『夢違』は一度読んだような気がしたのですが、書評を書いていなかったので確信が持てず、内容も思い出せなかったので読んでみることにしました。そしてかなり後半まで読んでから、やっぱり読んだことがあると確信いたしました。当時書評を書かなかったのは忙しさに取り紛れてしまったか、または感想がまとまらなかったといった理由のような気がします。
夢が可視化できる時代、「獏」と呼ばれる夢を読み取る機械は日本では心理療法分野に特化して使用されていた―という設定は、面白い未来ファンタジーだと思います。主人公は「夢判断」を職業とする野田浩章という男性で、ある日この夢読み取り(夢札を引く)技術の初期から被験者として関わって来た予知夢を見る古藤結衣子という女性の幽霊を見るという体験をするところから物語が始まります。古藤結衣子は彼の兄の婚約者でしたが、予知夢の件で世間の注目を浴びてしまった後は浩章の方が兄よりもむしろ親しい関係にあったという少々複雑に絡んで抑制された恋愛感情が、この物語の根底に仄かに流れています。彼女は10年以上前に火災事故で亡くなったことになっている(死体が確認できなかったため)ので「幽霊」なのですが、浩章が彼女の幽霊を見た日に同僚との見に行った先で彼女とかかわりの深かったドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が不自然にリピートされていた、というこれからの物語の展開を暗示するような不思議な出来事があります。その後で次の仕事の話があり、全国で散発しているらしい小学生たち(常に一クラスのみの生徒たち)が「何かが教室に入ってきた」とパニックを起こし、その後一部の子たちが悪夢を見続けるという事件の当事者の子どもたちの夢札を見ることになります。子どもたちの夢から実際に何が起きたのかを分析しようという試みでしたが、謎は深まるばかりで、そうこうしているうちにある小学校の1クラス全員が担任の先生とともに神隠しに会うという事件が起こります。子どもたちの集団パニックと神隠し、それにちらほらと見える古藤結衣子の影は関係があるのか、あるとしたらどのように関係しているのか、という謎を追うミステリーは非常に興味深くドキドキしながら読み進みました。
が、しかし、これらの謎はまあ、おおよそはファンタジー的に解明されるのですが、そこまでの話の流れにそぐわないような納得しがたい結末が非常に残念です。ページ数の関係で話をぶった切ったのかと疑いたくなるほど、前後の繋がりが希薄で、謎を残したまま暗示的にフェードアウトする感じです。クライマックスまですごく面白かったのに、「え、これだけ?」というエンディングは腹立たしいですね。自分でエンディングを書き換えたいくらい(笑)