『ST 警視庁科学特捜班 化合』はSTシリーズのエピソード0にあたり、ST発足のきっかけとなった事件が描かれ、若き日の菊川と三枝が活躍します。時は1990年6月14日、深夜の公園で殺人があり、通報者の「黒っぽい背広を着た男が走っていくのを見た」という証言をもとに被害者の人間関係を洗い、ある消費者金融の社員がまず容疑者として浮かび上がります。捜査本部に最初からやる気満々で立ち会っていたエリート検事がその最初の容疑者に固執し、自ら尋問を行い、捜査員たちの慎重論や別の線に耳を貸さずに暴走し、「自白がすべて」のような態度で尋問に臨み、それ以外の捜査を認めようとしない中、菊川やその時に組んだ所轄署の刑事、そして三枝の班の捜査員たちが冤罪を防ごうと検事の目を盗むように捜査を進めます。
検事の暴走ぶり、横暴ぶりはかなりのもので、「冤罪はこうして生まれる」の見本のような展開でゾッとします。刑事たちが真実を解明しようとする良心に基づいて行動せずに保身に走ったとしたら、簡単に冤罪が成立してしまうような状況が克明に描かれています。人は長時間監禁されて責め立てられればやってなくても自白してしまうことがあるので、物的証拠よりも自白を優先するのは実に危険なこと。だからこそ科学的捜査の必要性が改めて認識されるわけです。
この作品は暴走する検事をどう食い止めて冤罪を防ぐかというのがメインですが、菊川と所轄の先輩刑事滝上のやり取りや滝上自身の行動も実に興味深くて面白いです。