徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード0 化合』(講談社文庫)

2018年12月15日 | 書評ー小説:作者カ行

『ST 警視庁科学特捜班 化合』はSTシリーズのエピソード0にあたり、ST発足のきっかけとなった事件が描かれ、若き日の菊川と三枝が活躍します。時は1990年6月14日、深夜の公園で殺人があり、通報者の「黒っぽい背広を着た男が走っていくのを見た」という証言をもとに被害者の人間関係を洗い、ある消費者金融の社員がまず容疑者として浮かび上がります。捜査本部に最初からやる気満々で立ち会っていたエリート検事がその最初の容疑者に固執し、自ら尋問を行い、捜査員たちの慎重論や別の線に耳を貸さずに暴走し、「自白がすべて」のような態度で尋問に臨み、それ以外の捜査を認めようとしない中、菊川やその時に組んだ所轄署の刑事、そして三枝の班の捜査員たちが冤罪を防ごうと検事の目を盗むように捜査を進めます。

検事の暴走ぶり、横暴ぶりはかなりのもので、「冤罪はこうして生まれる」の見本のような展開でゾッとします。刑事たちが真実を解明しようとする良心に基づいて行動せずに保身に走ったとしたら、簡単に冤罪が成立してしまうような状況が克明に描かれています。人は長時間監禁されて責め立てられればやってなくても自白してしまうことがあるので、物的証拠よりも自白を優先するのは実に危険なこと。だからこそ科学的捜査の必要性が改めて認識されるわけです。

この作品は暴走する検事をどう食い止めて冤罪を防ぐかというのがメインですが、菊川と所轄の先輩刑事滝上のやり取りや滝上自身の行動も実に興味深くて面白いです。


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書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 プロフェッション』(講談社文庫)

2018年12月15日 | 書評ー小説:作者カ行

『ST 警視庁科学特捜班 プロフェッション』は同シリーズの最新巻で文庫は2016年発行。STが認知され、チームを率いる百合根も、STと刑事部のつなぎ役(またはお守役)の菊川もSTメンバーの扱いに慣れてきた頃に扱ったとある事件ということで、特にフォーカスが定められているわけではないようです。

事件は誘拐3件で、同じ大学の研究所に属する3人が誘拐され、「呪い」をかけられて翌日に帰された、という奇妙な事件で、警察も扱いに困っていたわけですが、そのうちの二人が誘拐から約2週間後に激しい頭痛を訴えて救急搬送されるに至って、STの出動となります。

呪いの儀式とやらで手足を縛られ、目隠しをされたまま何かぬめぬめするものを口から入れられたのだそうで、想像するだけで気持ち悪いですね。

主な推理はすぐに帰りたがる青山翔のプロファイリングによって進められ、翠と黒崎が人間嘘発見器として聞き取り調査を支え、赤城は被害者の一人が死亡したため、解剖によって病気の原因を突き止めます。百合根と菊川はSTと世間様または警察組織と軋轢を起こさないように立ち回るという定番の役割を果たしますが、ちょっと団体行動を強制しすぎるきらいがありますね。さしたる合理性もないのに取り敢えずみんなで待機なんていうのは、青山じゃなくても勘弁してくれと帰りたくなるのではないでしょうか。

この作品はシリーズとしての安定した面白さ・エンタメ性があります。


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