徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:綾辻行人著、『人形館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

2018年12月17日 | 書評ー小説:作者ア行

『人形館の殺人』(1989、新装改訂版は2010年発行)は館シリーズの第4作ですが、先行3作品とは趣を異にしており、島田潔の大学時代の友人だという飛龍想一の一人称で語られます。飛龍想一の父高洋が亡くなり、彼の生前住んでいた京都の屋敷に叔母で育ての母である池尾沙和子と住むことになります。離れの洋館は「緑影荘」というアパートになっており、そこには管理人夫婦と3人の間借り人が住んでいます。父高洋は彫刻家でしたが、自宅ではマネキンを製作していたらしく、屋敷内にもアトリエにも一部の欠けたマネキンが置かれており、遺言によってそれらは動かしてはならないことになっていました。これらのマネキンが「人形館」の由来なわけですが、このシリーズでお馴染の奇矯な建築家中村青司の手掛けた家かどうかは不明です。

ストーリーは想一が、彼に過去の罪を思い出させようとする脅迫状を受取り、様々な嫌がらせ(マネキンに血のような赤絵具が塗られる、郵便受けにガラス片が入れられる、猫の死骸が庭に置かれるなど)を受けながら、自分の「過去の罪」とは何かを思い出そうとすることで進行していきます。想一以外入れないはずのアトリエが荒らされ、鍵をかけたはずの母屋の叔母の寝室の石油ストーブから出火して叔母が亡くなり、さらに想一の又従兄弟にあたるアパートの住人の一人が「密室」で殺されます(警察では「自殺」として処理)。これらのことすべてを行う脅迫者「—」とは誰なのか、それがこのミステリーの焦点です。

ご存知の方にはネタバレになってしまいますが、この作品は夢野久作の『ドグラ・マグラ』の系譜に連なるものですね。あまり好みでないタイプです。


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書評:綾辻行人著、『迷路館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

2018年12月17日 | 書評ー小説:作者ア行

『迷路館の殺人』(1988、新装改訂版は2009年発行)は館シリーズの第3作。先行2作品とは違って、この作品では「迷路館」で起きた実話をもとにした小説『迷路館の殺人』が島田に謹呈され、島田がこれを読むという作中作の構成になっています。この小説の作者は鹿谷門実(ししやかどみ)となっており、作中にも名前を変えて登場すると宣言しているので、作中作で繰り広げられる連続殺人の犯人とトリック探しの他に、この鹿谷門実が誰かという謎解きが加わり、非常に凝った構成になっています。

作中作の『迷路館の殺人』では、引退して迷路館に引きこもった推理作家宮垣葉太郎(60)が若手推理作家4人、評論家1人、編集者1人とその妻およびファン1人(島田潔)を1987年4月1日の還暦祝いパーティーに招きます。招待者らが到着した後しばらくして、宮垣の秘書から宮垣が自殺を図ったことが知らされ、遺言が公開されます。その遺言とは、十数億円に及ぶ彼の遺産の半分を彼の名を冠した文学賞の創設に回し、後の半分を招かれた4人の作家のうちの一人に相続させるというもので、そのために推理小説コンテストを行い、作家らは5日間のうちに四百字詰め原稿用紙百枚程度に迷路館を舞台にした推理小説を書き、それ以外の招待客がこれらの作品を審査して相続人を決定する、というものでした。そして、相続人が決定するまで館外に出ることは禁じられ、もし出た場合はコンテスト自体が中止となり、遺言は無効になるという制約がつきます。こうして迷路館に閉じ込められる事態となった後に作家らが次々と殺害されることになります。この作中作では典型的な「バールストン先攻法(ギャンビット)」が使用されているため、大筋は簡単に読めますが、舞台が今は亡き奇矯な建築家中村青司の建てた地下迷路のある館(地上階はない)であるため、カラクリの存在は想像できても、実際にどんなカラクリかは分からないのでワクワクしながら読めます。また、迷路館の部屋がギリシャ神話のミノタウロス関係者に因んで名づけられているところも雰囲気満点です。

どんでん返しが来るのはこの作中作『迷路館の殺人』が終わった後で、「やられた!」と思わずにはいられませんでした。鹿谷門実が誰かが明かされるばかりでなく、作中に仕込まれたある意図も明らかにされ、唖然としてしまいました。作中作構成にした意味がここにあったのかと納得のいく結末でした。


書評:綾辻行人著、『十角館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

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