徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

2018年12月07日 | 書評ー小説:作者ア行

『夢違』は一度読んだような気がしたのですが、書評を書いていなかったので確信が持てず、内容も思い出せなかったので読んでみることにしました。そしてかなり後半まで読んでから、やっぱり読んだことがあると確信いたしました。当時書評を書かなかったのは忙しさに取り紛れてしまったか、または感想がまとまらなかったといった理由のような気がします。

夢が可視化できる時代、「獏」と呼ばれる夢を読み取る機械は日本では心理療法分野に特化して使用されていた―という設定は、面白い未来ファンタジーだと思います。主人公は「夢判断」を職業とする野田浩章という男性で、ある日この夢読み取り(夢札を引く)技術の初期から被験者として関わって来た予知夢を見る古藤結衣子という女性の幽霊を見るという体験をするところから物語が始まります。古藤結衣子は彼の兄の婚約者でしたが、予知夢の件で世間の注目を浴びてしまった後は浩章の方が兄よりもむしろ親しい関係にあったという少々複雑に絡んで抑制された恋愛感情が、この物語の根底に仄かに流れています。彼女は10年以上前に火災事故で亡くなったことになっている(死体が確認できなかったため)ので「幽霊」なのですが、浩章が彼女の幽霊を見た日に同僚との見に行った先で彼女とかかわりの深かったドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が不自然にリピートされていた、というこれからの物語の展開を暗示するような不思議な出来事があります。その後で次の仕事の話があり、全国で散発しているらしい小学生たち(常に一クラスのみの生徒たち)が「何かが教室に入ってきた」とパニックを起こし、その後一部の子たちが悪夢を見続けるという事件の当事者の子どもたちの夢札を見ることになります。子どもたちの夢から実際に何が起きたのかを分析しようという試みでしたが、謎は深まるばかりで、そうこうしているうちにある小学校の1クラス全員が担任の先生とともに神隠しに会うという事件が起こります。子どもたちの集団パニックと神隠し、それにちらほらと見える古藤結衣子の影は関係があるのか、あるとしたらどのように関係しているのか、という謎を追うミステリーは非常に興味深くドキドキしながら読み進みました。

が、しかし、これらの謎はまあ、おおよそはファンタジー的に解明されるのですが、そこまでの話の流れにそぐわないような納得しがたい結末が非常に残念です。ページ数の関係で話をぶった切ったのかと疑いたくなるほど、前後の繋がりが希薄で、謎を残したまま暗示的にフェードアウトする感じです。クライマックスまですごく面白かったのに、「え、これだけ?」というエンディングは腹立たしいですね。自分でエンディングを書き換えたいくらい(笑)


三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『六番目の小夜子』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)

神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

書評:恩田陸著、常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』(集英社e文庫)

書評:恩田陸著、『夜の底は柔らかな幻』上下 & 『終りなき夜に生れつく』(文春e-book)

学園もの

書評:恩田陸著、『ネバーランド』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

書評:恩田陸著、『雪月花黙示録』(角川文庫)

劇脚本風・演劇関連

書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『中庭の出来事』(新潮文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品

書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

短編集

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

書評:恩田陸著、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『上と外』上・下巻(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『ライオンハート』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(河出書房新社)

書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)