎花(オミナエシ、Patrinia scabiosifolia、Goldbaldrian)
竜胆(リンドウ、Gentiana scabra、Japanischer Herbstenzian)
撫子(ナデシコ、D. superbus L. var. longicalycinus )
尾花(ススキ、Miscanthus sinensis、Chinaschilf)
萩(ハギ、Lespedeza、Buschklee)
葛(クズ、Pueraria lobata、Kudzu)
藤袴(フジバカマ、Eupatorium fortunei)