徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:村田沙耶香著、『授乳』(講談社文庫)~第46回群像新人文学賞優秀作受賞

2018年12月08日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

芥川賞受賞作『コンビニ人間』でこの作家に興味を持ち、何冊か適当に買っておいた中の最後の一冊がこの『授乳』でした。立て続けに読むにはかなり疲れる世界観が展開されるため、数か月放置してました。

この本には表題作のほか『コイビト』、『御伽の部屋』の2作が収録されています。

『授乳』は高校受験を控えた「私」のもとにやって来た家庭教師の「先生」との間の危うい関係を描く物語です。「危うい関係」と言ってもそこには恋愛的要素は一切なく、「私」の思春期的好奇心や嗜虐心が前面に出ており、「先生」が「生きてて済みません」的な自我の弱い人物で彼女の要求に諾々と応えるのと対照的です。潔癖症で少女のようなところがある母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父に向ける観察眼は鋭く、また「先生」に対して自分が優位に立てることを敏感に察知して彼を自分の「ゲーム」に引き込んで支配下に置くところなど、思春期の女の子の怖さが凄い説得力を持って浮き彫りにされるような作品です。

『コイビト』はぬいぐるみを心のよりどころとする大学生の女子が同じくぬいぐるみをコイビトとする小学生の女の子に偶然に出会い、彼女の常軌を逸した行動を観察しながら自分の行動の奇異さに気づき、嫌悪感を抱いていくストーリーです。

ぬいぐるみが好きな人はたくさんいるでしょうし、私自身も好きで結構たくさん持っていますが、ここに登場する二人はぬいぐるみ全般が好きなのではなく、たった1つのぬいぐるみに異様なほど執着し、それ以外の「外の世界」には基本的に興味を示さず、唯一無二のぬいぐるみの恋人と閉ざされた世界を形成するのが特徴的です。こういう行動は小学生としてもやはりかなり常軌を逸していると思います。自閉症スペクトラム障害の一種でしょうか。主人公はそういった自分から卒業するために彼女が長年愛し、拠り所としてきた「ホシオ」を窓から放り投げてしまいますが、それを見ていた小学生の美佐子が「そんなことしても、ぜったいに、ソレがなくちゃお姉ちゃんは生きられないんだよ」「ソレは形を変えて、必ず、お姉ちゃんの中からもう一匹生まれて来るよ。何度捨てたって、必ず、きのこみたいににょきにょき、生えてくるんだよ」と予言めいたことを言うのが、たぶんかなり的を得ていて印象的です。強迫神経症などでは、こだわる対象が一つ無くなったとしても実際に形を変えて別のこだわりが生じることがよくあるので、この特殊なぬいぐるみ依存症にも似たようなことが言えるのかなと思いました。

『御伽の部屋』は、大学2年の佐々木ゆきが貧血と熱射病で倒れたところを助けられた縁で同じ年の関口要二と親しく(?)なっていく話なんですが、やはりここでも恋愛感情は一切介在していなくて、性的な関係もゼロ。関口要二の潔癖症的に整ったマンションの一室で双方が決まった「役割」を演じ合って二人しかいない閉ざされた非日常の空間と時間を楽しむという関係のようです。しばらくはこの現実感の乏しい関係が安定的に継続しますが、ある日要二の友達ケンがマンションに遊びに来たことによって少しずつずれが生じて行きます。主人公のゆきがどんどん現実とのつながりを失い、究極のナルシズムの中に引きこもる過程が描かれているように見受けられます。

どれも共感できるようなストーリーや世界観ではないので、物珍しく興味深いとは思ってもファンにはなれないと思いました。やはりこの主人公たちの「閉ざされた」関係や世界が醸し出す閉塞感が、やや不快感を催すというか。。。何冊か読んでみて「もういいわ」という感じです。


書評:村田紗耶香著『コンビニ人間』(文春e₋Book)~第155回芥川賞受賞作

書評:村田紗耶香著、『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』(マガジンハウス)

書評:村田紗耶香著、『殺人出産』(講談社文庫)


CVポートよ、さようなら(がん闘病記28)

2018年12月08日 | 健康

抗がん剤治療の終了から11月末で1年経ち、CTや超音波検査で再発の気配が見えないため、がん専門医と相談の上、抗がん剤治療のために埋め込んだCVポートを除去することになりました。CVポートの埋め込み手術を受けたマルテーザー病院で除去することに決め、手術日は12月6日と割ととんとん拍子に決まりました。朝7時半に病院の外科ステーションに来るように言われていたので、普段そんなに早起きしない私は結構苦労して時間通りに行ったのですが、看護師さんたちは患者さんたちを次から次へと手術階に運ぶことに忙しく、30分以上待たされました。それなら最初から8時と言ってくれてもよかったのに。。。という不満はさておき、8時過ぎに前掛けを大きくしたような病院服と手術中に着用する下着を渡され、名前と生年月日とバーコードが印刷された腕輪をつけられて病室に案内され、着替えを済まして8時20分くらいに手術階に運ばれました。

受付から手術階に運ばれるまではあっという間でしたが、そこから実際に手術室に入るまでかなり待たされました。通常であればこの待ち時間中に麻酔医が来て血圧計を装着したり、麻酔の準備をしたりするのですが、今回は局部麻酔で手術を受けることになっていたため、そういう準備もなく9時過ぎまで手術控室に転がされたまま放置されてました。9時20分頃にようやく執刀医が顔を出し、看護師さんたちが私を手術室に運んで、消毒などの準備を行い、患部を除いた全身にブルーシートを覆いかぶせ、私の視界が遮られたところで局部麻酔開始。ブルーシート越しの対話という奇妙な体験をさせてもらいました。「対話」と言っても私の方は痛みがあったら「痛い」と言うだけで、主に執刀医が次に何をするか(「麻酔の針を刺しますよ。ちくっとしますよ」とか、「電気メス使うので、変な音と臭いがしますよ」とか)を宣言するという感じなのですが。まあ、基本的には歯医者で抜歯や歯根治療を受けるのと大して変わりません。

執刀医が「ポートがちょっと深い位置にあって、細胞組織に結構取り込まれてるので手間がかかるけど、もうすぐ終わるから大丈夫だよ」などと状況説明をしてくれ、私が心配しないように気遣ってくれていたのは良かったですね。そんな中で、手術室の外から「まだかかる?」なんて聞いてくる人がいて、執刀医が「いや、いま縫合してるから、もうすぐ」なんて答えてて、なんか随分と緊張感がない印象を受けました。まあ、CVポートの取出しは埋め込みよりもずっと簡単な手術だからというのもあるのでしょうけど。手術台のブレーキがどこにあるか分からないような新米の看護師さんも配属されていましたし(笑)
そして手術が終わって病室に戻されたら、10時になってました。

こんな(下の写真)ドレーンをつけられてました。

病室には、朝食パッケージが用意されてて、それ食べてちょっと待ってろということだったんでしょうけど、なんか食欲のわくようなものでは…(笑)

朝から何も食べてなかったので、ひと心地着いてからサンドイッチとリンゴジュースは頂きました。

11時半くらいに執刀医が様子を見に来て、退院許可が出たので、治療報告書や就労不能証明書を外科ステーションの受付で受け取って、旦那に迎えに来てもらい、12時ちょっと前に退院することができました。ドレーンをつけたまま帰宅というのがちょっとショックではありましたが。

このドレーンを取ってもらうために翌朝8時15分に「選択的外来(Elektiv-Ambulanz)」に来るように言われ、あーまた朝早いのやだなーと思いつつ帰宅しました。

寝てる間にドレーンにくっついている廃液バッグが取れたり潰れたりしないかちょっと心配だったのですが、そういう問題もなく、普通に廃液が溜まってました。

それで時間通りに指定された場所へ行き、ほとんど待つことなく診察室へ通されたのは良かったものの、執刀医が急な手術で来られず、代理の先生が来るまで結構待たされました。30分くらい待ってようやく代理の先生が来て、軽く診察し、あっという間にドレーンを抜き取り、今後の指示を出して終了。その間10分くらいだったでしょうか。2週間はお風呂やサウナ禁止、というのは予想してましたけど、実際にそう宣言されるとやはりいやな気分になるものですね。

でもこれで体内の異物が取れたことはよかったです。もう二度と必要にならないことを願います。


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

放射線治療の経過(がん闘病記20)

放射線治療半分終了~副作用キター!(がん闘病記21)

直線加速器メンテナンスのため別病院で放射線照射(がん闘病記22)

放射線治療終了(がん闘病記23)

段階的復職~ハンブルク・モデル(がん闘病記24)

経過観察(がん闘病記25)

抗がん剤治療終了半年後のCT撮影(がん闘病記26)

抗がん剤治療終了9か月後の超音波検査(がん闘病記27)

リウマチ性関節炎の記録