徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

2018年02月25日 | 書評ー小説:作者ア行

『夏の名残りの薔薇』というタイトルは、Heinrich Wilhelm Ernstのバイオリン変奏曲から拝借したそうです。元はアイルランド民謡で、英語のタイトルは「The last rose of Summer」で、かなりシンプルでロマンチックな美しいメロディーライン(歌詞はThomas Moore)ですが、その主旋律を様々にバリエーションさせたものがエルンストのバイオリン変奏曲で、YouTubeでなんと若き日の五嶋みどりさんの演奏が見つかりました。

著者はエルンストのバイオリン変奏曲を念頭に置いているため、章も「主題」、「第一変奏」、「第二変奏」...と名付けられ、山奥のホテルを貸切って沢渡三姉妹が催す毎年恒例の豪華パーティーで起こった出来事が複数の人の視点で描かれており、視点が異なるばかりでなく、語られる出来事も微妙に食い違っています。不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きるのですが、変死する人物が毎回変わるので、どれが真実なのか分からない不気味さがあります。

そのメインの変奏曲に『去年マリエンバートで(L'Année dernière à Marienbad)』という映画とその原作アラン・ロブ=グリエからの引用がDNAの二重らせん構造のように絡まり、独特の雰囲気を醸し出しています。これは記憶の改竄?デジャヴュ?思い込み?嘘?種明かしが最後にされているという点では「閉じている」お話ではあるのですが、何が本当に起こったのかはっきりしない点では閉じていないお話です。

巻末には杉江松恋氏による評論とインタビューも収録されています。

インタビューで恩田氏は「年間200冊しか本を読んでいない」ことを強調しているのですが、一般人にとっては「200冊」ではないでしょうか。私もこの半年くらいは療養生活だったためかなりの読書量でしたが、100冊行くかどうか怪しい所です。マンガも含めればもちろん100冊を超えるでしょうけど(笑)

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