徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

2017年12月24日 | 書評ー小説:作者ア行

『チョコレートコスモス』は、小説版「ガラスの仮面」と言っても過言ではない作品かと思います。

北島マヤに相当する素人で毛色の変わった天才が佐々木飛鳥、姫川亜弓に相当する芸能一家のサラブレットで天才と評判の東響子と、キャラ構成に被るところはありますが、「マヤ、おそろしい子」のセリフで有名(?)なマヤを見出して演技指導をする月影先生的な役どころはありません。基本的に主要人物は女性二人と、女性二人の芝居の脚本を書くことになる脚本家・神谷の3人です。その3人の周りにそれぞれ味わい深い脇役が配されています。

最初この3人はまったくバラバラに描かれ、それぞれのエピソードの関連性がなかなか見えてこないのですが、話が進行する過程で「女性二人の芝居」のためのオーディションで三人の結びつきが見えてきます。このオーディションの劇中劇がこの小説の中核と言え、そのあたりが『ガラスの仮面』を想起させるエレメントとも言えます。

非常に力強い筆致で読者を引っ張っていく力はさすが、という感じがします。

脚本家・神谷と謎の少女・佐々木飛鳥の最初の出会い、というか神谷が一方的に飛鳥のすることを観察していただけなのですが、その謎めいた感じがミステリーのようにもファンタジーのようにも見え、どういう謎なのかと思ったら、演劇ものだったという、軽く騙された感覚を覚えなくもないです。

同じ劇中劇でも山本周五郎賞受賞作品の『中庭の出来事』のほうはもっとミステリー色が強かったですが、この作品は「演劇」のほうに重点があります。

さて、この文庫のあとがきで『チョコレートコスモス』の続篇なる『ダンデライオン』に言及されていたので、2011年に連載中だったのならばとっくに文庫が出ているのではないかと思い、しかし、恩田作品はまだ読み始めで網羅してないとはいえ、タイトルは全部見ている感覚があり、『ダンデライオン』を見た覚えがないことを不審に思って調べると、連載していた雑誌『本の時間』が廃刊となり、この作品もそのまま放置されているということが判明しました!OMG!

ファンにとって一番欲求不満になる嫌なパターンですね。『ガラスの仮面』も50巻が発売予告されて、それが取り消されてからもう数年経ちます。有川浩の「シアター!」の第3弾も出る気配ありません。(T_T)

というわけで、面白くはありましたが、作品として「一応」しか完成しておらず、むしろこれから本編が始まる前座のような印象があるため、不満の残る読書となりました。

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