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書評:綾辻行人著、『びっくり館の殺人』(講談社文庫)

2018年12月25日 | 書評ー小説:作者ア行

館シリーズの第8弾『びっくり館の殺人』(2006年、文庫は2010年発行)は「かつて子どもだったあなたと少年少女のために」と銘打って【少年少女向けの】ミステリーランドのために書かれた小説なだけあって、大人でも読めるとはいえ、やはり言葉使い・かな使いはもとより、プロットやトリックもやや単純です。また、回想部分の主人公「僕」が小学6年生であることも感情移入しにくい要因になっています。

主人公は大学生の永沢三知也で、ある日本屋で鹿谷門実の『迷路館の殺人』を手に取り、その中で言及されている建築家・中村青司と彼が関わった館について読んだことから、自分の少年時代に体験した「びっくり館」での出来事を回想します。1994年、当時小学6年生だった三知也は、いろんな噂の飛び交う兵庫県A**市六花町にある「びっくり館」に興味を持って覗きに行った際に、びっくり館に住む病弱であまり学校に行けないという少年・古屋敷俊生と友だちになり、誕生日には寄木細工のカラクリ箱を貰い、苦労して開けると、中には「Help us」と書かれた紙が入っていました。その意味するところは?

また俊生の誕生日には、彼の祖父・龍平(71)から屋敷の成り立ちやそこで起きた殺人事件などについてリリカと呼ばれるからくり人形を使った腹話術による「びっくり館縁起」というショーで知ることになります。2年前に母親に殺された俊生の姉・リリカは「悪魔の子」だったという。母親の精神錯乱によるものだけ?

クリスマスに招かれて行くと、祖父・龍平は「リリカの部屋」と呼ばれるびっくり箱の棚や隠し扉の仕掛けのある部屋で殺されており、その現場は「密室」でした。一緒に来ていた俊生の家庭教師・新名努とクラスメートの湖山あおいと相談して「対応」しますが、彼らのしたこととは?そして十数年ぶりに訪れたびっくり館で三知也が見たものとは?

密室殺人自体には複雑なトリックなどなく、語り方・レトリックによって「謎」が形成されているに過ぎません。そして締めくくりはホラー風です。そのへんがなんだか「子供騙し」な感じです。

暗黒館の殺人』同様、この作品でも島田潔こと推理作家・鹿谷門実の出番はほとんどありません。三知也少年が丘の上の公園からびっくり館の様子を見ている時、びっくり館をだめもとで訪ねた断られたという鹿谷門実に出会います。三知也少年にとってはただの「怪しいおじさん」でしたが、十数年後に手に取った『迷路館の殺人』の著者近影を見て、彼の正体を認識することになります。館シリーズはあくまでも中村青司の館たちが主体であり、素人探偵兼推理作家の島田潔こと鹿谷門実は主役ではないということでしょうかね。

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