徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

2018年02月15日 | 書評ー小説:作者ア行

『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』は二・二六事件と時間遡行を組み合わせたSF小説。時間遡行装置の発明により、過去に介入した国連は、歴史を大きくねじ曲げたことによって、人類絶滅の危機を招いてしまい、その悲惨な未来を回避するために、もう一度、過去を修復してやり直そうとします。その介入ポイントとして選ばれたのが1936年2月26日、東京「二・二六事件」の早朝。史実にかかわる人物3人がその修復の使命を負うことになります。しかし、そのうちの一人である安藤大尉を殺そうとしている「侵入者」またはハッカーが居るらしく、歴史再生と確定という事務作業(?)に一気に不穏さが加わります。

ストーリーは何重もの入れ子構造のように複雑なので、少々疲れますが、文句なしに面白いです。事前にコンピュータ『シンデレラの靴』に読み込まれた史実データとの「不一致」が出るとリセットして、ある時点からやり直しにすることができるという設定も面白いですが、リセットされる際にかかる体への負荷の描写もなかなか臨場感があっていいです。

また、一つのホロコーストをなくそうとしたら100のホロコーストが起こったという国連の歴史介入の失敗例も興味深いですね。国連が二・二六事件に介入する目的が明かされるのはかなり後の方ですが、結局果たされずに史実通りになったという結論は予定調和みたいな感じがします。

もし、タイムマシンがあって過去に遡ってやり直せるのなら、人は自分の過去のどこかの時点に戻って、自分の行動の何かを変えようとすると思いますが、それがもし人類の中でただ一人時間を1回限り遡って歴史を変えることができるとしたら、一体どの時点の何に介入するべきか、と問われたらどうでしょうか?

私は「介入しない」がやはり唯一の正解なのではないかと思います。それを示唆するのが作中の国連の失敗例「一つのホロコーストをなくそうとしたら100のホロコーストが起こった」だと思うのです。

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