徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

2017年11月08日 | 書評ー小説:作者ア行

また夜更しをして『きのうの世界』上・下巻を一気読みしてしまいました。

この作品はミステリータッチですが、2人称「あなた」で語られるところが変わっています。下巻でこの「あなた」が誰なのかが明かされ、それ以降「あなた」で語られることはなくなります。

上司の送別会から忽然と姿を消した一人の男・市川吾郎は、一年後の寒い朝に遠く離れた塔と水路のある、小さな町の外れの「水無月橋」で死んでいました。凶器は見つからないものの「水無月殺人事件」として捜査されます。これが解くべき謎の一つ。

さらなる謎は市川吾郎の失踪の理由と死亡までの足取り。彼は測量士のまねごとをしつつ、住民もよく知らない三つある塔の由来と水路について調べていたようですが、その由来とは?

その謎めいた町で様々なパズルのピースのような小さい事件が起き、最終的にパズルが完成していくように物語が進行します。時間軸が少し前後したりしますが、入れ子構造のように複雑ではないので、視点の変化に戸惑うことはないと思います。

塔と関係する旧家・新村家とその家系の人の持つ特殊能力は、『常野』シリーズの常野一族に通ずる不思議さが漂っています。「水無月殺人事件」の謎は理論的解決がなく、不思議な解説だけが提示されるので、探偵的な話運びとオチを期待しているとがっかりするかもしれません。

最後に解き明かされる町の塔と水路の謎は非常に興味深い仕掛けで、それだけでも面白いと思います。

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